第44話 今後も今のように笑っていられるのかな?



 「あの、隼人」

 「ん?」

 「午前はお父さんがごめんね」

 「あ………」



 柚葉がそう謝ってくる。



 「お父さん…何聞いてきた?」

 「いや…特には……」

 「本当?」

 「本当だよ。ただ、柚葉をよろしくって言っていた」

 「………………」

 「……だから俺も柚葉が好きだってことを伝えたよ」

 「……い、言ったんだ…?」

 「言った」

 「……………なんか結婚がどうとかって言っていた?」

 「言ってたような……言ってなかったような……」

 「はっきりしてよー」

 


 いや、この会話は…男同士の秘密の会話なんだからな?そんなほいほいと伝えられるようなことじゃないんだよ!!それに……、




 "柚葉が迷惑をかけるが……どうか………助けてやってくれ。頼む"




 そう言われたりしたんだもんな………信用されたんだ俺……。だから……、




 「柚葉悪い。とにかく会話の方は意外と大真面目なことを話していたからさ……だから、柚葉にも今は伝えられないかな」

 「…………分かった!!」

 「」



 柚葉はそう一言、返事をした。



 「………」



 あー……これからどうなるんだろ……。

 俺はそう思いながら柚葉を見る。



 「ん?隼人?」

 「あーいや……何でもないよ」

 「……………それじゃあこの後はどうする?」

 「え?」

 「折角私が来たんだし実験しようよ!!」

 「実験………」



 柚葉はいつも通りだな……。



 「私さ、パンスト相撲とかやってみたいなって」

 「やめろ」

 「え?何で?」

 「柚葉が不細工な顔になるのは見たくない」

 「どストレートに言うね………てか、私は何をしても可愛いから!!!!」

 「とにかく……嫌なもんは嫌だから違うのやろう」

 「んーーー…………あ!!」

 「何だ?」




 「隼人……女装してみない?」




 「嫌だ」

 「えーーー?とても似合うと思うけどなーー?」

 「何でそんなことを思いつくんだよ」

 「面白いから!!」

 「俺は嫌だからな」

 「んーー……それじゃあなんかないかな…………」




 柚葉は考える。




 「………隼人は何かしたいことはないの?」

 「俺?俺は………………ただこの時間を柚葉と過ごすだけで満足なんだけど」

 「えーー?ほんと?」

 「本当だよ」

 「………デートしたいとか思わないの?」

 「デート………まぁ、考えはするけど…………俺はこの時間が楽しいからさ………別に柚葉とだったらどこにいたっていいよ」

 「………隼人………少しは外に出かける楽しみを覚えた方がいいよ?」

 「心配しないでくれる?普通に楽しいって言ってるだろ!!」

 「前のデートは楽しかったでしょ?」

 「楽しかったよ?………でも、やっぱ好きなのは家でダラダラすることなんだよね」

 「………あー、インドア派ってことね」

 「そうだな。それで柚葉はアウトドア派ってことだな」

 「私達って対照的だねやっぱ(笑)」

 「お前が光だとしたら俺は闇ってこったな」

 「良いね良いね!!私はルシファーで隼人はエレボスって感じだね!!!」

 「どこでそんな難しい名前を覚えたんだ?」

 「え?ゲームとか本で覚えた」



 なんか意外な言葉に俺は驚く。



 「…………堕天使と神か……」

 「なんか当てはまってない?隼人は闇の神で私は光の堕天使!!」

 「それじゃあお前はヘメラの方が良くないか?ヘメラは"昼の女神"だし。そもそも堕天使は"堕ちた天使"で神から離反した天使だぞ?あまり良い意味で言われてるイメージはないんだけど」

 「…………私は堕天使の方が合うかもって感じてるんだけどな」

 「何で?」

 「だって……"悪だけど光をもたらす者"ってダークヒーローみたいでさ……なんて言うか……自分の信念を全うしてるって感じがしてカッコよくない?」

 「……………」

 「それにルシファーは創造主である神に対して謀反を起こし、自ら堕天使となったと言われてるんだよ?カッコいいじゃん?」

 「……まぁ、確かにな。けどルシファーは男じゃなかったっけ?」

 「性別は何でもいいの!!私がカッコいいと思ったらそれはそれでいいの!!」

 「…………はっ……とんだ我儘お嬢だな」

 「我儘上等!!」



 そうニッと柚葉は笑う……。

 なんだか凄い嬉しそうだな……。

 こっちまで嬉しいと思っちゃうんだからな……。




 "理想を自分に押し付けて荒んでいく。そうなるかが不安なんだ"




 碧志あおしさんはそう言っていたな……。




 "つまりは自分の弱い所も八つ当たりせずに柚葉と真剣に向き合えるかが……それが大事なんだ"




 こうとも言っていた。



 今は確かに楽しいし幸せだと思える心持ちだから柚葉と笑っていられるけど今後、とても…何か辛いことがあった時に俺は柚葉と今のように笑っていられるのか?今後も楽しんでいられるのか?分からない………。




 「柚葉」

 「ん?」

 「柚葉はさ……今俺と一番したいこととかあるか?」

 「直近でできることでってこと?」

 「そうだ」

 「…………」

 


 あ、急過ぎる質問だったか?これ……。






 「隼人と一緒に手を繋いで歩きたい」

 





 「」



 柚葉はそう言った。



 「恋人繋ぎでさ……夜か早朝か……暗い時に一緒に手を繋いで歩きたい」

 「……………」

 「憧れてるんだよね……だって……素敵じゃん?」



 そして笑う。



 「手を繋ぐ………か……」

 「そういえばしてなかったもんね」

 「………だな……いや、告白の時、握ったじゃん」

 「あれは私の手を覆ってくれたんじゃん?」

 「そっか……」

 「どうかな?」

 「………………俺もしたいと思えてきたな」

 「!!!……そっか!!」

 「手を繋いで歩く…………柚葉はそれがしたいんだな……」

 「隼人は何したいの?」

 「……………え、俺?」

 「そうだよ!!私に聞くんだったら隼人は何かしたいことはないの?」

 「だから俺はただ喋ってるだけで……」

 「そうには思えないけどなー?」

 「」

 「私とやってみたいこと……直近でできること……もう分かるじゃん?」

 「」






 「そ・れ・は〜〜……何かな♡?」

 





 「」



 俺は自分の激しく高鳴りかけてる心を必死に抑えつけていた。これは……"これ"を認めてしまったら俺は俺でなくなるから。



 「それじゃあ、まぁ……………これからどうする?」

 「お前は何を思って今のタイミングでこれからどうするなんて言ってるんだよ?」

 「ん?それは教えなーい」

 「…………はぁーー………ともかくよ………流石に"今やるのは早過ぎる"と思うから今回はなしな?」

 「そりゃそうだよね。"準備もできてない"し」

 「やめろ。生々しいから……!!!」

 「えーー?何がー?」

 「お前確信犯過ぎてムカつくんだけど」



 俺はいつものジト目を向ける。



 「ごめんごめん。それじゃあ今の話はなかったことにしよっか」



 できねーけどな。俺はもうヤバいくらい心臓が高鳴っているからな。



 「そ・れ・じゃ・あ〜〜………今はダラダラしよっか!!」

 「………だな」




ーーー



 「そ・れ・じゃ・あ〜〜………今はダラダラしよっか!!」




 私は心臓がおかしいのかってくらいバクバクしていた。何言ってんだろ私は……。

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