第11話 死ぬまで笑い合って幸せになれている姿



 「大丈夫?」



 柚葉が俺の頭を撫でながら聞く。



 「………………」




 俺は無言だった。


 そりゃあそうだ…………、





 女子に抱きつかれてるんだもん////////





 いくら泣いたのは事故とはいえ……、

 まさか、ハグしてくれるなんて………、



 正直、どう反応すればいいか分からない…。でも……、






 何故か"下"は反応していない。





 マジな話、凄い最低だけどそれほど嬉しいんだ。

 こうやって抱きついてくれるなんて……。

 そういえば幼い頃はよくお母さんにハグしてもらっていた。とても嬉しかった。






 「隼人?」

 「…………あ、大丈夫……急にごめんね」

 「大丈夫」

 「」




 でも、本当に温かいや……、"魅力的な人"のハグって……。





ーーー





 「大丈夫?」




 私は隼人にそう質問した………ん?

 




 はえっっっっっっっ///////////!!!!!!!?





 何で私……抱きついてるの?

 やば…… 隼人の顔を見たら思わず………、



 どうしよ……



 こんな風にハグしたことなんてなかった……


 あ。お父さんやお兄ちゃんとはあるけどそれは流石に入れないで……と、とにかく!!家族以外の異性と………あ。赤ちゃんや小さい子を抱いたのは入れないで……こうやって同い年の異性と……あ。ドラマや映画でのシーンも入れないで………と、ともかくっっ!!!本気の……




 本気で"好きな人"にハグしたのは初めてだ///////




 隼人………あ、顔見れないや……、




 そもそも私が大丈夫じゃないや……、

 ハグ魔とか思われないかな?

 い、いや……隼人が泣いていたって事実が………あれ、泣いていたよね?泣いてなかったら……私の見間違いだったら、今こうやってハグしてるのかなり問題な行為だよね…!!?ヤバい……。





ーーー





 「ゆ、柚葉」

 「!!」

 「大丈夫だよ」

 「…………そ、そっか……」



 俺は間を空けて返事をした。

 そして、柚葉は離れた。



 「ご、ごめん……」

 「」

 「えーーと………おままごとに感情移入をし過ぎた。だから、思わず……泣いていた」

 「あ、良かった…」

 「え?」

 「あ、何でもない何でもない!!こっちの話!!!……は、ハグしたのに理由はないからね?」

 「………え、理由もなしにハグしてくれたの?」

 「そ、そそそそそ、そそ…………そうなっちゃうかな?」

 「……………言葉通りだと…」

 「えーー………一先ず……隼人は大丈夫なんだよね?」

 「大丈夫……」

 「よしっ!!!それじゃあ私も大丈夫だ!!少し、ハグしたくらいなんだから…き、気にしない!!!私達は、気にしない!!」

 「………ふふっ……そんな焦らなくても…」




 て言う俺も内心、狂うくらい焦ってるけどさ…。




 「でもさ…………ある程度成長しちゃうとおままごともバカにできないもんだね」

 


 柚葉がそう言った。



 「だね。やっぱ役に思わずのめり込んじゃうね」

 「ほんとほんと(笑)………だからさ、こんな設定にしちゃって……ごめん」

 


 自分のしでかしたことに関して少し後味が悪そうに柚葉は謝る。



 「いいよ……俺だから泣いちゃっただけだったと思うから」

 「隼人だから?何で?」

 「…………"あのセリフ"は柚葉の………柚葉の本心もあった?」





 「」



 俺は聞いていた。

 


 「"あなたが会いに来てくれるって考えられただけでとても幸せだった"」

 「」

 「このセリフは柚葉の本心も混ざってた?」

 「…………………」





ーーー





 「"あなたが会いに来てくれるって考えられただけでとても幸せだった"」

 


 隼人が先ほどのセリフを繰り返して聞く。


 

 「このセリフは柚葉の本心も混ざってた?」

 「…………………」




 私は常に決めていることがある。




 感動シーン……、例えば、誰かが亡くなった時、最愛の人に出会えた時……そんなシーンの時は決まって、嬉しいことを考えるようにしている。




 それが自分の感涙を振るわすからだ。




 その嬉しいこととは……





 「本心でもあったよ」




 隼人と"死ぬまで笑い合って幸せになれている姿"のことだ。




 普通だったら、どんな時においても悲しい事を考えて泣くことが多いと思う。



 でも、私は嬉しいことを考えて泣いている。


 

 嬉し泣きとはまた違う……、




 なんて言うか……漸く……漸く、夢が叶って安心したって言う意味での嬉しさで泣くって感じだ。不思議とそれが泣く時に思い起こされる。それで不思議と泣いてしまっている。






ーーー






 「本心でもあったよ」

 「」





 そう、柚葉から告げられる。




 「」






 え?






 「そうなんだ…」



 そうなのか…。



 「"あなたが会いに来てくれるって考えられただけでとても幸せだった"……今は逆だよね……だから逆に聞いちゃうけど隼人はいつも幸せってこと?」

 「え………んーー………」

 「そこは即答してよ」




 頬を膨らます柚葉。




 「え、即答してほしいの?」

 「そ、そりゃあ、いつもこの私が来てあげてるんだから嬉しい返事を即答してくれたら少しは嬉しいよ…?」

 「」

 「…………どう?」

 「………幸せだよ」

 「」

 「柚葉が来てくれることがとても嬉しい。正直、いつもワクワクしているんだよね……、今日の柚葉は何かなってさ」

 「………………」

 「そして、変態だけど笑ってくれるから俺も生きてていいって思える……、この前も言ったよね……」

 「」

 「でも………その分、怖くもあるかな」

 「え…?」

 「柚葉とはこのままの関係ではダメだとも思っているから」

 「」

 



 俺は嘘をついた。


 もう一つの理由は……いずれ柚葉に別れ……決別する時が来るかもしれないということ……。



 

 でも………、





 言える訳ないだろ……!!





 「ともかく!!俺がちゃんと社会に復帰をしないとなって思ってる事ね!!」

 「…………そっか…」



 柚葉は"何とも言えない表情"をしていた…



 「…………だからさ……」

 「!」

 「今後も来てくれる?」

 「」

 「今後も俺の家に来てくれる?」

 「……社会に復帰してからじゃないの?」

 「そ、それとこれとは話が別」

 「どういうこと(笑)?」

 「だ、だから!!そういうことだから!!」

 「意味分かんねー、隼人は私をただの暇人とでも思ってるんだ?」

 「何でそんな話になんだよ!」

 「ふふっ……あー、まぁ、今後も私は変わらないから」

 「」






 「だから来てあげるよん♡」




 

 笑顔でそう言い切ってくれた…、





 「…………ははっ」





 何だろうな……、





 やっぱ柚葉は……、










 "魅力的"だ。








 

 「でも、隼人も私のアドリブについて来れてたよねー」

 「柚葉は本職過ぎて逆に引いたわ」

 「難しいのよ。と素人に合わせるのは(笑)」

 「うるせ。お前は逆に入れ込み過ぎてて引いたわ」

 「やっぱリアルを目指してるからねー」

 「」





 自分に素直になりたいけど今の俺が柚葉に"この言葉"を直接言ったり思ったりすることはできないよな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る