第46話 魔王対前魔王

 ここは一旦引いたほうがいい。


 俺は残りの体力を振り絞り、一気に舞い上がってヴァッゾーラから逃げ出した。

 しかし見えない壁に阻まれて進めなかった。


「敵前逃亡とは情けない。残念だが結界を張っておる。貴様はここから逃げられない」


「そんなっ……」


「千年の恨み、そう簡単には終わらせないぞ」 


 ヴァッゾーラは髭の一部を切り、風に飛ばす。

 するとその髭の一本づつが小さな竜へと変化する。


「さあ、わが竜に殺されるがいい!」


「マジかよ!?」



 ──

 ────



 驚くべきことにヴァッゾーラとの戦いは三日目に突入した。


 ずっと戦い続けるのは厳しいので時には隠れて回復をしたが、すぐに見つかってしまうのであまり休憩もできない。


 だが三日目戦い続けることで、分かってきたこともある。

 ヴァッゾーラは攻撃を仕掛ける際、少し隙が出来るということだ。

 とはいえそれほど大きな隙ではないので、その間に反撃できるというほどではない。

 相手の呪文に合わせてこちらも呪文を放ち、相殺するのが精一杯である。


 またヴァッゾーラは意図的に原住民族の集落と離れて戦うようにしていることにも気づいた。

 恐らく我々の戦いにあの人たちを巻き込まないようにしているのだろう。 


 それを逆手に取れば、ヴァッゾーラに一撃を加えることは出来るかもしれない。

 しかしそれは原住民族の人たちを危険に晒すことにもなる。


「どうした? 逃げてばかりでは勝てないぞ」


 空に浮き上がりながら俺達は対峙している。

 さすがのヴァッゾーラも疲労の様子が伺えた。


 彼のやや左手に原住民族の集落がある。

 集落に攻撃すれば慌ててその対応をするだろう。

 その隙にヴァッゾーラに攻撃をすれば、それなりのダメージは与えられるかもしれない。

 でもっ──


「どうした? 死を覚悟したか?」


 ヴァッゾーラがこちらに飛び掛かってくる。


「うおおおおおおおっ!」


 拳を振り上げてヴァッゾーラに突撃する。

 俺の捨て身の攻撃にも焦らず、ヴァッゾーラは冷静に上へと回避した。


 よし、予想通りだっ……


 くるっと反転し、頭上のヴァッゾーラに向けて残りの力を振り絞った魔法を放つ。


爆轟雷バーストサンダーっ!」


「なにっ!?」


 津波のような稲妻がヴァッゾーラに襲いかかる。


「ぐあああっ‼」


 渾身の一撃はさすがに効いたようだ。

 稲妻に飲み込まれたヴァッゾーラは宙を転がりまわっていた。


「なかなかやるじゃないか、タイガ」


 背後から声が聞こえ、ビクッと振り返る。


「ヴァ、ヴァッゾーラ……なぜっ……」


「貴様が攻撃したのは、わしの分身じゃ。残念だったな」


「そんなっ……」


漆黒圧力ダークプレッシャー!」


「うわっ!?」


 急に身体が重くなり、そのまま地面へと墜落する。 

 まるで重力が十倍になったかのような身体が重かった。


 身動きが取れない俺のもとに、ヴァッゾーラがスーッと降りてくる。


「不様だな」


「ふざけるな! 俺はまだ負けていない!」


「なぜさっきで原住民族の集落を攻撃しなかった?」


 ヴァッゾーラは厳しい目のまま問い掛けてくる。


「え?」


「もう気付いていたのだろう? わしがあの集落を守りながら戦っていたことは」


「それは、まあ……」


「集落を攻撃すれば、守ろうとするわしに隙が生まれたはずだ。なぜそうしなかった?」


「俺は人と魔族の共存のために戦っている。それなのに人を危険にさらしたら本末転倒だろう」

 

「なるほど……噂は本当だったのか」


 そのときヴァッゾーラがはじめて笑った。

 ほんの少し口元を緩め、眉根を下げる程度の微笑ではあったけど。


「原住民族は人間たちの間ですら差別されている。その原住民族すら人として守るという貴様の信念、気に入った」 


「そ、そりゃどうも」


「貴様、シュバイツァーではないな? いや、肉体はシュバイツァーだが、中身が入れ替わっておる。違うか?」


「なぜそれをっ!?」


 誰にも気づかれなかった入れ替わりを見抜かれ、正直焦った。


「見くびるな。これでもわしはシュバイツァーの師匠だ。それくらい分かる」


 ヴァッゾーラは俺にヒーリングの魔法をかけ始める。


「な、なにを!?」


「シュバイツァーでないなら復讐しても仕方あるまい。望み通り鍛えてやる」


「ヴァッゾーラ卿っ……」


「勘違いするな。修行に耐えられなかったらお主は死ぬ。覚悟しろ」


「は、はい……」


 ヴァッゾーラはニヤリと笑う。

 今度は先程よりはっきりと分かる笑顔であった。



 ─────────────────────



 さすが師匠には偽物が本物か分かるんですね!

 激しい特訓に耐えられるのでしょうか?


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