第60話 アンタに向けての"好き"という気持ちの始まりを。




 「…………」

 「……」




 俺、小柳隼人こやなぎはやとは今、自分の寝室で桐乃由芽子きりのゆめこと向き合ってる。

 


 そして、



 話せないでいる。





 前日。





 「と言う訳だから明日、由芽子が会いたいんだって!!」

 「なんか悪いな。俺と由芽子の間を持ってくれてよ」

 「全然構わないよ。でも、私はお節介焼きすぎたかなって今思ってる」




 俺は夜に家に来た柚葉と一緒に俺の寝室で話していた。

 



 「思えてるだけ成長だな」

 「あ、本当にそう思ってんの?」

 「当然」

 「…………ごめん」

 「まぁでも、俺は由芽子と話したいのは事実だから……ありがたいってのもあるから(笑)」

 「…………隼人の家で話すんだよね?」

 「それでお願い」

 「分かった!」

 



 俺は由芽子と直接やり取りするのが気まずいと言うことで柚葉に間を取り持ってもらっていた。



 「あー、それじゃあ私はいた方がいい?」

 「……いてほしいとは正直思う。けどさ、柚葉がいたら柚葉を頼っちゃいそうなんだよね……」

 「え?別に頼るのは良くない?悪いことじゃないじゃん」

 「あー、そうなんだけどさ……、その……なんて言うか……"なんか違う"って気がするんだよね」

 「」

 「やっぱ由芽子とは2人きりで話せるようになりたいからさ……だから………、2人で話すよ」

 「………分かった!!」









 と言う訳で現在……。



 「「……………」」



 由芽子と向かい合っている所だ。



 「」



 あー、やべぇ。男としてはエスコートしたいけどできねーわ。どう話を持っていけば良いんだよこれ……。同学年の異性と話すのなんて久しぶり過ぎるぞ?(柚葉は例外)。



 「隼人」

 「!!!!」



 突如、由芽子が口を開く。



 「そんな固くなんなくて大丈夫だよ(笑)?」

 「」



 由芽子は俺に笑いかける。あー……俺が言わなきゃいけないことを言われちゃったよ。



 「………ごめん。ちょっと緊張しまくってたわ」

 「落ち着いてよ?………て、私も偉そうなこと言えないくらいドキドキはしていたけどさ」



 そうクスっと笑いながら由芽子は言う。



 「……………」



 やっぱ由芽子って大人びてんな……。柚葉も見た目は大人っぽいけど子供っぽい所が目立つからな……だから由芽子の柚葉より大人びてることに俺は感心してしまった。



 「でも隼人とこうやって話し合うのは久しぶりだね」

 「確かにな。なんて言うかお互い成長したんだもんな」

 「成長か……………まぁ、私は変わってないよ(笑)」



 「あー、確かに」



 「」

 「由芽子は由芽子でなんか…………そう………変わってないように見えるよ」

 「どういう意味?」

 「見た目は大人っぽくなったけど中身は元から大人っぽいなって所が」

 「そう?」

 「俺はそう思う」

 「それじゃあそうなのかなーー」




 俺は段々由芽子と話すのに慣れてきた。




 「だから俺も変わってないんだよな」

 「え?」

 「由芽子は昔から大人っぽいって言ったじゃん?でも俺は昔っからこんな普通な感じだからさ……」

 「…………どういうこと?」

 「なんて言うか………普通の子供みたいな」

 「」

 「特徴がないなって」

 「……………」

 「……あ」



 やば。こんなことを普通に言うべきではなかったかも………やっぱ話す話題を無理矢理作り過ぎたわ……。



 「………隼人」

 「ん?」




 「普通の何が悪いの?」




 「」

 「別に"何の特徴もない目立たない空気未満の存在"だろうと分かる人には隼人の良い所は分かるよ?」

 「…………」

 「隼人は隼人だってことね」

 


 そう真面目に由芽子は言ってくれた。



 「そうなのかな……」

 「そうなんだよ?そもそも……柚葉と付き合えてる時点で普通に良い人だって私は分かってるから」

 「」

 「まぁ、そういうことだから私は隼人は普通だとは思わないから」

 「…………ありがとう」

 「」

 「そうやって褒めてくれるのは素直に嬉しいよ」

 



 「」





ーーー





 「よっ!!柚葉!!」

 「コタ!!!久しぶりー!!」




 隼人と由芽子が2人で会っている頃、私も久しぶりに異性の幼馴染の片山琥太郎かたやまこたろうと会っていた。場所は琥太郎の家だ。




 「元気にしてたか?」

 「元気元気!!」

 「あ、その前に……」

 「ん?」

 「お付き合いおめでとうございます」

 「」



 コタは頭を下げてきた。



 「…………ありがと!!」




ーーー

 





 桐乃由芽子きりのゆめこと俺が初めて会ったのは幼稚園の年中の頃。一緒のクラスになり、俺が1人でブロックとか積み木を積み上げてた時に由芽子から声を掛けてきた。その時から話すようになり、今に至る。





 「そういえば由芽子はテストはどうだった?」

 「まぁ、それなりには頑張ったよ」

 「いや、柚葉はどうだったって?」

 「"終わったー!!二つの意味で!!"」

 「うわ、マジでいいそう(笑)」

 「テスト期間中でも隼人の所によく来たでしょ?」

 「来た来た。勉強を教えにってのは建前で俺と遊ぶために来てくれたよ」

 「柚葉は勉強嫌いだからね(笑)」

 「やっぱ柚葉は授業中はどんな感じなの?」

 「寝るか、外見るか、練り消し作るか、本読むか、ご飯食べるか」

 「本当に大丈夫かよ……」

 「まぁ、頑張ってるから遠い目で見てあげればいいんだよ」

 「そっか………」

 「隼人はどうなん?最近はよく何してるの?」

 「え?んーー……勉強するか、寝るか、筋トレするか、ゲームするか、本読むか、動画見るか………まぁ、色々」

 「確か、通信に転学するんだっけ?」

 「そうそう。だから今は書類を作ったりしているよ」

 「大変だね」

 「まぁ、頑張らないとさ!!」

 「」




 俺はそんな話を由芽子としていた。




 「それじゃあ隼人も中々忙しいんだね」

 「まぁ、最近はね」




 「柚葉も大変だよ」



 「」

 「だけど、顔には出してない。やっぱ頑張ってるんだなって思う」

 「そっか」

 「隼人も頑張ってね」

 「…………当たり前だよ。俺も頑張るよ」

 


 俺はそう由芽子に言っていた。




 「」




 あれ?


 

 その時、由芽子はなんて言うか少し寂しそうな辛そうな顔をしていた。




 「由芽子?どうした?」

 「ん?何でもないけど?」

 「」



 嘘だ。


 この顔は柚葉が告白の時にしていた自分の思いを上手く伝えられない時の顔と一緒だ。



 でも……、



 俺は聞き出せなかった。




 「それじゃあ隼人」

 「ん?」

 「折角2人で会えてるんだしなんかして遊ぼうよ」

 「え、なんか?」

 「そうだよ!!ダラダラするのはもったいないからね!!2人で出来る遊びでもしようよ」

 「………それじゃあゲームでもするか?」

 「いいね!!」




 と言う訳で俺は由芽子とゲームを始めた。






 「そういえば桜ちゃんは元気?」

 「おう。頑張ってバスケやってるよ」





ーーー




 私、桐乃由芽子は思い出していた。隼人への思っているこの"好き"という気持ちの始まりを。

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