第6話 膝枕

 ……あれ? 俺は何をして?


 なんだが、頭がふわふわする。


 ……柔らかくてもちもちした感触がある? これ、なんだろ?


「ひゃん!?」


「……ひゃん?」


 その声で現実に帰り、目を開けてみると……そこには口元を袖で抑えている松浦さんがいた。

 少し恥ずかしいそうにも見える。

 というか……どうして、俺はこのアングルから彼女を見ているのだろう?


「そっか、これは夢なんだ」


「ゆ、夢じゃないよぉ〜!」


「えっ? ……ええっ!?」


 頭が一気に覚醒し、その場から飛び起きる!

 辺りを確認すると、何やらテンマさんがニヤニヤと眺めていた。

 そうだ、俺はオフ会に来て……あの後、情けないことに気を失ったのか。

 あんな風に立ち向かったのは、生まれて初めてだったからなぁ。


「や、やっと目を覚ました……大丈夫?」


「う、うん、平気そう」


「えへへ、良かった」


 そう言い、花が咲いたように笑った。

 あまりの可愛さに、再び気を失いそうになる。

 俺は咄嗟に顔の前に手をやり、彼女の顔が見えないようにした。


「くっ……眩しい」


「何してるのー?」


「いえ、あんまり見ないで頂けると……」


「どうして? 膝枕してる時に散々見たし」


「膝枕……?」


 膝枕、それは男の子の夢。

 ラノベや漫画のシチュエーションで、幾度となく見てきた。

 俺には起こりえないものと言いながら、いつかは誰かにやってほしいと。


「うん、してたよー。その間、ずっと顔を見てたし」


「……うァァァ!!?」


「び、びっくりした〜。どうしたの、急に」


「ど、ど、どうしたのって!? 膝枕だよ!?」


 あの柔らかいのは太ももだったのか!

 なんてことだ! あんまり記憶にない!


「べ、別にそれくらい……」


「おほん! 見てる分には楽しいのだが、そろそろいいだろうか?」


「テンマさん、騒がしくてごめんなさい」


「いやいや、気にしないで。さて、スレイ君……まずはすまなかった」


 どう見ても大人であるテンマさんが、俺に向かって頭を下げてくる。


「あっ、えっと……?」


「本来なら、彼には主催である俺がもっときつく注意すべきだった。それを、君に任せて申し訳ない。アキラ君も、改めて申し訳なかった」


「そんなことないですよー。テンマさんは一度言ってくれましたし。空気を壊したくないから我慢するって言ったのは私ですし」


「い、いえ! 俺はたまたまというか……アキラさんには返しきれない恩があったので。ただ、どうしてアキラさんが女の子なのかは疑問ですけど」


「それに関しては俺にはなんとも。アキラ君の声を聞いたことがあるのは、きたメンバーでは君くらいだったからね」


「あっ、確かに……そもそも、他の皆さんはどちらに?」


 周りを見ると、いつのまにか和室には俺達三人しかいなかった。


「時間がきたから、みんなには帰ってもらったよ。もちろん、君のおかげで楽しく終えられた」


「ここ、二時間貸切だったんだ。今さっき、みんなが帰ったところ。私達は君が起きるまで、待ってようって」


「あっ、そういうことだったんですね。じゃあ、俺もお金を払わないと……」


「いやいや、君の分は俺に払わせてくれ。迷惑をかけてしまったし、君は何も飲み食いしてないからね」


「で、ですが………」


「ここは俺の顔を立てると思って。そうしないと気が済まないんだ」


 テンマさんのことは知ってる。

 ゲーム内でも責任感が強くて、よくボス戦などで皆をまとめていた。

 ほとんどソロの俺も、よくお世話になっていた人だ。


「……わかりました」


「助かるよ。それじゃあ、俺はこれで。この埋め合わせは、何処かですると約束する」


「は、はい! 色々とありがとうございました!」


「はは、それはこちらの台詞なのだが。やはり、ゲームには本質が出るんだね……君は仲間がピンチになると、いつも敵に立ち向かっていたし……それじゃ、またゲームで会おう」


 そう言い残し、店から出て行く。


 ただ……相変わらず、俺の頭は何がなんだかわからず混乱していた。


 結局、アキラさんは誰だったのだろう?









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