第10話 "この言葉"を言ってほしくて送ってあげたい…。




 「さて………どうしたものか」



 俺はおままごとのシナリオを考えていた。



 「」



 思いつかない……。

 まぁ、そりゃあおままごとなんて滅多にしないもんな……。いや、そもそも高校生でそんなことをする訳がないんだと思う。柚葉はやっぱ子供っぽいからな……。



 さて、



 同年代としてのおままごと……。それで……イチャつきあう……いやいやいやいや!!!!!イチャつきはしない。やべぇな……思いつかんわ…。



 んーーーーー、無難に一緒にお料理している所……あ、玩具ねーわ。じゃあ、赤ちゃんを抱いてる所……そもそも人形ねーわ。そしたら………やっぱ最初に戻ってくんな……柚葉の言った……、




 "お母さん役とお父さん役にしてイチャつく"……、




 畜生、これしか思いつかない……。つーか思考がこれを引っ張ってるんだわ。







 ガチャ。





 「なんか思いついた?」




 と、柚葉が俺の寝室のドアを開け入ってくる。

 



 「ん?あー、一周して最初に柚葉が言った"夫婦役でイチャつく"にしようかなって思う」

 「え、マジ?やってくれるんだ?」

 「思いつかないんだよ。専門的な役はよく分からなくなるし、歳の差がないって言ったらシンプルにこれしかねーだろ」

 「…………まさか本当になるとわ」




 凄い以外そうな顔で柚葉は見てくる。いや、お前がしたいって言ったんじゃん!!……まぁ、






 俺もしてみたい好奇心はあるけどさ…。





 でも夫婦役か……これはこれでレパートリーが多すぎるわな…。





 「それじゃあどんな流れにする?」

 「……流れ?」

 「そりゃあただイチャつくだけじゃ"一緒に寝る"くらいしか思いつかないじゃん」

 「あー、最悪だ。そんな思考にしか至らない俺の頭に激しく拒絶反応が起きる」

 「ちょっと、私も含まれるからその言い方やめてよね」

 「でも思いつかねーよ」

 「……………じゃあ、"私が病気で余命僅かでそれに対して夫の隼人が明るく振る舞おうとするけど本心を私に見破られて逆に笑わされるシーン"は?」

 「…………無駄に凝ってて、複雑じゃね?」



 流石、業界人の発想は違うな……。ドラマに出てるだけはある発想だ。上から目線では言えないけどさ。



 「まぁ、少しは大人っぽい感じにしたいからね(笑)」

 「お前はどんな感じにしたいんだよ……子供らしいのか…大人らしいのか…よく分かんないな」



 本当に。



 「まぁ、やりまっしょい」



 そうクスリと柚葉は笑い、始めようとした。



 「それじゃあ……ベッドに寝ていい?」

 「え?」

 「病院のベッドの背もたれに寝ているイメージだからさ」

 


 「……………え?」

 


 つ、つまり俺のベッドに柚葉が触れる?



 「そ、それは流石に………」

 「あーー、流石にシャワーも浴びてないしダメだよね。ごめん」

 「」




 そこかよ。そんな所で謝られても困るんだけど……つーか、コイツはどこまでが本気でどこまでが冗談なんだ?マジで分からん……。




 「それじゃあ、寝ちゃダメだよね……」

 「着替えとってきなよ」

 「え………?」

 「そ、その汗に濡れた夏服の制服……つまりYシャツを着替えるんだったらべ、別に寝てもいいけど?」



 俺はもうどっちもの本音を言う。



 片方は"本当に寝れるもんなら寝てみろよ"。

 もう片方は"寝てほしいかも"。


 そして補語で、


 "まぁ、成り行きに任せるのが賢明だ"。





 いや、俺って色々恥ずかしいな………。




 「……………」




 柚葉も動きが止まってるわ……。

 まぁ、そりゃそうだよな……。




ーーー






 正直に言う……"ベッドに寝てもいい?"は私の本心ではあった…//////…恥ずかしながら、普通に昔のような感覚で話してしまっていた……。あ、私ってバカだ。強くそう思った。




 「あーー、流石にシャワーも浴びてないしダメだよね。ごめん」



 これを言う前には既に、自分が口を滑らしたことに気づいていた。だから、こうやって上手くフォローしたように言ったけど普通におかしいと思う……。



 「着替えとってきなよ」



 え?



 「そ、その汗に濡れた夏服の制服……つまりYシャツを着替えるんだったらべ、別に寝てもいいけど?」




 ………………はぁ!!!!!!!?





ーーー





 さて、どうしようかこの膠着状態……。俺が余計なことを言ったせいで柚葉も思い詰めたような顔してるし………。





 「じゃあさ……」




 すると、柚葉が口を開く。




 「普通に床に寝っ転がるは?」

 「」




 あ、まぁ、それでもありか………ん?いや、




 「いやいや、それじゃあ敷布団持ってくるよ。普段使ってないからそんなすぐ必要だってのはないから」

 「あ、そっか。それじゃあそうしよっか…」

 「だ、だね……」

 




 うわーーーー、なんか普通に何とかなったけどなんか気まず過ぎる………。


 そして、


 俺は一階の和室から敷布団を自分の寝室まで運んだ。






 「よし!!!それじゃあ気持ちを入れ替えようか!!!ほら隼人!!シャキッとして!!」

 


 柚葉は気持ちを入れ替えたようで俺に笑顔で語りかける。



 いや、お前のせいだぞ!!!!



 けど俺も変に欲に従ってたから言えないけどさ……。



 


 「それじゃあ背もたれは壁でいい?」


 俺は質問する。


 「ん!!全然いいよ!!」






 そして、ドラマを始める体制は整った。後は……、






 「それじゃあ隼人。このドラマには脚本がないから」

 「え」

 「流れはあれで抑えたから後はアドリブで乗り越えよう!!」

 「…………分かった」

 



 アドリブか……。なんかここにきて曖昧な着地だな。まぁ、柚葉がしっかり台本を用意してるとは1ミリも思ってないからいいんだけど。




 「よし、じゃあ始めるね?」

 「わ、分かった」




 よし…、やってやる。











 「あ、隼人……来てくれたんだね」

 「」




 スイッチの入れ替えが早すぎるわ……。


 めっちゃビビったわ。


 もう始まってんのかよ……、顔つきが凄い大人びたように見える……。




 「…………隼人?」

 「………あ……!!お、おう!!」


 

 何だよこれ……、



 そう無理矢理な笑顔を取り繕う柚葉の様は……とても……。



 


 「本当に来てくれた…」





 凄い……俺が上手く入り込めないのをもう一度自然に言い直すというフォローをしてくれた。流石だ……。




 「仕事の合間があったからな!!会いに来た!!!」



 これでいいのか?



 「そっか……ありがとう」

 「………な、なぁ!!今日さ、お前の誕生日だろ?だから……これ!!このブローチを渡したいと思ってさ…」



 勿論、何もない。演技でアドリブだからともかく思いついたセリフを吐いてる。



 「あ、お花形だ………可愛い」



 マジで凄い……流石、テレビに出てるだけあって演技がめちゃ上手い……。俺のアドリブに合わせてくれてる……。



 「どう……かな?」

 「………え……あ……!!に、似合ってる似合ってる!!!」

 「そう?ありがとう」

 「にしても今日はどうだった?」

 「んーー…窓の外を見るか本を読むかぐらいしかやってないからな……どうだろう……」

 「あ、あー!!そ、そうだよねそうだよね………」

 「でも、とても楽しかった」

 「」




 俺は"この後"、柚葉の言ったセリフを二度と忘れないだろう……。




 「あなたが………あなたが会いに来てくれるって考えられただけでとても幸せだったよ?」







 柚葉はそう俺の目を見て言いきった。





 「」





 俺が来てくれて幸せ?





 「…………………ん?隼人?」

 「……………」










 そうか………俺は……。






 不意に言われたこの言葉で俺は"耐えられなかった"。







 ポロ……。





 「!」





 そうだよな………。

 俺はこの言葉を言ってもらいたくて……"送ってあげたい"んだよな……。

 柚葉に対して俺が思っている気持ちじゃん………。




 畜生………。




 ポタ……ポタポタ……。




 「ご、ごめん……ちょっと待ってもらえる?」

 「」







 俺は泣いていた。








 なんて言うか……柚葉の言い方が本当に何の取り繕いもなく、本心だって感じてしまった。確信はない。けど、俺は泣いてしまった。誤魔化してる訳でも照れ隠しでもなく、俺の目を見てそう言い切った。





 ふざけんなよ……、





 こっちは……こっちはいずれ来るお別れの覚悟を決めようとしてるのに何でそんな風に言ってくるんだよ………。




 俺は……俺は…………お、れは………









 「嫌だよぉ……」

 



 「」





 思わず言葉が漏れていた。



 「………………」





 その時、柚葉は………、





 ギュッ…。




 布団から出て、俺を………、










 俺を抱きしめていた。




 とても温かったのは今でも…、




 覚えている…。









 あーー……、



 笑わされるんじゃなくて泣かされちまったよ。




 分かっている……"これ"は……





 【ただの思い込み】だってことも。

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