第18話 待ち合わせ
あの後、ラインの返事が返ってきて、ゴールデンウィークの真ん中に会うことになった。
俺はその間に、中間試験の勉強や家のことを済ませて準備を整えた。
そして、当日の朝を迎える。
……のだが、俺は肝心なことが姉さんに言えてなかった。
「ね、姉さん、今日は家にいるの?」
「今日はいるわ。というか、疲れたからゴールデンウィークはずっと家にいるつもりよ」
「そ、そっか……俺、今日は出かけるからお昼は無しで平気」
「あら、珍しいじゃない。うんうん、いいことよ」
ほっ、どうやら突っ込まれることはなかった。
俺は安心して着替えや髪型を整える。
面倒だけど、あんまり酷い格好だと松浦さんに失礼だし。
俺なんかが釣り合うとは思えないけど、少しはマシにしないとね。
「……髪型に服装ねぇ」
「な、なに? どうかした?」
「いや、何でもないわ。それじゃ、私は私でのんびりしてるから遊んできなさい」
「わかった。それじゃ、行ってきます」
俺は自転車を走らせ、待ち合わせ場所に向かう。
と言っても、地元の人が行くところなんて限られている。
オフ会の場所でもあった所沢だ。
ここなら高校の人達は来ないし、地元からあの高校行った人もいないし。
……同中の人には会うかもだけど。
◇
待ち合わせ場所である、駅前の時計台の前に行くと……そこには人集りが出来ていた。
というより一人の女の子がいて、それを周りの人達がジロジロと観察している。
それも仕方のないことで、彼女からは圧倒的なオーラが出ていた。
赤チェックのスカートに、白のV字Tシャツに青のパーカー、キャップに髪型はサイドテールという割と普通の格好なのに。
「お、おい、声かけようぜ」
「馬鹿言うなよ。あんな可愛い子無理に決まってんだろ」
「だよなぁ。どんなイケメンと待ち合わせしてんだか」
「いやいや、女の子かもしれないし。結構、ラフな格好だしさ」
そんな会話が、あちこちから聞こえてくる。
……すみません、待ち合わせ相手は俺なんです。
俺、今からあの子に声をかけないといけないのか……頑張らないと。
「ご、ごめん! 待ったかな?」
「あっ! 吉野君! ううん、今さっき来たところ」
「そうなんだ、それなら良かった」
すると、周りで見ていた人が反応する。
「おいおい、あれが待ち合わせ相手かよ?」
「いやいや、ないでしょ」
はぁ、やっぱりそうなるよね。
いや、自分でもそう思うし。
「というか、あの子って三十分前からいたよね?」
「だよねー。前髪触りながら、鏡とかめっちゃ見てたし。多分、十時にはいたよな」
俺が落ち込んでいると、そんな女の子の会話が聞こえてきた。
「えっ? ずっと待ってたの? あれ? 待ち合わせって十時半じゃ……」
「っ〜!? ち、違うもん! ほら、早くいこっ!」
「ちょっ!? っ……!」
突然腕を組まれて、商店街を歩いていく。
当然……柔らかなモノが当たってます!
「こ、ここまでくれば平気かな?」
「そ、そうかもね……あの、その」
「ご、ごめんなさい!」
「い、いえ、こちらこそ?」
俺も訳がわからず、変な返事をしてしまう。
ひとまず、離れてくれたようで一安心ではあるけど。
あのままだと、俺の心臓が保たない。
「ふふ、変なの。 あのね、別に待ち合わせだから早くきた訳じゃなくて、たまたま用事があって早くきたわけで……」
「うん、わかってるよ。松浦さんは慣れてるだろうし」
「むぅ……そんなことないもん」
「えっ? なんて言ったの?」
「何でもないっ。それで、今日はどうしよう?」
「うーん……」
実は、今日は特に予定を立ててない。
突発的だったし、ゴールデンウィークは何処も混むし高いし。
なので、現地に行ってから考えるということになった。
「何かしたいことあったりする?」
「何というか、こういう風に遊ぶことがないもので。普通の高校生はなにをするのかな?」
「マックで駄弁ったり、カラオケとかボーリングとか、後はゲーセンも行くしプリクラも撮るかなー」
おおっ、よく漫画とかアニメで見るやつ。
ただし、それは俺にとっては二次元の世界だった。
「うん……全部、行ったこともやったこともないや」
「えっ? ……ほんとに?」
「お恥ずかしいことに」
「ううん、そんなことないよ。そっかそっか……じゃあ、私が吉野君の初めてを貰っちゃおうっと」
そういい、華麗にウインクをしてくる。
俺は台詞と可愛さで、頭が真っ白になるのだった。
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