第17話 デートの約束?

 それから二日が過ぎ、ゴールデンウィーク前日を迎える。


 その間は、特に松浦さんと関わることなく過ぎていった。


 彼女は人気者だし、遊ぶ相手は一杯いるから仕方ない。


 バイトもしてるし凄いなって思う。


 ……ただ、少し寂しいかなって思ってる自分がいた。


「どうしようかな……」


「フスッ?」


 膝に乗ったおとめが、いいから撫でなさいと言ってくる。

 俺は学校帰りの夕方、のんびりとソファーに座っていた。


「はいはい、わかったよ」


「フンスッ」


「おとめ、俺から連絡したら迷惑かな?」


「フスフス」


 そんなこと知らないとてもいうように、鼻を鳴らしていた。

 そりゃ、うさぎさんに聞いてもわかるわけないよね。


「……勇気を出して、連絡してみるかな」


「フスッ!」


「あいたっ!?」


 膝を思いきり掘り掘りされた!

 まるで、早くしなさいとでもいうように。

 そして、そのまま自分の小屋へと帰っていった。

 うさぎは人の感情に敏感って聞くし、本当に思ってたりして。

 ……俺はスマホを開いて、勇気を出してボタンを押す。


「……あっ、しまった電話しちゃった。別にラインで連絡でも良かったのに……ど、どうしよう?」

『もしもし? 吉野君?』


 すると、松浦さんが電話に出る。

 な、何か話さないと……!


「こ、こんにちは」

『へっ?……えへへ、こんにちはー』


 わ、我ながらなんとアホな会話を……松浦さん戸惑ってるし。

 松浦さんだって暇じゃないんだから、早く要件を伝えないと。


『どうしたのー?』

「あ、あのさ……ゴールデンウィークってどうしてるのかなって」

『えっ? ……もしかして、誘ってくれてるの?』

「うん、一応……遊べないかなって。や、やっぱり、急だし用事あるよね」


 我ながら、本当に情けない。

 せめて、昨日にでも言っておけば良かった。


『ううん! なんとか時間作る! いつならいいかな!?』

「別に無理はしないでも……」

『平気! こういう時のために準備はしてあるから!』

「そ、そうなんだ? ……俺は暇なので、松浦さんに合わせるよ」

『それじゃ……夜にまたラインするで平気かな?』

「もちろん。本当に無理ならいいからね」

『うん、わかった。それじゃ、またねー』


 そこで通話が切れる。

 俺は緊張から、ソファーに寝転がる。


「き、緊張した……だけど、何とか自分から誘えた」


 人に言わせたら、なんて事ないかもしれない。


 ただ、俺にとっては大きな一歩だった。




 ◇


 わぁ……! ゴールデンウィークに遊ぼうって誘われちゃった!


 嬉しくて、思わずベッドの上でゴロゴロする。


「吉野君、私があんまりグイグイいくの嫌かなって思って言わなかったんだけど……えへへ、うざがられてないみたいで良かった」


 私は距離感が変らしく、たまにそういう事を言われたりしてきた。

 今はなるべく気をつけてはいるんだけど……嬉しくなったり、テンションが上がるとたまに出てしまう。


「でも、ゲームしてる時も吉野君優しかったし。ただ、気をつける時は気をつけないとね」


 スレイさんもそうだけど、吉野君にも嫌われたくないもん。

 昨日のゲームも、凄く楽しかったし。


「おっと、いけない。すぐに連絡しないと……」


 私はスマホを開いて、店長に連絡する。

 すると、すぐに店長が出た。


「もしもし? 店長、平気ですか?」

『ああ、平気だよ。な、何かな?』

「うーんと、シフト変えたくて……ごめんなさい」

『そうだよね。いや、気にしないで。普段、こっちが無理を言ってるからさ』


 自分で言うのも何だけど、私は結構頼みを聞いたりしてる。

 バイトの子がばっくれたり休んだ的には、なるべく出るようにしてるし。

 ただ、自分からこういう頼みごとをするのは初めてだったりする。


「ありがとうございます! その代わり、代わりの日に出ますから!」

『ううん、その日は普通に休んでいいよ。松浦さんがそう言うってことは、大事な用なんだと思うし。たまには休んで遊んだりした方がいいし』

「店長……では、お言葉に甘えさせていただきます」

『うん、そうしてくれるとこっちも気が楽になるし。それじゃ、調整をしようか?』


 その後、いつ休むかを相談して……通話を終える。

 こういう時に、普段頑張って良かったなって思えるよね。

 忙しい店だけど、店長も良い人だし。


「よし、あとは吉野君に連絡して……あれ? よく考えてたら、これって二人きりだよね? 吉野君と私は、秘密の関係なわけだし」


 つまりは、デートってことになるのかな?


 ……ど、どうしよう!? 男の子と二人で出かけるの初めてなんだけど!?


「い、いや、家に行ってるし今更かなとは思うけど……あの時は勢いというか、吉野君を逃がさないようといいますか」


 とにかく、約束をして二人で出かけるとは訳が違うのです。


 ……緊張してきちゃった。


 「何を着ていけば良いんだろ? 派手なのは好きかな? でも、あんまり目立ちたくないとか言ってたような気がする……地味目で大人しめにしたほうがいいのかな?」


 いやいや、別にデートって決まった訳じゃないし……もう、よくわかんない!


 まだ何も決めてないのに、私はクローゼットの中を見て考え込んでしまうのでした。


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