第48話 "笑っていてほしい"…それが私のお願い



 「柚葉ちゃん………」



 リビングにて美月さんは私を見つめる。



 「な、何でしょうか?」

 「少し驚くかもしれないけど……やらせてもらうね」

 「え」




 ギュウッ!!!!




 「!!!!」

 「あーー!!!柚葉ちゃん凄い可愛い!!抱き心地最高!!大好き!!!え、何でこんないい匂いするの???さいっこぉ!!!」

 「」



 美月さんは私に思い切り抱きついてきた。



 「……………」

 「やっぱ柚葉ちゃんお肌スベスベ!!!」



 そう言いながら頬づりもしてくる……。



 「…………あ、あの……」

 「…………あ、ごめんごめん!!思わず会うのが久しぶりだったから……思わず……」

 「あ…」




 そっか。確かに美月さんと直接こう話すのは"あの時"以来だ。隼人が不登校になって私が初めて家に行ったあの日……それ以来だ。




 「でも柚葉ちゃん……また女性らしくなった?」

 「え」

 「とても可愛くなった?」

 「そ、そうですか?」

 「そうだよ!!また色気ついたんじゃない?本当に若いって良いね!!こっちまで嬉しくなっちゃう!!」

 


 嬉しくなる?



 「ですが、哲也君のお母さんもずっとお変わらずのお綺麗さです」

 「」

 「………………」

 「可愛い?」

 「可愛いです!!」

 


 私は正直に言う。



 「……………」

 「あ、あの……」

 「キスしていい?」

 「え?」

 


 ガチャ。



 「「!!!」」



 その時、リビングに誰か入ってきた。



 「あ、柚葉」

 「は、隼人!!」



 隼人だった。



 「母さん……柚葉と向かい合って何してんの?」

 「え?ただ、キスしようとしただけよ?」

 「」

 「あ……」



 隼人は黙ってしまい、その沈黙の後に…、



 「えーーと……俺の聞き間違いじゃなきゃ……え?母さんキスしようとしたの?」

 「そうだよ」

 「何で?」

 「可愛いから」

 「」



 あ、また固まっちゃったよ。



 「……そういうのは俺がいない時にやってね」

 「え?」



 隼人……怒るのを諦めちゃったよ。なんか投げやりだわ(笑)。



 「それじゃあ俺は寝室に戻りま……」

 「あ、隼人待って!!」

 「ん?」

 「イチゴパフェ買えたから冷蔵庫に入れとけばいい?」

 「」



ーーー



 「イチゴパフェ買えたから冷蔵庫に入れとけばいい?」

 「…………」



 本当に買ってきてくれたのか……。



 「ありがとう。それじゃあ冷蔵庫の中にしまっといてほしい」

 「わ、分かった」

 「え、イチゴパフェ?隼人、食べなかったの?」



 母さんは状況を飲み込めない感じで話す。



 「柚葉が間違えて食べちゃったんだよ」

 「プフッ(笑)」

 「何笑ってんだよ母さん」

 「い、いや……ちょっと面白いなってさ」

 「私も笑っちゃいました(笑)」

 「だよねー?」

 「いや、食べた張本人が笑うのなんてもっての外だからな?」



 そんなことを話していた。



 「いやーー、でも一件落着ということでね!!とりあえず隼人は席を外してもらえる?」

 「あ、分かった」



 母さんは少し空気を変えて、俺にそう伝える。



 「それじゃあ柚葉ちゃん。ちょっとだけお話ししましょ?」



 そして、柚葉に声を掛ける。



 「はい」

 


 何の話をするんだ?

 俺はそう思いながらリビングから出ていく。あ、因みに柚葉がくれた食べかけのパフェは食べました。どんなことを考えて食べたかは聞かないでください……/////////



 


ーーー





 そして今、私は美月さんとテーブルを挟んで向かい合って座っていた。




 「最近は元気にしていた?」

 「はい。しっかり頑張ってます!!」

 「そう………体の方も大丈夫?」

 「大丈夫です!!」

 「」



 美月さんはしばらく無言になる。



 「それじゃあまず一つね」

 「え?」

 「隼人とお付き合いすることになった……のよね?」

 「………はい」

 「…………そっか……」



 美月さんはどこか遠くを見るような目で私を見つめる。



 「隼人のどこが好き?」

 「え……」



 私はそう聞かれて思わず面を喰らう…。どこが好き………、全部好きだって言いたいけどそういうことじゃないよね………、でも……私が一番嬉しかったのは……、






 「ちゃんと話を聞いてくれることです」

 「」

 「私の言いたいことを自分なりに解釈して言い当ててくれて、そしてちゃんとそのことについても向き合ってくれて………だから、付き合うことができたんだと思います。なので、私はそこが好きです」

 「……………なるほどね…」

 「隼人はいつもちゃんと投げ出さずに真摯に受け止めてくれます。なので私はいつも楽しむことができています」

 「」

 「本当に隼人君と付き合わせていただきありがとうございます」



 私は美月さんに頭を下げる。



 「………それを隼人には言ったの?」

 「あ…い、いえ……言えてません……」

 「言ったら喜んでくれると思うよ?」



 そう私に微笑みかける。



 「………そうですかね?」

 「私はそう思う!!」

 「…………」



 私は返事ができなかった。恥ずかしかったからだ。



 「柚葉ちゃん」

 「は、はい!」

 「隼人はこれから柚葉ちゃんに迷惑をかけると思う」

 「」

 「あの子は人付き合いが得意じゃないし、気持ちの伝え方も苦手だし、"相談の仕方"が分かっていない。だから、いつも溜め込んで勝手に自分を追い込んでしまっているの」

 「」

 「でもね?あの子は言っていたの………"夢はみたいな。柚葉とずっと一緒にいられる夢をさ"…ってね」

 「…………」

 「自分にもっと正直になればあの子は多分、柚葉ちゃんにゾッコンしまくってるよ?」



 そうウインクしながら言う。



 「/////////」



 私はその言葉に思わず顔を赤らめる。それは私も一緒だから……。



 「だからね………これだけ言わせて」

 「何でしょうか?」

 「隼人と笑っていてね?」

 「」

 「勿論、喧嘩したりもあったりすると思う……口を聞きたくないことだってあったりすると思う……。でも、付き合ったからにはそれを全部ひっくるめて受け止めて……最後には分かち合って笑っていてほしい……。それが私のお願いね」

 「………」




 私は美月さんを見つめた。そして……、




 「当然です」

 「」

 「私は隼人の彼女です。隼人と幸せになることだったら何でもします。信じてください!!」

 


 そう笑った。



 「……そっか……」



 美月さんも笑う…。



 当然ですよ……。私は隼人と幸せになるために今を生きている。だから……、





 私は私です。





 「あ、柚葉ちゃん」

 「はい」

 「これからはユズちゃんって呼んでいい?」

 「あ、いいですよ?」

 「良かったーー!!それじゃあユ〜ズちゃん♡」

 「ふふっ…はい、よろしくお願いします」




 そうして美月さんとの話し合いは終わった。





ーーー





 「あーー、今日はシコろうかなー」




 俺はそんなことを考えていた。

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