第37話 あぁ……ダメだ。もう止まれない。




 コンコン…



 「ぐかっ!!」



 やべ、寝てた。



 ガチャ。




 「お邪魔しまーす」

 「!!!!!!」

 


 柚葉が当たり前のようにドアを開けて入ってくる。




 「私のお胸を触ってしまった破廉恥なセクハラ君の小柳隼人くーーん♡」

 「………………」

 「今日は何しようか?」

 「え?何ともないの?」

 「ん?何が?」

 「え……いや、だって……お前の言う通り、俺……お前のおっぱいを触ったんだぞ?」

 「おっぱいとか言わないでよ。言い方に品がなーい(笑)」

 「ごめん……」

 「……………別に何とも思ってないよ」

 「え?」

 「あれは事故でしょ?ただの不可抗力だった。だから別に何とも思ってないよ?」

 「……………そっか」



 それはそれでなんか…………。



 「隼人」

 「ん?」

 「それじゃあ今日は何して遊ぶ?」

 「え…………何して………何がある?」

 「えーと………んーーーー…………思いつかないな」

 「…………それじゃあ今日は………」

 「あのさー」

 「ん?」

 



 柚葉が何やら言い出そうとしていた。




 「………………」



 でも言い淀む。



 「どうしたんだよ?」

 「…………隼人が今日は決めてよ」

 「え…………」

 「隼人がしたいことに付き合うから」

 「………………」



 柚葉がこんな事を言うのは……やっぱネタ切れになってきてるみたいだな………。



 「なんでもいいの?」

 「なんでもいい。隼人がしたいって言うことを一緒にやるよ」

 「………………」

 「思いつかないんだったらいつものようにダラダラでもいいよ?」

 「ダラダラって?」

 「そりゃあ………普通にダラけるだけみたいな」

 「…………何だそれ(笑)」



 でも俺のやりたいことか……いざ考えてみたら思いつかないもんだな……。




 「決まったら教えてねー」



 柚葉はそう言って俺の寝室にある漫画を読み始めた。コイツ……なんか俺の寝室を自分の寝室のようにくつろぐ姿は見慣れたな。



 「………………」

 


 俺はふと考える。



 何がしたいか………そんなの………、






 「何でもいいわ」



 俺はふと声に出していた。



 「え?」

 「何でもいいよ」

 「」

 「柚葉と一緒にいられるんだったら俺は何しててもいいや」

 「え………」

 「……………もう遠回しにすんのもやめるわ」

 「」

 「俺と柚葉が出会ったのっていつだったっけ?」

 「え?」

 「思い出してよ」

 「…………幼稚園の頃だよね」



 そう。



 「俺……いじめられてたよな」

 「それを私が助けたんだっけ(笑)?」

 「情けないがその通り」

 「何かお漏らししてだっけ?」

 「言うな言うな………塞ぎ込みそうになる」

 「ごめんごめん(笑)」



 

 柚葉との出会いはその頃だ。その頃から柚葉はずっとわんぱくだった。




 「それで柚葉がカッコよく見えたんだよな」

 「そうだったんだ?」

 「ま、まぁな………恥ずかしいけどよ」

 「…………それを言ったら私もその時ぐらいから隼人に興味を持ってたよ?」

 「え?何で?」

 「ほら、幼稚園の頃はよくシャボン玉吹いてたでしょ?覚えてる?」

 「……………ん…………ん?」

 「ともかく吹いてたんだよ」

 「うそうそ(笑)覚えてるよ。確かに吹いてたな」



 よく幼稚園生の時は吹いて遊んでいたな……。



 「その時さ……、よく他の子達は割ったり、追いかけたりとか、はしゃぎまくってたのに隼人はじっと見てたでしょ?」

 「…………よく覚えてんな」

 「だって、隼人が"見惚れてた"んだもん」

 「え」

 「シャボン玉が普通に飛んでるのを普通に見つめていた」

 「………………」

 「私はその姿に少し魅了されたんだよね………」

 「え?」

 「やっぱり普通なことをしたいって思わないじゃん?小さい頃は尚更に静かであっても目立ちたいって気持ちはあるじゃん?」

 「……………そうか?」

 「あーごめん。なんか上手く説明できないや」

 「…………でも何で魅力されたの?」

 「だって………大人だなって思えたから」

 「」

 「カッコつけてるとかそういうのじゃなくてただただ、シャボン玉に感動していた」

 「……………」




 自分のガキの頃のことなんてもう覚えてないや。でも確かに俺は普通のことで感動していた。



 花火やバルーンアート、夜空の星、花にとまる綺麗な鳳蝶、そんな自分が綺麗だなと思えることにはいつだってじっと見て感動していた記憶はある……つーか今もだな。



 だから俺は普通なんだな。特に目立ちたいとかオタクになるほどはまって特定のものとかに入れ込むとか、そんなことはないな。趣味という物がないんだよな……。漫画やアニメ、テレビ番組、ゲーム、食べること、旅行、スポーツ………全部が俺からしたら同じくらいの比率なんだよな。





 だから……不登校になった……。




 「だから……私は隼人がカッコいいって思えた」

 「」




 柚葉はそう俺の目を見て答える。




 「何でだよ?」

 「だって、普通に感動できてるってことはそれが自分の素の部分ってことでしょ?」

 「…………まぁ」

 「そうやって自分の好きなことを人前で出せていたんじゃん?」

 「…………そりゃあ幼児期はみんなそうじゃね?」

 「そうかな?…………わたしは目立ちたいとかカッコつけたいとかって事ばかり考えてたと思う」

 「人それぞれだろ」

 「そうだね………だからだよ」

 「え………」

 「だから隼人の素がとてもカッコいいと思えたんだよ」

 「」

 「"おねしょ"しようが、何しようが自分の素を隠す事はなかった」

 「…………」

 「素直な自分を貫いているからでしょ?」

 「…………」

 「私は素直じゃない。常に周りの顔を見て生活している。"自分は悪く思われていないか?"、"嫌われていないか?"そんなことばかり考えて生きているどうしようもない人間」

 「」

 「そんな人の顔色を伺って生きている私は………ただの弱虫だよ」






 「ふざけるな」






 「」



 俺は思わず声を出していた。



 「何が普通がカッコいいだよ……バカにしてんのかよ」



 やめろ…。



 「お前は俺の何を知ってるって言うんだよ」



 やめろ俺。



 「お前は俺が何で今の現状になったのか知らないのかよ?」




 やめてくれ。




 「今までの俺が……俺と言う存在がダメだからこうなったんだよ!!!!」

 



 ダメだ。止まれない……。




 「柚葉。俺はお前に嫉妬しているよ」

 「」

 「何でお前はそんなに変わっているのに恵まれてるんだよ?」

 


 俺はもう突き進んでいた。



 「どうしてだよ!!どうしてそんなバカなとこがあって、抜けてて、ウザいとこもあって、いつも笑ってて、泣き顔も見せないで、優しいのに……どうして……どうしていろんな性格がごっちゃになりまくってて扱いにめんどくさくなるくらいのやつなのに……どうして………みんなから好かれるんだよ?」

 「」

 「………羨ましいんだよ………だから……」

 「」







 「柚葉のことが羨ましいと同時に好きなんだよ」







 あぁ……ダメだ。もう止まれない。

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