第18話 待ち合わせ

あの後、ラインの返事が返ってきて、ゴールデンウィークの真ん中に会うことになった。


俺はその間に、中間試験の勉強や家のことを済ませて準備を整えた。


そして、当日の朝を迎える。


……のだが、俺は肝心なことが姉さんに言えてなかった。


「ね、姉さん、今日は家にいるの?」


「今日はいるわ。というか、疲れたからゴールデンウィークはずっと家にいるつもりよ」


「そ、そっか……俺、今日は出かけるからお昼は無しで平気」


「あら、珍しいじゃない。うんうん、いいことよ」


ほっ、どうやら突っ込まれることはなかった。

俺は安心して着替えや髪型を整える。

面倒だけど、あんまり酷い格好だと松浦さんに失礼だし。

俺なんかが釣り合うとは思えないけど、少しはマシにしないとね。


「……髪型に服装ねぇ」


「な、なに? どうかした?」


「いや、何でもないわ。それじゃ、私は私でのんびりしてるから遊んできなさい」


「わかった。それじゃ、行ってきます」


俺は自転車を走らせ、待ち合わせ場所に向かう。

と言っても、地元の人が行くところなんて限られている。

オフ会の場所でもあった所沢だ。

ここなら高校の人達は来ないし、地元からあの高校行った人もいないし。

……同中の人には会うかもだけど。






待ち合わせ場所である、駅前の時計台の前に行くと……そこには人集りが出来ていた。


というより一人の女の子がいて、それを周りの人達がジロジロと観察している。


それも仕方のないことで、彼女からは圧倒的なオーラが出ていた。


赤チェックのスカートに、白のV字Tシャツに青のパーカー、キャップに髪型はサイドテールという割と普通の格好なのに。


「お、おい、声かけようぜ」


「馬鹿言うなよ。あんな可愛い子無理に決まってんだろ」


「だよなぁ。どんなイケメンと待ち合わせしてんだか」


「いやいや、女の子かもしれないし。結構、ラフな格好だしさ」


そんな会話が、あちこちから聞こえてくる。

……すみません、待ち合わせ相手は俺なんです。

俺、今からあの子に声をかけないといけないのか……頑張らないと。


「ご、ごめん! 待ったかな?」


「あっ! 吉野君! ううん、今さっき来たところ」


「そうなんだ、それなら良かった」


すると、周りで見ていた人が反応する。


「おいおい、あれが待ち合わせ相手かよ?」


「いやいや、ないでしょ」


はぁ、やっぱりそうなるよね。

いや、自分でもそう思うし。


「というか、あの子って三十分前からいたよね?」


「だよねー。前髪触りながら、鏡とかめっちゃ見てたし。多分、十時にはいたよな」


俺が落ち込んでいると、そんな女の子の会話が聞こえてきた。


「えっ? ずっと待ってたの? あれ? 待ち合わせって十時半じゃ……」


「っ〜!? ち、違うもん! ほら、早くいこっ!」


「ちょっ!? っ……!」


突然腕を組まれて、商店街を歩いていく。

当然……柔らかなモノが当たってます!


「こ、ここまでくれば平気かな?」


「そ、そうかもね……あの、その」


「ご、ごめんなさい!」


「い、いえ、こちらこそ?」


俺も訳がわからず、変な返事をしてしまう。

ひとまず、離れてくれたようで一安心ではあるけど。

あのままだと、俺の心臓が保たない。


「ふふ、変なの。 あのね、別に待ち合わせだから早くきた訳じゃなくて、たまたま用事があって早くきたわけで……」


「うん、わかってるよ。松浦さんは慣れてるだろうし」


「むぅ……そんなことないもん」


「えっ? なんて言ったの?」


「何でもないっ。それで、今日はどうしよう?」


「うーん……」


実は、今日は特に予定を立ててない。

突発的だったし、ゴールデンウィークは何処も混むし高いし。

なので、現地に行ってから考えるということになった。


「何かしたいことあったりする?」


「何というか、こういう風に遊ぶことがないもので。普通の高校生はなにをするのかな?」


「マックで駄弁ったり、カラオケとかボーリングとか、後はゲーセンも行くしプリクラも撮るかなー」


おおっ、よく漫画とかアニメで見るやつ。

ただし、それは俺にとっては二次元の世界だった。


「うん……全部、行ったこともやったこともないや」


「えっ? ……ほんとに?」


「お恥ずかしいことに」


「ううん、そんなことないよ。そっかそっか……じゃあ、私が吉野君の初めてを貰っちゃおうっと」


そういい、華麗にウインクをしてくる。


俺は台詞と可愛さで、頭が真っ白になるのだった。

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