第48話 テスト返却と体育祭
そして翌週になり、テストがまとめて返却される。
俺はというと、全体的にいつもより点数が良かった。
これなら、正式にバイトの許可が下りるだろう。
「さて、これで中間テストも終わりだ。六月に入ったし、次は体育祭だな。予定通り、このホームルームの時間を使って種目を決めていくぞ」
「体育祭か……」
「ねえねえ、吉野君は何か決まってる? 一人一つは決めないとだよね?」
「い、いや、俺は余ったので良いかなと」
そもそも、運動神経は皆無である。
ただ、全員リレーで迷惑をかけないようにはしたいけど。
「そっかー、私は何にしようかな」
「足も速いし、なんでも出来そうだよね」
「でも、負けたくないし。やるからには、一等を取りたいかなって……吉野君的には、私は何に向いてると思う?」
松浦さんに向いてる競技……運動神経いいし迷う。
俺が思うのは……あれかも。
「……借り物競争とか?」
「へっ? 借り物競争……その心は?」
「さっきも言ったけど足早いし、松浦さん友達多いからさ。それなら、お題が何が来ても平気かなって」
「確かに盲点だったかも……そっか、すぐに見つかる可能性は高いね」
するとタイミングを見て、先生が黒板に競技の名前を書いていく。
「話し合いはできたかー? とりあえず、種目を上げていくから手を上げろー」
そして、次々と競技が決まっていく。
松浦さんは予定通りに借り物競争に、俺はというと余り物の障害物競争になった。
「吉野君、体育祭がんばろっ」
「ぜ、善処します」
「えへへ、変な言い方」
「それは言わないでください……」
体育祭なんて、ずっと参加するのが嫌だった。
いつも浮くし、みんなが楽しそうにやってるのを見るのが辛かった。
でも、今回は少しだけ頑張ってみようと思う。
松浦さんを見てると、不思議とそんな気持ちになった。
◇
その日の放課後、俺はいよいよ初のバイトを迎えた。
今日は短縮授業だったので、店が空いてる三時から開始となる。
一度家に帰った俺は自転車を走らせ、店の裏口から中に入る。
そして和装の制服に着替えると、店長と松浦さんが出迎えてくれた。
「うん、似合ってるね!」
「そうだね。吉野君は小柄だし、昔の司書さんみたいだ」
「そ、そうですかね? ……ありがとうございます」
ためだ、身体が震えてきた。
今から、お客さんの前に出るんだよね。
「そんなに緊張しないで大丈夫ですよ。最初は研修バッチもつけているので、お客様も大目に見てくれますから。幸い、うちには良識ある大人の方が多いので」
「は、はいっ、頑張ります」
「そうそう! ここのお客さんって、良い人が多いんだ〜。私も、ここだと滅多にナンパとかされないし」
「はは……それは何というかご苦労様です」
なるほど、松浦さんがここを選んだのはそれも理由なのかも。
この容姿でマックとかカフェとかいたら大変だろうなぁ。
それだけで、行列ができちゃいそうだ。
「ほんとだよー、おかげでバイトを転々としなくちゃいけなくて……だから、ここは長く続けたいんだよね。店長、良い人だし?」
「松浦さん、とってつけたような台詞なのですが?」
「えへへ、本音ですってば」
「そうですかね? おじさんは、いつも転がされてる気がしてならないよ」
「あぁー、来週も出ようかと思ったけど……」
「すみません、出てください」
「かしこまりっ」
そのやり取りは軽快で、松浦さんにとって居心地の良い職場なんだなって思う。
普段から色々と気を使ってる子だから、こういう場所があって良かった……なんて偉そうなこと言える立場じゃないけど。
そもそも、今のやり取りだって俺に気を使ってしてくれたことだろうし。
「コホン……とりあえず、今日は見ることを中心にやってもらいます」
「私の後ろについて、何をするかとか見ててね。質問があればメモに書いたり、後で裏できいたりとか」
「はいっ、よろしくお願いします」
そして、俺の初バイトが始まるのだった。
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