第39話 この日の"16時47分"に俺達は……。




 「」



 俺は柚葉を抱き寄せながら後悔した。



 「…………」



 何が嫉妬だ……、何が羨ましいだ……、何が……、




 人気者なんだ?




 「」



 俺の腕の中で泣いてる柚葉も俺と一緒の人間なんだ。



 「………………」



 女の子なんだ……。



 「」



 俺みたく自分が一番辛いって思い込んで生きてきてたんだ………。



 "隼人だけには嫌われたくない"。



 何だよそれ……。俺と一緒じゃねーかよ……。



 柚葉のお母さんの木乃葉このはさんに俺も言ったな……、



 "離れてもらいたくない"って。



 「柚葉も俺と一緒だったんだな」

 「え?」



 俺は喋り出す。



 「柚葉は俺のことを知らなかった。いや、知りたくなかった。自分の思い込んだ姿のままでいて欲しかった」

 「」

 「でも実際は違う。相手の幸せじゃなく自分の幸せのために俺達はお互いを勝手に担ぎ上げていただけだった」

 「……………」

 「俺達ってやっぱバカだよなー」

 「…………そう………だね」

 「いやバカってか自己中かな(笑)」

 「」

 



 不思議と俺は口が回っていた。



 

 「でもさ………全然お互いを知らなくても一つだけ理解できることがあるな」

 「え………?」

 「分かる?」

 「………何?」

 「簡単だよ」

 「…………ごめん……頭が回らない」

 「……………」




 キュッ。




 「!!」

 



 俺は柚葉の手を握る。




 「俺達は人間だってこと」



 「」




 少し時間が止まる。




ーーー





 隼人はそう私の目を見て話す。



 え?どういうこと?



 「つまりは………どんなに理想を掲げようと思いのよらないことがあってしまう……なんていうか………結局は普通の生きてる人間だってことかな?」



 隼人は上手くまとめられない言葉をそう話した。



 「だからさ……そして、理解したから答えが出た」

 「!」








 「俺達はお互いが一番であってほしい……」




 「」




 「つまりは……両思いで"一番"大好きってこと……だ/////////」





 あ……。



ーーー





 俺はそう柚葉に言っていた。



 「………あ……!!………まぁ………間違いじゃねーだろ?」

 「」



 柚葉は何も答えない。



 「」



 あれ……なんかキモかったか?



 「でも…」

 「!」




 柚葉がその沈黙を破る。




 「私は全然知らないんだよ?」

 「」

 「隼人の上辺を好きって言ってるだけで隼人の言う通り中身まで全然理解できてないんだよ?」

 「……それがなんだよ」

 「そんな自分勝手な私のことが本当に好きなの?」

 「それじゃあ柚葉は俺のことが好きじゃないのか?」





 「大好き」





 「」



 食い気味だな……。でも、




 「それじゃあお互い好きなんだ。これはもう両思いでいいだろ」

 「…………一つ聞いていい?」

 「何だ?」




 「その好きはどういう好き?」




 「……………」

 「友達としての好き……」







 「"愛してる"の好きに決まってんだろ」






 「」


 俺は言ってやった。


 「俺はお前を愛しているんだよ。一人の女性としてな」

 「…………そうなの?」

 「そうだ」



 そして、しばらく無言が続く。



 「お前はどうなんだよ?」

 


 俺は柚葉に問いかける。



 「え…………」

 「俺のことはどうなんだ?」

 「」



 柚葉は俺の目を見る。



 「………」

 


 目は赤く泣き腫らした跡があり、口元は震えている。



 「………ぐっ………」



 喋ろうにもまた泣き出しそうになり喋れていない。



 「……あ……え…」



 それでも何か言おうと必死に喋ろうとする。



 「柚葉」

 「!」

 「それじゃあシンプルに言う。もうこの際、キモいとかそういう感情は捨てて……恥をかこうがこう言わせてもらう」

 「」




 「俺を愛してるなら抱きついてくれ」





 ギュッ!!!!!







 そう言った瞬間柚葉は思い切り俺に抱きついた。





ーーー




 あーーー……私のバカ。何やってんだよ……。



 「」



 隼人にまた気を遣わせちゃった………でも、

 


 「これで伝わる?」






 今はもう自分の気持ちに素直になろう。





ーーー




 柚葉は強く……強く、俺に抱きついていた。




 「…………そっか」



 実感は湧かないけど……柚葉は俺が好きなんだ………、


 愛してるんだ。



 「隼人」



 柚葉が喋り出す。



 「ん?」

 「本当に……良いんだね?」

 「何が?」

 「私と両思い……ってこと」

 「何それ。脅し?」

 「だって、こんなにもお互いを知らないのに好きだってことはその分、新たな一面を知ったりしたら……その……」

 「ビビってるの?」

 「!!……そりゃあ怖いよ」




 「良いんだよ」



 「」



 俺は柚葉にそう言う。



 「怖いのは当たり前だ。でも、それを全部考えた上でも自分に嘘をつけないのが俺達だろ?」

 「」

 「だから……もう一度言うよ」

 「…………」




 「俺は柚葉が好きだ」




 「」

 「柚葉はどうなの?」




 「私も………好き」





 そしてしばらく沈黙が続く。




 「てことだ」

 「え?」

 「この好きが何の好きかはさっきも言っただろ?だから………」

 



 俺は言い淀む。




 「隼人?」

 「悪い……言葉が上手く整理できない」




 いや、ただ言いあぐねているだけだ。実際はただこう言いたい。




 「私達はカップルになったってこと?」

 「」



 あ、柚葉に言われちゃったわ。



 「そういうこと……だな」

 「…………」



 俺達はまた、しばらく無言でいた。



 「……………付き合っていいの?」

 「俺のセリフだよ。こんな俺でも一緒にいたいって言ってくれるのか?」

 「……………」

 


 柚葉は一瞬視線を外した。


 「は、隼人」

 「ん?」

 





 チュッ。






 「」






 その時、柚葉は俺の頬に唇をつけた。




 「そ、それじゃあよろしく」

 「……え?」

 「私と付き合うってことだから彼氏になるんだよね……」

 「……は?」

 「え、違った?」

 「い、いや!!そうだな……そうなるよな……」

 「そ、それじゃあ……………改めて言わせてもらうね」

 「」







 「私、大柳柚葉おおやなぎゆずは小柳隼人こやなぎはやとが大好きです………お付き合いできて本当に嬉しいです。これからもよろしく」







 柚葉は丁寧に言ってきた………。






 「…おう」





 俺はこれしか言えなかった。その後のことは何も覚えてない。ここで記憶は"一度"途絶えていた。







 けど……、







 俺と柚葉はこの日の16時47分に正式に恋人となった。




 そして……




 これが"始まり"だった。




ーーー



 私は心に誓った。



 "隼人とのことをもっと知っていく"……と。

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