第16話 ある意味で初対面

家に帰ったら、おとめのお世話をして、それから部屋に行く。


パソコンを起動して、先に予習をしておく。


「えっと、今日は何を狩るんだっけ?」


前にアキラさん……松浦さんは、ランクを上げたいって言ってた。

そのための武器や防具の素材が欲しいとか。


「……そういや、そういうところあったよね」


俺がランク上げ手伝おうかって言ったら、それは負んぶに抱っこで嫌だと。

その代わり、素材集めとかは手伝ってくれると嬉しいって。

自分も足手纏いかもしれないけど、素材集めは手伝うからと。

あと、自分とやる時は弱い装備でお願いしますとも。


「なんというか、変な所で律儀というか負けず嫌いというか」


そういうところは、アキラさんぽくって違和感がなかったんだよなぁ。

もしかしたら、兄妹だから似てるところがあるのかもしれない。

そんなことを考えながら、装備確認をしていると……ライン通知が来る。


『スレイさん! 準備できたよっ!』

『こっちもできました。既に部屋は作ってあります』

『ありがとう! それじゃ、すぐに行くねー!』


ラインを終え、そのまま待っていると……俺の作った部屋にアキラさんが入ってくる。

俺は少しドキドキしながら、久々にヘッドホンをつけてマイクで話す。


「あ、あー……聞こえますか?」


「うんっ! 聞こえるよー!」


「それなら良かった……えっと、改めてましてスレイです」


「ふふ、変なのー。でも、確かに初対面だね。改めてましてアキラですっ」


ヘッドフォン越しからでも、その声の破壊力はすごい。

いや、ヘッドフォン越しだからこそか。

俺は一生懸命に動揺を抑える……今の俺はスレイ、今の俺はスレイ。


「えっと、とりあえず……対面しない時はアキラとスレイって呼び方でいいですか?」


「うん、そうした方がややこしくないかも」


「了解。それじゃ、好きなクエスト貼っていいですよ」


「ふふ、相変わらず敬語だね。あっ、もちろん気にしないから好きにしてね」


「あぁーラインとは別に、どうもアキラさんって認識が強くて。じゃあ、これから普通にするね」


本来のアキラさんは年上で、俺のゲームの先生だった。

当然、常に敬語だったし。


「うん、無理はしないでね……貼りました!」


「確認しました……良しっと」


「それじゃ、お願いします!」


「ええ、こちらこそ」


そうして、ゲームをスタートさせる。



……なるほど、本来はこんな感じに話してたのか。


アキラさんは、怪我をした後遺症で声と手が衰えたって言ってた。


だから凡ミスもしたし、操作ミスもしていた。


大変だろうなぁって思ってたけど……こっちはこっちで大変そうだ。


たった今、ゴリラ型のボスモンスターに追われてアキラさんが逃げ回っていた。


「きゃぁぁぁ!? こっちに来るよぉ〜!?」


「落ち着いて! 怒ったってことは体力が少ない証拠だから! さあ、振り向いて閃光弾を使って!」


「う、うんっ! ……えいっ!」


「ゴァァァ!?」


閃光弾を使うことで、敵が目くらまし状態になる。

でも、それは数十秒しかもたない。


「今のうちにっ!」


「うんっ!」


俺は双剣で、彼女は斧を使ってダメージを与えていく。

両方とも火力に優れた近接武器なので、閃光弾との相性は悪くない。

一気に敵を攻撃していき……消滅する。

そしてゲームクリアの文字が浮かび、素材を剥いだら待機時間となる。


「ほっ、どうにが倒せたね。一回も死ななかったし、良い素材入るかも」


「うん、なんとか……緊張したぁぁ」


「それにしてもすごかったね? いつもあんなだったり?」


「うぅー恥ずかしい……だって怖いもん。でも、やっぱり話しながら遊ぶのは楽しいね!」


「確かに盛り上がりはするよね」


こっちもあたふたするけど、それもまた楽しいし。

わーきゃー言っている感じとか、俺はリアルでは味わえないし。


「それじゃ、今後はこういう感じでいいかな?」


「うん、俺の方もやりやすいし」


「それじゃ、私はバイト行ってくるねー。また時間あったら連絡するから」


「了解です。バイト頑張ってね」


「ありがとー!」


そこでログアウトの文字が浮かび、部屋にひとりぼっちになる。


他にやる相手はいるけど、何となくそんな気分になれずにゲームをやめた。


俺はベットに寝転んで……さっきまでのことを思い出す。


「……楽しかったなぁ」


リアルを知ってるからか、変に着飾ることもしなかった。


いつもはスレイっていうか、ベテランっぽくしてるつもりだし。


そうなると……リアルでゲームをやるっていうのも悪くないのかもしれない。

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