第8話 "隣にずっといてくれ"って言いたいんだよな。




 カシャっ!!




 「いいよいいよユズちゃん。もっと、腕の角度を下げてみて」

 「こう……ですか?」

 「そうそう!!!」




 幼馴染の写真撮影が始まった。今は夏コーデの写真なんだろう……。薄い生地の服を着て、柚葉は写真に撮られる。柚葉ゆずはの芸名は"森野もりのユズ"だ。


 因みに少し前傾の敬礼ポーズをしているシーンだ。




 「………………」




 それを俺、小柳隼人こやなぎはやとと柚葉の兄、大柳大輝おおやなぎたいき君は遠目から見学をしていた。




 「どうだ?これがモデルがやる一つの仕事だ」

 


 大輝君が俺に説明する。



 「こんな暑い中、大変ですね………」



 俺はそんな声しか出なかった。

 日が出てとても暑いのにこんな日陰も少ない場所で……凄いな。



 「大変だ。けど、やり甲斐は……ある」



 大輝君は語る……。



 「柚葉も楽しんでるんだ」

 「なるほど……」



 そして、俺は柚葉の写真撮影の様を眺めていた。






ーーー






 「あ」




 私は隼人と兄の大輝お兄ちゃんが来ているのに気づいた。



 「」



 お兄ちゃんも目立ちたくないって言ってたから、結構遠目の方から見ている。見つけられた自分の視力に感謝しよう……そう思った。



 「!!」



 あ、向こうも私と目が合った。



 「………………ふふっ」





 私は軽く微笑み、手を挙げといた。






 「ユズ?どうした?」



 女性マネージャーさんの水野詩音みずのしおんさんが私の顔を見て聞く。



 「あ、いえ……軽く挨拶をしただけです」

 「え……あ」



 マネージャーさんも私の手の指す方向を見て納得した。


 やっぱ、今回は話せないか………。

 まぁでも………来てくれたんだね…、







 ありがとう。






ーーー







 「お、柚葉気づいたみたいですね」

 「勘がいいんだな」



 勘……。




 「隼人も手を振ってみれば?…いや、みたら?………ん、みてみれば?」

 「はい」




 この単純な言い方で言い淀む人、やっぱ大輝君だな。




 そして俺は手を振った。






ーーー






 「!!」




 向こうも気づいてくれて私は思わず、顔が綻んでしまった。




 「お兄さんの隣の子は……あの子は友達?」




 水野さんが私に質問してくる。




 「はい。幼馴染です」

 「幼馴染かー!!!」



 すると、話を聞いていた今日の撮影で一緒の女性の先輩モデル、梶谷和葉かじやかずはさんが私の両肩を揉む。




 「あの子が柚葉の話していた噂の彼氏君?」

 「か、彼氏じゃありませんよ!!た、ただの幼馴染です………」

 「へぇ〜〜〜??ただの幼馴染ねー?」

 「………………」

 



 ただの……か…。

 自分で言っときながらなんか距離を作ってるようで釈然としないな……。



 2人は何故平日に幼馴染の男子高校生がここにいるのかは聞いてこなかった。



 




ーーー




 ガタンゴトンっ!!!




 「今日はありがとうございました」




 俺は電車内で大輝君に頭を下げる。




 「楽しかった?」

 「はい。久々に遠出もできて柚葉の仕事を確認もできてとてもいい日でした」

 「そうか……それは……良かった」



 「…………柚葉は……元気ですか?」



 「」



  

 俺は思わず大輝君にこう聞いていた。




 「元気とは?」

 「あー、いえ……自分の脆いところを見せずに自分の前で笑ってくれるのが柚葉なんで……」

 「」

 「辛そうな時とか悲しい時は俺にできることがあれば力になってあげたい………それだけの話です」

 「……………そうか」

 「」



 大輝君は暫く無言で外を見つめていた。



 「大丈夫だよ」

 「!」



 そして、こう一言呟いた。





 「隼人が思ってるより柚葉は苦しんでる」





 「」

 「けどその分、隼人のことになると別人のようになる」

 「」

 「隼人といるのが案外、ストレス発散になってるのかもな」

 「………そうですか……」

 「そういえば………俺からも……一つ…いいか?」

 「は、はい!!」




 「隼人は…柚葉がいてくれて嬉しいか?」




 「」

 「柚葉は…お前の助けになってくれてるか?」

 「………はい」

 「」





 「柚葉は俺が自分を変えるキッカケになってくれています」





 「」

 「柚葉は本当にいい子です」

 「……………そうか」





 俺は何様なんだろうな……。こんな風に語るなんて烏滸がましいだろ……。





 不登校なのに……大変だな……。



 あー、楽を求めて不登校になった訳ではないけどさ………こんな柚葉について更に負い目があるこの感じは……、





 不登校になる前より大変だな。






 そう思いながら俺は家に帰っていった。


















 「バアァ!!!!!」

 「…………柚葉?」





 俺が家に帰ってきた後だ。

 


 その日の夜に柚葉が俺の家の前にいた。

 そして、俺の姿を見てからこんな風に驚かした感じを醸し出していた。




 「バアァは普通、隠れた状態でやるんだろ?」

 「私の普通ではありませんから」

 「………変な奴」

 「お、変態から少し上がった?」

 「何を基準に上がったって言うのよ…」

 「いやだって、言い方が優しいから」

 「それだけで判断すんのか」

 「ふふっ、私がポジティブなだけかな?」




 そんな感じで俺の家の前で駄弁っていた。




 「それとさ……今日は来てくれてありがとうね」

 「」




 柚葉は先程の午後一番の撮影についてのお礼をいった。

 



 「別に……俺が見たくて見にいっただけだから……」

 「…………どうだった?」

 「え」

 「私はちゃんとしていた?」

 「…………………」




 ちゃんとしていた………。その言葉の意味を俺は考えた……。"俺の前でカッコつけられていたのか?"…それとも"仕事をこなす自分におかしな点はなかったか?"…はたまた……、





 「憧れた」

 「」




 俺はそう一言で言った。




 「自分の頑張る事を必死にやり切ってる様がとても俺には輝いて見えた」

 「」

 「全力でやるべきことをこなしてるのはやっぱ何に置いてもカッコいいって俺は思うよ」

 「…」

 「だからさ………








 応援するから」








 「」




 あー……応援……か。


 柚葉が俺を支えてくれてるようにやっぱ俺も支えたいんだよな……力になってあげたいんだよ……、いつも俺を表でも裏からでも助けてくれるように……俺は"自分ができないこと"をやっている人を見るととても憧れるんだよな……だからだ。応援してるって言葉だけでも面と向かって真剣に言う……。それだけでも……俺は違いがあると思う。






 「応援……してくれるの?」

 「………厳密には今後も応援するかな…」

 「…………」

 「別に、下心とかはないよ?素だからね?」

 「…………分かってるよ(笑)」

 「だからさ………頑張ってね」




 畜生……。




 本音が言えない…、





 俺が言いたいのはこんなことじゃない……。




 俺はただ、応援とかそんなんじゃなくて……、







 "隣にずっといてくれ"って言いたいんだよな。

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