第31話 明光の楔

 ~~大我side~~



 気がつくと、俺はベッドの上にいた。


「あー、驚いた。まさかシュバイツァーと俺の身体が入れ替わっていたなんてな」


 突然の出来事でまだ心臓がバクバクしている。

 シュバイツァーは元に戻すことを希望していたが、とんでもない話だ。

 現代日本なんて、誰にどんなに頼まれてもお断りだ。


「そういえばシュバイツァーの奴、最後になんか言ってたな。小指がどうとか」


 よく聞き取れなかったが、まあいい。

 どうせ大した話ではないだろう。


 それよりゲレイロへの尋問である。

 あの魔女王が敵の総大将となったとあっては、さすがの魔王もピンチかもしれない。


 尋問の前に食事をしようと大食堂に行くと、ゲレイロが椅子に座り食事をしていた。


「おいゲレイロ! なんで捕虜のお前がこんなところで食事をしてるんだ!」


 ゲレイロはチラリとこちらを見ただけで、なにも言わず黙々と食事を続けていた。

 いったい何が起きてるんだ?


「私が牢獄から出しました」


「カレンが!? いったいなぜ……こいつは捕虜だぞ?」


「捕虜の方にも尊厳はあります。それにタイガさんは魔族と人類の共存を願っているじゃないですか。だからゲレイロさんも人と変わらないよう、接したいんです」


「気持ちは分からなくもないが、ゲレイロは危険な奴だ。牢獄にいれないはおろか、束縛もしてなかったら、いつ暴れだすか分からない」


 子どもの頃から飼育している猛獣でさえ襲ってくるというのに、敵愾心むき出しの魔族を野放しにするなんてあり得ない。


「その点は大丈夫です。ゲレイロさんの体内に『明光の楔』を打ち込みましたから」


「明光の楔?」


「はい。万が一ゲレイロさんが私の信頼を裏切って人を襲い始めたら、自然的に体内でその楔が爆発するんです。だから安全です」


 なにその怖い手なづけ方法……

 よく見るとゲレイロはさっきからずっと恐怖で小刻みに震えていた。

 なんだかちょっと可哀想に思えてきた。


「さてゲレイロ。早速だが、現在の魔族の状況を教えてもらおうか?」


「そんなこと言うわけないでしょう? 私はあなたと違い、人間のペットになり下がるつもりはありません」


「あっそ。カレン、爆発させていいよ」


「ちょ、ちょっと待て! 汚いぞ!」


「ダメですよ、タイガさま。そんな脅して自白させるために明光の楔は使いません」


「もったいない。脅して吐かせた方が手っ取り早いだろ」


「魔族と人間は手を取り合って生きていくんです。非道徳的なことはしません。互いが信頼し合うためには、まずはこちらから誠意を見せる必要があるんです」


 カレンは聖女らしいことを言って微笑むが、大前提としてゲレイロに恐怖の爆弾を埋め込んだのは彼女自身である。


「お前ら第三部隊が攻めてきたということは、本陣もまもなくどこかに攻めるということか?」


「……俺はもう、第三部隊の隊長ではない」


 ゲレイロは苦々しげにそう吐き出した。


「え? まさか第二部隊に昇格したのか?」


 そう問い掛けると、悔しそうに首を横に振った。


「俺はただの先遣隊の隊長だ」


「先遣隊!? それってつまり」


「突撃するだけの捨て駒だ」


「嘘だろ!? ゲレイロほどの腕のものが!?」


「魔女王さまに変わってから、人事の見直しがあった。それで俺は幹部から外され、捨て駒部隊に飛ばされたんだ」


 ゲレイロはギロッと俺を睨む。


「あんたなんか信じてついていったせいでこの様だ! あんたの信頼した部下はみんな左遷された!」


「マジか……」


 衝撃の事実だった。

 俺のせいで不幸になった奴がいたとは、想像してなかった。


「あの……イザベラは怒ってるのか?」


「そりゃもう。大激怒ですね」


「うわー……」


「イザベラって、あの魔女の方ですよね」


 カレンが訊ねてくる。


「ああ、そうだ。恐ろしい奴でな」


 ゲレイロがニヤリと笑い、俺を見る。


「イザベラさまが言っていたこと、そのまま伝えてやる。『あーしを捨てて人間のとこに行くとか、マジあり得ないし! しかも天空の聖女とかいう女と仲良くしてるなんてサイテー! 絶対許さないから!』だそうだ」


「うわー……」


 そう。

 語り口調から分かる通り、イザベラはギャルだ。

 オタクが一番苦手とする人種である。


 当然俺はゲームでプレイしていた頃から好きではなかった。


「なんか、感じの悪い方ですね」


 カレンも珍しく不快を露にしていた。


「今や魔族軍幹部はイザベラさまのお気に入りで固められている。今さら戻っても、魔王さまに居場所はないだろうな」


 ゲレイロは卑屈に笑う。


「だったらなおさらお前も俺たちの仲間になれ」


「は? ありえん。俺は誇り高き魔族だ。人間のペットなどになるか!」


「でも人間の捕虜になったなんて知れたら、それこそお前の居場所はないぞ」


「そ、それは……」


「安心しろ。こちらには無敵の魔王さまがついているんだからな」


「そうですよ、ゲレイロさん。共に人と魔族の共存を模索していきましょう!」


 カレンは身を輝かせてゲレイロの顔を覗き込む。


 まあ、魔族と共存といっても、イザベラは絶対に従わないだろうけど。




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 リアルタイムで呼んでくださってる方は大晦日ですね!


 今年も一年、ありがとうございました!

 来年もよろしくお願い致します!


 新年はもちろん1日からの更新です!

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