第38話 テスト当日

あの後、松浦さんからの謝罪のラインがきた。


自分の都合で呼んだのに、寝てしまったことを気にしていたみたい。


俺としては可愛い制服姿や寝顔を見れて、むしろラッキーだったくらいなんだけど。


……それを言えるような俺ではないのです。





そして、週が明けてテスト当日がやってくる。


教室に入ると、いつもとは空気が違う。


普段はお喋りしてる人も、単語帳や教科書を見ながらブツブツとつぶやいていた。


もしくは諦めの境地なのか、ただ上を見上げてる人もいる。


そんな中、変わりのない人が一人だけ……そう、松浦さんだ。


「あぁ、もうだめよ」


「平気だって! 佳子ってば、すっごい頑張ってたから!」


「あぁー! 赤点とったら補習で部活の大会に出れねぇ!」


「ほら、しっかり! 教えた所さえ出来てれば、赤点回避はできるから!」


落ち込んでる人を慰めたり、荒ぶってる人を鎮めていた。

彼女の声は不思議と、そういう力がある。

多分、本気で言ってるからだと思う。

俺が隣に座ると、松浦さんがたたっと近寄ってくる。


「あっ、吉野君だ! おはよー!」


「お、おはよう、松浦さん」


「テストはどうかなー?」


「多分、それなりには出来るかなって」


「ほへー、自信ありだね? これは、誰か優秀な人に教わったりしたね?」


そう言い、悪戯っぽい表情でウインクをする。

まあ、教えてくれたのは松浦さんだから……自分のことだね。

これは、多分からかってるんだと思う。

よし、いつもやられっぱなしだし……少し頑張ってみようかな。


「うん、実はそうなんだ。めちゃくちゃ可愛い女の子が教えてくれてさ。その子、めちゃくちゃ良い子で優しくて頑張り屋さんで……」


「……っ〜!? へ、へぇ、そんな女の子がいるんだね……」


「いつも、その子には感謝してるんだ。そのおかげで、楽しいことが増えたから」


「あ、えっと……」


「ほら、先生来たから席につかないと」


「そ、そ、そうだね!」


顔を真っ赤にした松浦さんが、慌てて隣の席に着く。

しまった、怒らせちゃったかな? 少し調子に乗りすぎたか……。

うーん、こういうのって難しい。


「さて、今日から四日間テストが始まるぞー。二年の最初のテストは、推薦を取りたい奴にとっては大事だ。あとは受験勉強も始まる奴もいるから、結構大事になってくる。というわけで、しっかりやるように」


「……先生が真面目なこと言ってる!?」


「いつもは適当なことしか言わないのにー」


「つまり要約すると……イチャイチャしたりゲームして遊んだりするんじゃない。先生なんてな、彼女も友達もいなくて勉強しかやることなかったんだ。お前らも、そうなってしまえ」


先生は相変わらず闇を抱えているみたいだ。

でも、しっかりと社会人をしている……俺もこんなだけど、そのうち大人になれるのかな。

そんなことを考えいると、隣から視線を感じるので見てみると……俺をジトっと見ている松浦さんと目が合う。


「むぅ……」


「……なんでしょうか?」


「べ、別に……」


やっぱり、怒ってるのかも。

これは謝っておかないと。

俺はこっそりとスマホをいじり、松浦さんにラインを送る。


『調子に乗ってごめんなさい』

『えっ? 違くて……もう!』


俺がどういうことかと思って見ると……松浦さんはスカートを両手で押さえて縮こまっていた。

まるで、何かが恥ずかしそうに。


「おーい? 先生がイチャイチャすんなって言った側からこそこそ話すなよ……っと、チャイムが鳴ったか。そんじゃまあ、テスト頑張れよー」


そして先生が教室から出て行くと、みんなが再び教科書やノートにかじりつく。

すると、松浦さんが席を立ち……一瞬、俺の耳元で囁く。


「そんなのはこっちのセリフなんだから……」


「えっ? ……どういう意味だろ?」


聞く前に、彼女は他の生徒のところに行ってしまう。


仕方ないので、俺も最後に確認のためにノートを開くのだった。





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