第38話 隼人が私の前からいなくなる世界だけは…やっぱ嫌なんだ?




 "柚葉のことが羨ましいと同時に好きなんだよ"



 この言葉が意味する事。それは……、



 「俺は大柳柚葉おおやなぎゆずは、お前が好きなんだよ」

 「」



 俺はもう隠せなかった。



 「ずっと…ずっと好きだった。お前が……好きだった」

 「」

 「俺とは真逆で俺を……俺を助けてくれるお前が好きだった」

 「」

 「本当だ……嘘じゃない」

 「……」




 あーー……恥ずかしいわ……。




 「知ってた」

 「!」



 柚葉はそう言った。



 「し、知ってたって何が?」

 「隼人が私の事を好きだってゆーのは知っていた」

 「……え?」

 「あの私の風邪のお見舞いに来てくれた時、お母さんに話していたのを聞いちゃってたんだよね……実はさ」

 「……ほんと?」

 「ほんと」

 「」




 俺はしばらく思考が止まっていた。





ーーー





 「」



 隼人は私が言ったことにしばらく頭が追いついていないような顔をしていた。



 「え……てことは……最初から聞いてた?」

 「どこを最初なのかは分からないけど、"俺はいずれ柚葉と縁を切るべきだって考えていたんです"からは記憶が曖昧かな」

 「結構重要なところ聞かれちゃったよ…」

 「あーでもほら!!そこと"好き"って言葉は聞いてたから!!!最重要な所はちゃんと聞いてたから!!」

 「フォローじゃなくて余計なことを言ってるよ……聞かれたのが恥ずかしいことに困惑してるんだよ(笑)」

 「え、でも隼人笑ってるじゃん」

 「どうしようもなくて笑っちゃってるんだよ!!」

 「あーー……まぁ、しょうがないよね。聞かれちゃったもんは」

 「張本人が言うな」

 「えーー?もう過ぎたことは気にしないの!!」

 「お前、どんな感情で言ってる?」

 「え?……」




 私は間を置いてこう言う。




 「"私の方が好きなんだけど?"って言う対抗心からくる何とも言えない気持ち」

 「」






ーーー





 柚葉はこう言い放った。


 「」

 「……」


 え?

 柚葉は俺が好き?




 「どういう意味だよ」



 俺は至極真っ当に疑問しか出てこなかった。



 「だから私も隼人のことが好き」

 「……あの時、言ったのは?」

 「え?」

 「俺の足の臭いが好…」

 「忘れて忘れて忘れて忘れて!!あれ覚えてたの!?あれは勢いだったから!!!」

 「あー……分かった」




ーーー



 「とにかく!!!」




 私は仕切り直す。





 「私も隼人のことが好きなの」

 「……」

 「本当はもっと後にこの気持ちを伝えようと思っていた」

 「何で?」

 「だって隼人は……隼人にはやるべきことが沢山あるから」

 「」

 「人間関係だったり、生活面だったり、日常生活のことだったり、私のことより優先することの方が多いでしょ?」

 「」

 「私はさ……隼人が好きって言ってくれた時に……それだけで満足していた」

 「……」




 「それを聞けただけでこの先、死ぬまで……いや、死んだ後も会えなくなってもいいって思った」




 「……え?」

 「だってそうじゃん。生きてきた中で過去一幸せだった。自分の中で一番大好きな人に一番言ってもらいたい言葉が聞けたんだよ?そんなのそれくらい嬉しいに決まってるじゃん」

 「」

 「私さ……実は矛盾してるけど私も無理だと思っちゃってたんだよね」

 「……何が?」

 「今後も隼人と一緒になれること」




 本当に私って自分勝手だな……。隼人がこう言う時は怒るのにさ。




 「」

 「だって……だって、隼人の言う通り……隼人のことを全然分かってなかった」

 「……」

 「こんなに好きなのに……ただ普通に接してるだけで好きになったってとても弱い理由だけどさ……でも好きだってことには自信を持っていた。自分が信じ込んだその思いは自分にしか消せないじゃん?だから私は消さないよう思っていた」

 「」

 「"だけ"だった」

 「!」

 


 私は続ける。



 「実際はただ好きなだけでその思いを悪戯に信じ続けただけの物語だった。だって、隼人の苦しみを最近まで知ることが出来なかったから」

 「」

 「隼人が言うように私と隼人は関わるべきではないって考えは今になって腑に落ちたかもね」

 「」



 「聞いたかな?私はよく夜は"泣いてる"って」



 「……泣くっていうのは聞いたよ」

 「そっか……。でも本当のことなんだよね……実際はさ」

 「」

 「……曖昧な表現していたけど私は今やってるこの仕事が大好きなんだ」

 「」

 「やっぱ自分の頑張っている所を誰かに見てもらいたいって……それで笑顔にさせたいって……だからこの仕事が好きなんだ」


  

 私は間を置く。




 「でもさ……ネットの掲示板や動画のコメント欄に"不細工"、"キモい"、"死ね"、"正直、そこら辺の女子の方が可愛い"、"性格悪そう"、"嫌い"、"何でこんなのがモデルできてるのか分からない。ただのナナフシじゃん"、"虫以下"……今日までの間にどれくらい書かれたか……か、数えきれないよ」

 「」

 



 私は気づいたら声が震えていた。




 「それに実際にドラマや映画のオーディションや稽古では"演技が下手"、"気持ちが伝わらない"、"本気でやってる?"とかも裏で言われたり直接言われたりしている」

 「」



 あれ……何でこんな話してるんだ?仕事が好きの話じゃなかったっけ……?



 「少し役者仲間からはぶられたこともあったよ。イジメに近い感じのね」

 「」

 「だからさ……気づいたらいつも次の日が怖くなっていた。"もうこれ以上言われたくない"、"嫌だ"、"怖い"、"喋りたくない"、"誰も話しかけないで"とかさ」

 「」






 「本当に気の迷いで自殺を考えたこともあったくらい」

 



 あれ?今私、どんな感情で喋ってるんだろ……。



 

 「……でもさ、その辛い時に毎回よぎるのが……」

 「」

 「隼人と笑っている世界なんだ」

 「」





 「だっていつも私に付き合ってくれた。どんなにくだらないことや大変なことでも断ったことはないでしょ?」

 「……」

 「それで笑ってくれた」

 「」

 「それが本当に嬉しかった」





 そして、私は言葉を止めた。





 「でもそれだけだった」

 「」

 「私は自分のことしか考えられてないってことが隼人が学校に行けなくなった時に気づいた」

 「"その時までただ理想の隼人を押し付けていた"?」

 「!!……そう」

 


 隼人は私の言いたいことを言い当てた。



 「……"隼人はこうなんだ!!"、"隼人はこんな風なんだよ"、"隼人はこういうことでも笑うから隼人なんだ"……そんな風に思い込んでいた」

 「」

 「だから隼人の苦しみは考えず、私も"本当の自分"を教えずに仮初の自分を見せてただ笑ってくれる隼人を見て笑っていたいだけだった」

 「……」

 「"自分より辛い人なんかいる訳がない"。そう思い込んでいた……隼人を自分の都合のいい人だと思い込んでいた」

 「」

 「確かに隼人の言う通りだよ……今だから思う……私と隼人は縁を切った方がいいって」

 「」







 ポロ…。






 「」

 「でもさ……そんなに思っても……、ど、どんなに悪く言っても……、どんなに正直になろうともさぁ……」




 私は……、





 「隼人が私の前からいなくなる世界だけは……やっぱ嫌なんだ?」





 泣いていた。





 「"隼人が好き"って気持ちだけはどうしても嘘じゃ塗りつぶせないんだぁ?」

 「」



 

 ダメだ。もう止まれない……。




 「どんなに自分勝手だろうとさ……隼人には…隼人だけには嫌われたくない……好きって思われたい……好きって伝えたい!!!!」

 「」

 「この"隼人への好き"が思い込みなだけだなんて……思えないんだ?……」




 私はこれ以上言葉が出なかった。




 「……そっか……」

 



 隼人は呟く……そして……、



 ギュッ。




 私を強く抱き寄せた。

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