第19話 ボウリング
はい、というわけで初体験です。
と言っても、変な意味ではなく……ただのラウンド○だけど。
最近、ようやく所沢駅周辺にできたらしい。
そこにはトランポリン、卓球やバトミントン、バスケットゴールなどの遊具。
ボウリングやカラオケ、ゲーセンまであるという場所だ。
「これが噂のアミューズメントパーク……」
「プッ!? そんな異世界に来たみたいに言わないでよー」
「いやいや、俺からしたら異世界なんだけど……やったことないものばかりだし」
「じゃあ、連れてきて正解だったかも」
あの後、俺が何もかもやったことがないと改めて説明した。
それなら全部あるところに行こうとなり、このラウンド○にきたってわけだ。
「でも、お金とか結構かかるんじゃ……」
「ううん、一日中遊んでも三千円くらいですむよ。もちろん、ゲーセンのメダルとかやっちゃうと大変だけど」
「あっ、そうなんだ。それくらいなら何とか」
「最悪、私が出すから大丈夫だよー」
「いやいや! それはまずいと思う!」
「そう? もしあれだったら遠慮なく言ってね」
こっそり財布を確認してみる……うん、まだ余裕あるから平気だ。
危ない危ない、どうやら女の子にお金を借りるっていう恥ずかしい事態にはならなそうだ。
本当なら奢ったりした方が良いかもだけど……バイトもしてない俺には、そんな甲斐性はないのです。
「ありがとう。えっと……何からやろう?」
「うーん、まずはボウリングかな? 今からカラオケとかだとお昼を過ぎるし、ゲーセンも時間どれくらいかかるかわからないし。幸い、今なら空いてるみたいだし」
「わかった。それじゃ、そうしよう」
その提案に従い、まずはボウリングの受付に行く。
まだ午前中ということもあり、確かに空いていた。
受付を済ませたら、靴を取ってボールを選ぶ。
「これって、普通はどれくらいなんだろう……」
「うーん、女の子は9から11で、男の子は12以降とかだったよ。私は10にしようかなー」
「なるほど、それなら12のボールを……っ!?」
その意外とある重さに驚く。
ぼ、ボウリングの玉ってこんなに重たいんだ。
「 平気? 無理なら、それ以下でも平気だよ?」
「い、いや、ここは何とか……よし」
「えへへ、男の子って感じ」
「はは、流石に女の子用は避けたいので……」
陰キャぼっちで引き篭もり体質の俺、腕力が死ぬほどないみたいだ。
やっぱり、少しは身体を動かさないとまずいかなぁ。
そんなことを考えつつ、指定のレーンに行き……ピンが設置される。
「名前があるから、順番に投げていく感じだよ。というわけで、まずは吉野君から。流石にルールはわかる?」
「うん、それは流石に」
「良かった。では、いってらっしゃーい」
「い、行ってきます」
俺はボールを持って、フラフラしながらレーンの前に立つ。
と、とにかく、思い切り投げれば良い!
そして、俺が思い切り投げたボールは……レーンの半分も行くことなく、横のガードに落ちていった。
「……ガーターってやつかな?」
「……ププ……あははっ! 吉野君、フォームめちゃくちゃ綺麗なのに!」
「なるほど、フォームは合ってたと」
「うんうん、というか笑っちゃってごめんなさい」
そう言い、両手を合わせて謝ってくる。
ただ、不思議と俺は嫌な気分にはならなかった。
多分、彼女が馬鹿にして笑ってるわけじゃ無いとわかってるからだ。
「いや、全然平気だよ。むしろ、笑ってくれないと気まずいかな」
「それは確かに。でもでも、本当にフォームは合ってたから、後は投げるタイミングとかだと思う」
「そっか、手を離すタイミングってことか……よし、やってみる」
これはリアルとはいえ、ゲームには変わりない。
そしたら、それを微調整していけばいけるはず。
伊達に引きこもって、ゲームばかりしてるわけじゃない。
一応、アクションゲームやシューティングも得意だし。
「これでっ……!」
「わぁ、めちゃくちゃ綺麗……にガーターに入ったね」
「……あれ?おかしいな?」
「ふふ……あははっ! おかしー!」
やっぱり、ゲームとリアルは違うらしい。
でもまあ……松浦さんが笑ってくれたから良いかな。
少しは楽しませてあげれたみたいだし。
「結構難しいなぁ」
「初めてだから仕方ないよー。じゃあ、お手本を見せますか!」
「うん、よろしくお願いします」
サイドテールの髪を揺らしながら、彼女がボールを持って歩いていく。
そして、助走をつけてボールを思い切り投げる!
それは真ん中を行き……ピンのほとんどを倒した。
「あちゃー、いきなりストライクは無理だったかー」
「でも、残りは三つだね。それに、一箇所に纏まってる」
「うん、どうにか倒したいところ……良しっと」
帰ってきたボールを持ち、再び助走をつけて放つと……見事に残りのボールが倒れた。
「やったっ! スペア!」
「おおっ、凄い」
なるほど、ああやって投げればいいのか。
俺がそんなことを考えていると、松浦さんが手のひらを広げて俺を見ていた。
「えっと?」
「吉野君! こういう時は、ハイタッチをするのです! じゃないと、私が恥ずかしい人になってます!」
「ご、ごめん! ハイタッチ……こうかな」
「いえーい!」
手を合わせると心地よい音がなり、彼女が満面の笑顔になる。
それと同時に……なんだか、感じたことのない高揚感に包まれるのだった。
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