第56話 ずっと一緒にいてほしいって"私も"思えるのはさ



 「それじゃあもう一度」

 


 柚葉は手を出す。



 「あいこが後何回続いたらドローにする?」

 「え?んーー……じゃあ5回続いたらドローで2人とも一発ギャグね」

 「分かった」



 と言うことで俺達はジャンケンを再び開始した。



 「「…………」」



 結果。



 1度目で俺が負けた。



 「しっ!!!!」



 柚葉が嬉しそうに拳を握りしめる。



 「何だよ。負けたわ」

 「それじゃあ一発ギャグねー」

 「……………何があるかな……」

 


 俺は寝室中を見渡す。



 「あ」



 俺はあるものを見かける。



 「ん?なんかあった?」

 「良いの見つけた」

 


 そう言って俺はクローゼットにしまってあったあるものを取り出す。



 「これは丁度良いかも」

 


 そう俺は手に持ちながら言う。



 「え……バドミントンのラケット?」

 「そうだ」

 


 柚葉がそう言うように俺が手に取ったのはそのラケットだ。



 「え……ラケットの網の面を顔に向けて審判かキャッチャーの真似とかしたら流石に怒るからね?」

 「舐めんな。んなことするか」

 「じゃあ、何を?」

 「言ったらつまんねーだろ。今やるから」

 


 そして俺はラケットを持って構える。



 「ワクワク♬ワクワク♬」

 「いやそんな楽しみにされても困るから声に出さないでくんね?」

 「分かった」

 


 と言う訳で俺はやってやった。





 

 「あーー、この"ラケット"ですか?"ジャパネット"で買ったんです(笑)」





 「」





 どうだ!!?

 俺は柚葉を見る。





 「」

 「あれ…………」



 口を半開きにして"嘘でしょ?"みたいな顔をしている。え?やった?やらかしちゃった?俺。



 「………あーー……」



 柚葉は遅れて声を出す。

 嘘だろ……俺、地味に笑っちゃってたんだけど……、面白いと思ってたんだけど…?少なくとも"愛の炎"よりはマシだと思ったんだけど?



 「隼人」

 「……………ん?」

 




 「……………良かったよ(笑)?」





 「」



 柚葉は同情と気遣いの目を向けながら笑顔で言ってきた。



 「…………………」




 ブアッっっっっ!!!!!!!




 俺はその直後、マジで死にたくなった。






ーーー






 「隼人。面白かったって言ってるじゃん?」

 「いいよ。俺はつまらないイキリカスな雑魚人間だから」



 隼人はドス黒い瞳で負の空気を出しながら寝室の隅でうずくまっていた。



 「いや、本当に中々良いダジャレだと思ったよ?ダジャレっていうか語感が似てるやつってなだけなんだけどさ……一発ギャグ……だと思うよ?隼人なりの」

 「だからそれをやめてくれ……正直に言ってほしい……柚葉がさっき言った審判のやつと比べたらどっちが面白かった?」

 「え?………………ギャグとしては隼人のやつの方が面白かった」

 「……………」

 「でも、なんか…………んーーー………自分で笑っちゃうあたりが可愛いと思った」

 「やめろやめろ、そんなオブラートに包むな。しょうもねーやつだよ俺は。外の世界のことを知らんからツボも浅いんだよ」

 「まぁ、"俺面白くね?"みたいな雰囲気出してたもんね」

 「それを言うな!!!」

 「ぷふっ(笑)。まぁ、思い返してみれば鼻で笑えるくらいは面白いと思うから!気にしない気にしない!!」

 「」



 隼人はしばらくいじけていた。



 「それじゃあ次は何する?」

 「…………いや、そろそろ勉強しようよ」

 「え…………」

 「"え……"じゃない。もう十分だろ?」

 「隼人は十分恥かいてるからそう思うだろうけど私はまだ足りない!!」

 「だから俺のことは言うな!!!趣旨が変わってくるだろ!!確かに俺はもう十分心を痛めたけど!!」

 


 私達はそんな感じでもう少し遊ぶことにした。やっぱ隼人と付き合ってるって実感が湧かないや。




 だから……、




 何の気苦労もないし、安心できて笑える……。







ーーー





 隼人と柚葉が遊んでいる頃……。




 「あ、美月ちゃーーん!!」

 「あ、木乃葉このはちゃん!!」




 隼人の母親の小柳美月こやなぎみづきと柚葉の母親の大柳木乃葉このははある公共のカフェで待ち合わせをしていた。




 「どうもお久しぶりです」



 そう言って、美月は頭を下げる。



 「いえいえ、こちらこそ娘がお世話になっております」



 木乃葉も頭を下げる。



 「それじゃあ入りましょうか?」

 「だね!」



 2人はカフェへと入っていった。





ーーー




 「あ、そういえばさ」

 「ん?」




 柚葉がふと思い出したように話す。今はとりあえずゲームをしていた。




 「今日私のお母さんと隼人のお母さんがお茶するって知ってた?」

 「ん。言ってたからな。だから俺の母さんが一度家に帰ってきたんだろ?」

 「……何の話してるんだろうね」

 「さぁな。まぁ、俺達に関してのことも少しは話すんじゃない?」

 「てかそれメインっしょ」

 「別に言われて恥かくことはしてないからな」

 「本当に?」

 「…………本当」

 「えーー?絶対にそう言い切れるんだ?」

 「じゃあ何があると思う?」





 「ベタなのは"隼人は◯◯でシコってるよー(笑)?"とか」




 「ブフッ!!!!ざけんな!!!親に見せる訳ねーだろ!!!」



 柚葉が普通にそう言い切ってきたので俺は勢いよく否定した。



 「あー、シコるのは本当なんだー?」

 「ノーコメント」

 「うわーー、どんな趣味してんのかなー?あーー、隼人君は私が苦しんでる姿が大好きなドSでしたもんねーー?SMプレイかな(笑)?」

 「お前、そろそろ勉強しないと帰らすよ?」

 「あー、ごめんごめん(笑)」



 俺は割と真面目にキレていた。




ーーー





 「美月ちゃんは元気にしていた?」

 「元気元気!!何の問題もないよー(笑)」



 一方、2人の母親はカフェで一息をついていた。



 「でも本当にありがとうね?」

 「え?」

 「いきなり本題に入っちゃうけどさ……隼人がこうして元気なのも柚葉ちゃんが来てくれるようになってからのことだから」

 「」



 美月はそう木乃葉の目を見て話す。



 「と言っても最初はやっぱ来てくれることに抵抗感はあったよ?"俺は柚葉と会いたくない"、"会ったら辛い"、"柚葉は俺と会うべきではない"って言っていた」

 「」

 「でもね?それでもそう思ってから更に心の奥底に踏み込んだら……"ずっと一緒にいてほしい"って本心があった」

 「」

 「だから……"今の関係"になれたと思うんだよね……」




 そう下を向きカップのお茶に映る自分の"遠い目"を見ながら美月はそう言う。




 「……………それを言ったら柚葉の方も同じくらい助けられたと思うな」

 「」

 「柚葉が隼人君に会いに行くって初めて決めた時……、あの子……泣いてたんだよね」

 「」

 「"私は隼人のことを何も分かってなかった"、"自分のことしか考えてなかった"……ってね?」

 「」

 



 「だからなのかな……柚葉と隼人君が……ずっと一緒にいてほしいって"私も"思えるのはさ……」






 木乃葉は美月に笑いかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る