第42話 あ、暴走してる



 「……………」



 毎度のことだけど……俺は悩んでいた。



 「」



 何故かって?


 今、俺の恋人の大柳柚葉おおやなぎゆずはのお父さん……"大柳碧志おおやなぎあおしさん"と俺の家にて向かい合って座っているからだ。



 「……」




 ことの始まりは昨日。







 「俺達が付き合ったご挨拶はいつする?」

 『』


 ふとそのことを柚葉に通話の時に言った。


 『ご挨拶って言うのは"お付き合いしました"ってお互いの両親に伝えるってこと?』

 「まぁ、そうなるよな」

 『……でも、私はお父さんにはまだ伝えてないからな……』

 「俺も直接は伝えてないよ。桜がラインで伝えた」

 『なるほど……桜ちゃんがか。妹ちゃんはしっかりしてるね』

 「余計だねの間違いだわ」

 『えー?そう?』

 「……とにかくそれで……どうする?」

 『んーーーー……やっぱ頭を下げるくらいのことだからな』

 「え?」

 『そうでしょ?だって、付き合うんだからさ』

 「……じゃあ……それぞれの親達の日程の確認だよな?」

 『だね……あ!!!』

 「!!!!!」



 

 突如、柚葉が騒ぐ。




 『何で勝手に入ってくんの!!!ノックしてよ!!!』

 『したけど』

 『返事するくらいちゃんとやってよ!!』

 『ごめん』

 


 何やら柚葉は誰かと話している……いや、もう分かるんだけどね。このもう1人の声は……、



 『とりあえず出て行って!!!』

 


 そして、その声とともに柚葉が息を整える。



 『ごめん隼人。"お父さん"がちょっと勝手に入ってきちゃってさ』


 

 柚葉は興奮した様を残しながら言う。



 「あ、そうなんだね」

 『だから……今ので隼人は察したかもしれないけどお父さんは私達が付き合ったことに相当驚いてる』

 「まぁ、そりゃそうだよな……」

 『だから……私のお父さん……暴走したら隼人に頑張って対処してもらいたい』

 「」




 そう、碧志あおしさんは愛娘の柚葉ゆずはと愛息子の大輝たいき君のことになると"相当に大胆"となる。





 そして現在…





 今に至る。



 「「……」」



 ヤバい……、お互いに沈黙だ。なんか話さないと……。



 「あ、あの……お仕事の方は?」



 今日は平日の昼間だ。



 「大丈夫。今日は午後出勤だから」

 「あ……なるほど……」

 「……」




 あ、会話終わった。どうしよ…。




 まさか、今日尋ねてくるなんて想定すらしてなかったわ……。碧志あおしさんが尋ねてくるのを知ったの今朝なんだよな……、母さんの美月みづきから伝えられたんだよ。


 「あ、今日の10時頃、ユズちゃんのお父さんが隼人に会いに家に来るってー」


 母さん軽すぎるんだよ!!


 「」


 さてどうしようか。

 俺は碧志さんを見る。



 碧志さんは平たく言えば大輝君が更に成長した感じの方だ。見た目はイケオジと言う言葉が似合う人だ。確か歳は47歳くらいだが30代前半に見えるような爽やかさと物腰の柔らかさがある。そして…、身長は180cm前半ほど。



 「隼人君」

 「!!は、はい!!」

 「今……身長低いと……思った?」

 「い、いえ!!」



 ヤバい……木乃葉このはさんと同様に思われたくないことに敏感なんだよな……。でも十分身長高いと思うんだけどな。俺は柚葉より気持ち大きめくらいなもんなのにな……。あ、柚葉の身長は175cmな。だから俺も身長は176とか177くらいはあるんじゃないかと思う。柚葉は私の方が大きいと譲らないけど(笑)。



 「……隼人君」

 「はい」

 「……最近は……元気にしてた?」

 「してた……いえ!!!してました!!!ちゃんと生きてました!!!」

 「」

 


 思わずタメ口になりかけた……。



 「隼人君」

 「……はい」

 「勉強の方はできている?」

 「あ、頑張ってなんとか進めてます」



 昨日の柚葉が案じていた"碧志さんの暴走"は今の所出ていない。寧ろ、木乃葉さん以上に色々な日常のことを質問してきた。あの口下手な……違う違う。話すのが得意ではない碧志さんが……、




 その時……、




 俺は"気づくべき"だったことをすぐ後悔した。





ーーー





 「……」

 「柚葉どうしたんだよー」

 「由芽子……ヤバいかも」

 「幸せの絶頂のピークをもう超えちゃったってこと?」



 私は朝休みに幼馴染の桐乃由芽子きりのゆめこと話していた。



 「そんなふざけてる場合じゃないの」

 「いやいや……」



 由芽子は私の耳元に近寄り……、



 「隼人と付き合えたことに何を感じてるの?」



 そう囁く。因みに隼人と相談して今は由芽子にだけ伝えるってことにして昨日の間に由芽子に電話で伝えた。一応、私達2人の共通の幼馴染の1人だから。隼人の親友の片山琥太郎かたやまこたろうには隼人の方から近いうちに伝えると言うことになってる。他の人達にはまだ未定。



 「それで?柚葉は何を悩んでるの?」

 「お父さんが付き合ったことを知って暴走してる」

 「あ」



 私の父を"よく知る"1人の由芽子は一瞬で察した。



 「……マジ?」

 「ほんと」

 「……それはシビアっすわ」

 「どうしよう」

 「んーー……でも隼人もよく知ってるでしょ?だから何とか乗り越えてくれるんじゃない?」

 「そうかな……」

 「私から特に助言できることはないよ」

 「……しかももう今日の午前に会う約束してるんだよね…」

 「おーー……凄い行動力」

 「……どうしよう」

 「まぁ……暴走してると言っても性格に難がある訳じゃないんだから!!それに、それほど付き合うことを真剣に考えてくれているって受け取れるじゃん?」

 「……そういうもんかな……」

 「そう考えよう」

 「」




 私はとりあえず思い込むことにした。父は"大丈夫"だと。






ーーー





 「隼人君」

 「はい!」



 何度目の"隼人君"かはもう分からない。とりあえず話が変わるごとに名前を呼んでくれていた。まぁ、嬉しくない訳では……、




 「柚葉との子供の名前はもう考えているの?」

 「えーと考え…て……え?」

 「あー、流石にこの質問は早過ぎたようだな」

 「……」



 ん?今、子供の名前聞いてきた?え?俺って子供だよな?俺の名前を?いや、呼んでくれてるからそんな訳はない……、え、てゆーか"柚葉との"って言った?



 「隼人君」

 「は、はい……」

 「将来は柚葉とどこに住もうと考えているの?」

 「それは……」




 あ……、そっか。碧志さん……"結婚前提で付き合ってる"んだと思い込んでいるんだ。だから……こんな将来設計を事細かに聞こうと色々と聞いてきたのか……。




 「隼人君」

 「……はい」

 「柚葉とはいつ子供を作りたいと考えている?」

 「」




 やっぱ暴走している。





 「あ、あの……」

 「ん?」



 俺は表情を変えない碧志さんに恐る恐る声を掛ける。




 「柚葉とは……その……ただ付き合ってるだけです」

 「」




 俺は多分誤解してるであろう碧志さんの誤解を解こうと丁寧に説明した。



 

 「知ってるよ」

 「え」

 「今までのは軽いジョークだったんだ。ごめん」

 「」



 そう真顔で淡々と話す。

 あ、暴走してる。




 俺は再び強くそう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る