第20話 彼女の理由

 ……俺はハイタッチされた手を眺める。


 ハイタッチなんて生まれて初めてで、自分が経験するなんて思ってなかった。


 体育祭とか文化祭、その他の行事で……みんながやってて良いなって思っていた。


 松浦さんと仲良くなってから、俺の日常には驚きばかりが溢れてるみたいだ。


「どうしたの? 手をじっと見て……」


「いや、なんでもないんだ。さて、せめてガーターは無くさないと」


「二ゲームはあるから、慣れていこうね」


 俺は頷き、再びボールを持って……投げる!

 俺の投げたボールは斜めの軌道を描いて、ピンに触れることなくレーンを通り過ぎた。


「プッ……私は何もみてないよ?」


「……いっそのこと笑ってください」


「大丈夫だって! さっきよりはいいもん! レーンの真ん中くらいは行ったじゃない?」


「まあ、確かに……よし、やってみよう」


 その後、結局ガーターを続ける。

 松浦さんは上手くて、スペアやストライクを取ったりしていた。

 俺も頑張らねばと思い……四ターン目にして、ようやくピンを倒すことに成功する。


「た、倒れた! 二本だけど倒れたよ!」


「やったねっ! いえーい!」


「い、いぇーい?」


「えへへ、固い固い」


 手を出されたので、思わずハイタッチをしてしまう。

 当然、自分からするのも初めてだった。


「な、慣れてないんで……というか、たったの二本で喜んじゃったよ」


「いいじゃんいいじゃん、初めてなんだし。よし! 次は三本を目指して頑張ろー!」


「……そうだね。よし、頑張ろ」


 その言葉に、俺も頑張ろって気になる。


 俺は基本的にネガティブで暗いけど、彼女はいつもポジティブで明るい。


 彼女の前向きさは、一体何処からきてるんだろう?



 ◇



 その後、ボーリングが終わったのだが……既に腕が痛い。


 深刻な運動不足が露見してしまった。


 イートインコーナーの席で、思わず項垂れてしまう。


「平気ー?」


「な、何とか」


「うんうん、初めてだし仕方ないよね」


「いやぁ、単純な運動不足です運動不足です」


 あまりに情けない……これじゃ、次に来た時もえらいことに。

 いや、次も来るかはわからないけど

 ……ゲームばかりしてないで、運動もしないとかなぁ。


「どうするー? 十一時半は過ぎたけど……」


「ごめん、一回出ても大丈夫? 外の空気が吸いたい……」


「うん、もちろん。それじゃ、ついでにお昼も食べちゃお」


「確かにお腹空いたかも」


 ひとまずエレベーターに乗るために、移動を開始する。

 段々と人が増えてきたため、彼女に視線が集まってくる。

 可愛いとか、隣のやつ地味とか……当たってるだけに仕方ない。


「うーんと……楽しいかな?」


「えっ?」


「いや、少し暗い顔をした気がしたから……」


 ……俺は馬鹿か。

 周りの人がどうとか関係ないじゃん。

 理由はどうであれ、俺は松浦さんと約束して遊んでいるんだ。


「もちろん楽しいよ! ……腕は痛いけど」


「ほんと? えへへ、それなら良かった。私って、結構強引なところあるでしょ? もしかしたら、ウザいかなって」


「そんなことない。俺はいつも、松浦さんって凄いなって思ってる。クラスでもみんなの話を聞いたり、一生懸命に盛り上げようとしたり。目立たない俺とかにも、声をかけてくれたし」


 きっと、俺以外の地味なクラスメイトも救われているはず。

 彼女がいるおかげで、少なくともハブられるような子はいない。

 するとエレベーター前で、松浦さんが大きな瞳を俺に向けて固まる。


「……」


「い、いや、偉そうだったね」


「ううん、そんなことない……ありがと」


 そう言い、松浦さんはそっぽを向いてしまう。

 何かまずいこと言ったかと思い、慌てて話題を探す。


「そういえばさ、松浦さんって前向きだよね?」


「そうかな?」


「うん、いつもポジティブでさ。俺、凄いなって思う。さっきの話にも通ずるけど、どうしてなのかなって」


「うーん……私ね、みんなが仲良くが良いの。陰口とか悪口とか、あんまり好きじゃなくて。もちろん、合う合わないはあると思う。ただ、それを理由にそういうことするのは違うかなって」


「なるほど……」


 だから、彼女は俺のことも助けてくれたのか。

 きっと、他にも助けられる子はいるだろう。


「まあ、良い子ぶってるとか言われちゃうこともあるけどね。でも、それが私がしたいことだから」


「上手く言えないけど……少なくとも、俺はそんなこと思わないよ」


「……えへへ、嬉しいかも」


 すると、こっちを向いてはにかんで笑う。


 もしかしたら、彼女なりの悩みがあるのかな。


 ……俺で力になれることがあれば良いけど。

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