第57話 「どっから作った子供?」



 「親バカかな?」


 

 木乃葉このはは笑う。



 「私はそうは思わない」

 「」

 「親としての当然の感情だよ。子供達が幸せであってほしいって思えるのは」

 「……………」

 「あの子達がこれからどうなろうとちゃんと向き合って行かないとね!!」

 「……そうだね」



 母親二人の雑談は続いた。








ーーー






 「それじゃあそろそろ帰るね」

 「おう」

 



 俺は柚葉と勉強していた。柚葉はテスト勉強で俺は俺で別の勉強をしていた。柚葉に教えない時は俺もやることをやってる。




 「そういえば隼人はいつから転学するの?」

 「8月かな」




 そう、俺は通信制高校に転学することを決めた。やはり今のままではどうしても今の高校に通えるとは思えないからだ。




 「そっか………」

 「まぁ、やるだけやってみるよ」

 「分かった!隼人が決めたことなんだから私は応援するよ!!何度も言ってるけどさ!!」

 「………ありがとう」



 やっぱ柚葉には救われるな。この笑顔が俺を勇気づけてくれる。いつも……いつも。



 「それじゃあ私を送っていってくれる?王子様♡」

 「王子様?」

 「違う?私はお姫様だよ?」

 「………何その設定」

 「なんか作ってみたくなっちゃったからそれでだよー」

 「……………」



 王子様か……。



 「どちらかと言えば俺は執事じゃね?」

 「え?…………あーーー……言えてるかも」

 「柚葉に付き合ってあげている執事……あー、良いかも。なんか良い響きだ」

 「それじゃあもっと我儘になっちゃうから」

 「程々にしてくれ。疲れる(笑)」

 「えーーー♡?やだ」

 「……………とりあえず行くぞ」

 



 そうして俺達は俺の家を出た。










 「あ、隼人」

 「ん?」

 「次は明後日に行くから」

 「おう」



 大柳家に向かう途中に柚葉は俺にそう言ってきた。



 「……"仕事"は最近はどうなんだ?」

 「何とか頑張ってるよー」

 「そうか」

 「あ、そういえばね、もしかすると脇役だけどゲストとして声優の仕事もあるかもしれないんだ」

 「そうなの?」

 「一応ね。ドラマの撮影の時に声が"透き通るようで聞き取りやすい話し方"って言われてね」

 「凄いじゃん」

 「………………」

 「どうした?」

 「…………隼人はさ……私と会えない日が続くのは寂しい?」





 「寂しい」





 「」

 「当たり前だろ。お前に会えない時間が続くのは寂しいって思っちゃうよ/////////」

 「会いたい?」

 「そりゃあな……、あ、でもメールできれば我慢できるかも」

 「」

 「今の時代はメールで近況報告できるもんな……そう思えば俺は我慢できるわ」

 「バーカ」

 「え」

 「そういう話じゃねーから!!!ロマンない答えありがとね!!!」

 「………………」




 あ、俺答え方またミスったのか?




 「そうだよミスったの」

 「!!………ごめん」

 「…………ほんと……隼人もおバカさんだね」

 「気をつける」

 


 柚葉は呆れながら笑った。




ーーー




 「ねぇ、隼人」

 「ん?」

 「こんな話をするのはおかしいと思うけどさ……」

 「何?」

 「仮に……仮にだよ?………子供がいたとしたらどうする?」

 




 「」




 あ、私何言ってるんだ?思わずこんなことを……。




 「なんて言うか……子供がいたら//////」




 私は2回言ってしまった。あー、ただでさえ暑いのに、体が更に熱くなってくるよ…//////




 「」

 「隼人はどう?」

 「えーーと……それはシングルでのこと?」

 



 「」




 隼人はそう聞いてきた。




 「状況が分からないよ。"今この場に子供がいたらなのか?"とかさ、どういう状況でいたらってことなの?」

 「」




 私は思ってしまった。




 「流石に察してよ」



 その一言を。



 「…………察したくないよ」

 「え?」

 「柚葉、一度落ち着いて考えてみてよ。子供がいるって言うのはつまり…………………自分の子供ってことでしょ?」

 「」




 「どっから作った子供?」




 「………………」






 ブアッっっっっ!!!!!!!





 私は冷静に自分でも考え直した。

 あー、確かにこれは"色々な意味"で考えたくないかも……。



 「分かった?」

 「理解できたよ」

 「そっか」

 「…………つまりは考えたらもう…ヤバいってことね//////」

 


 隼人は顔を赤らめながら答える。



 「わざわざ言わないでよ…///」

 「察してほしいから」

 「……………じゃあ、ちゃんと場面を設定するよ」

 「何?」

 「"持っていた風船が飛んでいって泣いている子供"がいたらどうする?」

 


 私は条件を出した。



 「あーー………それって自分も何も子供が喜ばせられるような物を持ってなかったりする時?」

 「そうだね」





 「…………"お兄ちゃんが何かしてあげるよ"」




 隼人は"そう言うに決まってるだろ"と言わんばかりに答える。



 「……………あ、それだけ?」

 「え………おかしかった?」

 「…………なんか色々と抽象的だね」

 「まぁ、俺が思いつけるのはその一言しかねーからな」

 「………そっか!」

 「柚葉はどうすんの?」

 「え?」

 「柚葉はその子供になんて声を掛けるの?」





 「………"お姉ちゃんが好きなお菓子買ってあげるよ"」





 私はそう答えた。





 「…………なるほど。そういう発想もあるな」



 隼人は真面目に答えた。



 「大して隼人と変わってないけどね(笑)」

 「でもお互い子供のために自分が本気でできることを答えてるよね」

 「………だね」




 どうなんだろうな……。本当は……、





 "私と隼人の間に子供がいたら?"って聞きたかったんだけどな。





 でもお互い子供を大切にするって気持ちがあることが分かっただけ良かったかな/////////。





 「そういや柚葉」

 「ん?」

 「最近は大丈夫なのか?」

 「え?」

 




 「泣いてないか?」





 「」




ーーー




 「泣いてないか?」

 



 俺は柚葉に聞いていた。




 「………」

 「あ、答えたくないんだったら答えなくていいよ」

 「……………実はさ……」

 



 柚葉が間を置いて話す。




 「隼人の家に訪れるようになってからも度々泣いてはいたんだ」

 「」

 「でもさ……私も変わろうと決めて隼人と告白しあった時からは段々……泣かなくなってきたんだよね」

 「………そうか」

 「だから………大丈夫。隼人が応援してくれてるって信じてるから!!」

 「………ハードル高いな」

 「そこは自信持って"当たり前だ!"って言ってよね(笑)」

 「ははっ……まぁ、彼氏としてできることをやっているつもりだからさ………応援してる」



 俺は再び言い直した。



 「…………おう!!応援してな!!」






 そう話しながら俺と柚葉は歩く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る