第19話 "俺"/"私"の……二人の『嫌だ』



 「俺はいずれ柚葉と縁を切るべきだって考えていたんです」




 そう木乃葉さんに俺は言っていた。




 「柚葉は大変だって分かっていたんです」

 「」

 「いつも俺の前では笑ってくれているけど実際は無理をしてるんじゃないかって……体や心に負担をかけてるんじゃないかって………」

 「」

 「最初は考えないようにしていました」

 


 俺は一息ついて続ける……。



 

 「"柚葉はただ気晴らしに俺の相手をしてくれている"って、"俺と会うのがストレス解消になるからいるんだろう"とも」

 「」

 「ですが……違いました……いえ、違ったって気づいたんです」

 「」





 「僕自身が無理をしていると」





 「」



 何だろうな……声に出せばボロボロ本音が出てくる……。



 「本当に辛い中無理して来てくれてる……なのに笑ってくれる柚葉に僕は………嬉しかったんです」

 「」

 「そして、気づいてしまったんです……"柚葉が笑ってくれてるんだから自分も楽しまなきゃ"って考えている自分に」

 「」

 「そう気づいた時から自然と"自分と柚葉は一緒にいちゃいけない"………そう考えるようになりました」

 「」

 「柚葉はこれからもっと辛いことや悲しいことを嫌というほど経験していくと思います。なのに、僕みたいな奴のためにいつも接してくれる柚葉の優しさを無碍むげにするような考えを持ち、本当に楽しめていない……その、失礼な僕と関わっていたらいずれ何かが爆発するような………一生治らないような傷を負うような……そんな気がするんです」



 「………………」




 やべぇ、木乃葉さんの顔が見れない……。それに上手く言葉にできない…。




 「だから………もう………柚葉ちゃんとは一緒にいられないって」




 俺は下を向き押し黙った……これが柚葉が幸せになる為だって思っていた筈なのに自信が持てない……、




 何でだ?




 「………言いたいことは分かりました」

 「」




 木乃葉さんは口を開く。





 「それで後は?」




 「」




 俺は思わず顔を上げる。





 「"更に"その後はなんて思ってるの?」

 「え……………」







ーーー







 「……………ん」




 私は目が覚めた。

 喉が渇いたからだ。




 「………………」



 

 隼人帰ったかな……?




 「…………」




 とりあえず、お母さんが買ってくれたアクエリアスがなくなったのでキッチンへ水を飲みに向かおうとした。





 ガチャ。




 「あ」





 隼人の声がする。





 「〜〜〜」



 何だろ。




 「だから………もう………」



 あれ?隼人の声……震えてる?





 「柚葉ちゃんとは一緒にいられないって」





 「」




 私は動きが止まる。盗み聞きは良くないと分かっている……けど、この言葉が凄く大きく自分の心に響いた…。




 え、私といられない?何が…?






 どういうこと?





 「言いたいことは分かりました」

 



 あ、お母さんの声だ。

 更にお母さんは口を開く。




 「それで後は?」




 「」




 私は思わず顔を上げる。





 「"更に"その後は思ってるの?」

 


 え……その後……?






ーーー






 「え……」

 「それが"本心だってのも"分かってるよ?でもまだあるでしょ?」

 「………………」

 「この際、全部吐き出しちゃいなよ。ちゃんと隼人君の気持ちを理解したいから…」




 そう木乃葉さんは笑顔で微笑みかける…………。






 「………………」




 何だ………?何なんだこの感情は………、





 いや、





 何を勿体ぶってるんだ?





 "あなたが会いに来てくれるって考えられただけでとても幸せだったよ?"






 「嫌です」

 「」





 俺は素直に言っていた。

 




 「柚葉とはずっと一緒にいたいです」

 「」





 あー……こうやって誰かに言ったの……初めてだ。





 「ずっと………ずっとずっとずっとずっと…!!!!柚葉に側にいて笑ってもらいたいです…!!!!!」






ーーー






 私は"その言葉"を聞いた。








 ポタ……。




 目の奥が熱い………、




 あれ?





 私………何で泣いてるんだろ……?




ーーー





 「柚葉にはいつもこうやって素直に言い切ることができませんでした!!いつも……いつも、こう思う度に自分のくだらないプライドで柚葉に迷惑をかけると言い聞かせて言い訳して……………でも……別れなきゃいけないなんてただ自分で勝手に言い聞かせてるだけで第三者から言われた訳ではありません」

 

 「………………」



 「ただ自分が不登校で柚葉が大変ながらも充実した人生を送れてることにもしかすると……羨ましいって嫉妬していたのかもしれません」



 「」

 「だから、こんな何もまともにできない自分が柚葉の隣にいる姿が想像できなくて……もしかすると柚葉から俺の元を立ち去るかもしれない………それが怖かったんです…………」





 ポタポタ……ポタ……、



 俺はもう……自分を抑えきれずもう涙が止まらなかった。





 「でも………嫌だ………柚葉には……離れてもらいたくない………、一緒に喋りたい!一緒に笑いたい!一緒に寄り添いたい!一緒に…………ずっと一緒にいたい」




 「…………………そう………」





 その時の木乃葉さんの顔は覚えていない……でも、とても声が優しかったのは覚えている。





ーーー





 「………………」



 私は壁に寄りかかり、そのまま廊下に座っていた………そして……




 ボロボロ泣いていた。





 「」





 話はちゃんと聞いていないから分からなかった。

 でも……、





 『嫌だ』





 この言葉はおままごとの時にも言っていたな………、

 あー………ふざけんなよ……。

 何で………、




 何でここまで嬉しいんだろ?





 「……………嫌だ」





 私も思わず言っていた。

 不登校だから何?

 引きこもりだから何?

 人間関係が不安だから何?

 



 それが……、



 それが一緒にいられない理由になる訳ないじゃん………!!!!!



 私だって嫌だ……。



 隼人と離れるなんて……、







 "泣くことしか"できないじゃん………。







 隼人とはずっと一緒にいたい……、



 もう私は隼人が一番なんだよ?



 ずっと………







 『柚葉の本心っぽいことを聞けてなんか……嬉しくて照れるんだよ////////』






 ずっと!!!!!





ーーー





 「隼人君」

 「…は、はい…………」

 「鼻噛む?」

 「はい」



 俺は木乃葉さんからティッシュを受け取る。




 「今日聞いたことは誰にも言わない。ありがとうね?話してくれて」

 「こ、こちらこそありがとうございます」




 何だろう…恥ずかしいとかって気持ちがない……ただただ、何だかスッキリした。




 「だから一つ良い?」

 「はい」







 「隼人君は柚葉のことが好き?」







 「」



 その質問はあまりにもストレートで単純なことだったと思う。けど…………、







 「好きです」






 俺はそう答えた。





ーーー





 「……………」




 私はしばらく動けなさそうだった……。

 あまりのことに体に力が入らなかったからだ。


 あー、ここを隼人に見られたらなんて言うんだろう……、




 『あっ!!やっ……!!!そ、そその……!!!んーーー……あーー』




 「ぷふっ」




 なんかコミュ障爆発させそうだな(笑)。




 「だから一つ良い?」

 



 あ、お母さんの声だ。




 「隼人君は柚葉のことが好き?」




 








 え?









 「好きです」









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