第21話 ヒロイン視点

 ……嬉しかった。


 思わず、顔がにやけてしまうくらいに。


 何故か見られたくなくて、そっぽを向いちゃったけど。


 元々、私はそういうのが好きではなかった。


 合わないなら絡まなきゃ良いし、折り合いをつけて付き合えば良いって。


 ただ、それが顕著になったのは……お兄ちゃんがいじめで不登校になってからだ。


 結果的にお兄ちゃんは高校を中退し、家に引きこもってしまった。


 両親も喧嘩が増え、離婚してしまうし……ただ、それはお兄ちゃんが理由というよりきっかけに過ぎなかったんだと思う。


 仕事人間のお父さんと、構って欲しいお母さんは合わなかったのだろう。


 幸い、泥沼になる前に離婚して、仲も悪くはない。


 私も、お母さんとは月に二回は食事をするし。


 ……でも、できる事なら家族で……みんなで仲良くが良かった。


 お兄ちゃんのことがなければ、そんな未来もあったかもしれない。


 もちろん、お兄ちゃんを責める気は無い。


 責めるべきは、それをした人達だから。


 私は、お兄ちゃんみたいな人を出したくないから頑張ってるつもり。


 それで逆に、陰口を言われてるのも知ってる。


 だから……吉野君の言葉が嬉しかったんだよね。


「松浦さん、ぼーっとして大丈夫? エレベーターきたけど」


「あっ、ごめんなさい。すぐに行くね」


 いけないけない、今はお出かけ中だった。

 先に乗ってる吉野君を追って、慌ててエレベーターに乗ろうして……足をとられる。


「きゃっ!?」


「うわっ!? だ、大丈夫!?」


「へ、平気!」


 わぁ〜!? 抱きしめられちゃった!?

 いや! 吉野君が受け止めてくれただけなんだけど!

 そういえば、意外としっかりした身体してる……やっぱり男の子なんだなぁ。


「あ、あの? どうして背中を触ってるの?」


「おっと、いけない。えへへ、これはセクハラになっちゃうね」


「い、いや、別に平気だけど」


 照れ隠しを隠すようにして、私はおちゃらける。

 そのまま、平気なふりして離れた。


「吉野君、受け止めてくれてありがと」


「いえいえ、どういたしまして」


 そしてエレベーターが一階に止まり、ひとまず建物の外に出る。


「ふぅ……気持ちいいや」


「うんうん、天気もいいし」


「俺なんかインドアだから、こういう感じも久しぶりだよ」


 吉野君はそう言って笑った。

 目がなくなり、少し可愛い……醤油顔の人って割と好みだったり。

 でも、楽しそうで良かった。


「まだ始まったばかりだよー?」


「それもそうだね」


「何食べたい? そういえば、マック行ったことないんだっけ?」


「はい、恥ずかしいことに。流石に持ち帰りとかはあるけど、中に入って食べたことはないんだ」


「そんなことないって。それじゃ、マックにしよっか」


 吉野君が頷いたので、ビルのすぐ近くにあるマックに入る。

 ゴールデンウィークってこともあるけど、相変わらず賑やかだった。


「おおっ、めちゃくちゃ人いるね」


「そりゃ、ゴールデンウィークですから。でも、ここはましな方だよ。商店会の入り口と出口に二箇所あるから」


「確かに、駅前にもあったね」


「本当なら順番待ちをするところだけど……うん、平気だね」


 並んですぐに、店員さんから声をかけられる。

 吉野君は、見るからにカチカチになって緊張していた。

 笑っちゃいけないってわかってるけど、思わず漏れてしまう。


「いらっしゃいませー! ご注文はお決まりでしょうか?」


「あっ、いえ、まだです」


「ふふ、平気だって。いつもは何にしてるの?」


「姉さんが買ってくるのを適当に食べてました……」


 へぇ、お姉さんがいるんだ。

 ふむふむ、吉野君のことを一つ知れたね。


「それじゃ、男の子だとテリヤキバーガーかな。サイズはMで平気? 飲み物はどうしよう?


「は、はい。それでお願いします。飲み物……コーラかな」


「はーい。お姉さん、てりやきマックバーガーMセットでコーラ、チーズバーガーMセットでオレンジジュースでお願いします」


「はい、かしこまりました」


 その後、お会計を済ませ番号を持って席に着く。

 まだ12時前ということもあり、端っこの良い席が空いていた。


「良かったね、席が空いてて。早めにきて正解かも」


「確かに。今レジを見ると、一気に列ができてきたし……ごめんね、注文させちゃって」


「ううん、気にしないで。あんまり、得意じゃない?」


「……うん。人と視線が合ったり、話したりすることが苦手なんだ。高校生にもなって情けないけど」


「別に向き不向きがあるし情けなくないよー。なるほど、目が合うのが苦手……」


 私は頬杖をついて、吉野君をじっと見つける。

 意外とまつ毛が長かったり、綺麗や眉をしてるなーとか思った。

 ふんふん、磨けば光るタイプと見た。

 それと、物凄く嬉しいことに気がついた。

 私を助けてくれた時は、相当勇気を振り絞ってくれたんだなって。


「な、何か変?」


「ううん、見てるだけ。あっ、目を逸らした」


「そ、逸らすに決まってるよ。松浦さん……その、可愛いし」


「あ、ありがと」


 あれ? おかしい……言われ慣れてるはずなのに。


 なんか、上手く返せなかった。


 ……どうしてだろ?









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