第5話 勇気を振り絞る
……待て待て、落ち着いて。
俺はアキラさんと知り合ってから三年は経ってる。
その時のアキラさんは、すでに長年やってきたネトゲプレイヤーだった。
そうなると色々とおかしいし、しかも声も聞いたことあるし、断じて女の子ではないはず。
「……つまり、どういうこと?」
「私がアキラなの! うわぁー、まさかスレイさんが同じクラスの男の子だなんて」
「わ、わかったから、少し離れようか? ねっ?」
「えー、仕方ないなぁ」
さっきから良い香りがするし、フニュンって当たりそうになってる。
何より、目の前にいる厳つい男性が睨んでるし。
偏見かもしれないけど、ツーブロックの人は怖いです。
「はっ! いやいやスレイさんが、こんなヒョロガキだったとは」
「はは……」
「プレイしてる時は勇敢だったのに、すっかり縮こまってんじゃん」
「す、すみません」
確かに俺のプレイスタイルは、敵の攻撃をくぐり抜けて立ち向かう剣士だった。
素早い動きで死にそうな仲間にアイテムを使ったり、魔法を溜める時間稼ぎをしたり色々とフォローに回ることも多かった。
「やっぱり、ああいう奴らはリアルだとダメなわけか。まあ、俺とかアキラちゃんは別だけど。ほら、早くこっちの席に戻りなって。憧れか知らないが、そいつがダメだってわかったろ?」
「むぅ……そんなことない」
その時、俺の手の上に松浦さんの手が置かれる。
そして気づいた……少し震えていることに。
そうだよ、こんな男に言い寄られて怖くないわけないじゃん。
松浦さんのことだから慣れてるかと思ったけど……それでも怖いに違いない。
「松浦さん」
「吉野君?」
「こ、困ってるかな?」
「………」
すると、こくんと頷いた。
そうなると、俺のやることは決まってる。
今だけは、勇敢なスレイとして勇気を振り絞らないと。
だって、この子はリアルで二度も助けてくれた。
なんで松浦さんがアキラさんなのかとか疑問はあるけど、今はどうでもいい。
どっちにしろ、この子に救われたのは事実なんだ。
「あの……貴方のハンドルネームは?」
「はぁ? な、なんだよ?」
「吉野君、その人はパンサーって言ってたよ」
「へぇ、パンサーさんね……ああ、あの自己中で協調性がない人か。いつもみんなに迷惑かけたり、みんなが戦ってる間にアイテムとか採取してる人ね。それで、最後だけボスに参加とか」
自分でも考えられないくらい、すらすらと言葉が出てくる。
そうだ、今の俺はスレイなんだ。
気弱な吉野じゃなくて、みんなを助けるスレイだ。
「は、はぁ? 今はカンケーなくね?」
「えっ? だって、これはゲームのオフ会だから関係あると思いますけど。ここでも、同じように迷惑をかけるつもりですか?」
「はっ、インキャのガキがカッコつけやがって。あんま調子に乗ると痛い目を見るぞ?」
「良いですよ、殴っても。その代わり、困るの貴方ですけど。それと……大事な人が困ってたら、かっこつけるのは当たり前じゃないですか」
正直言って、全然状況は飲み込めてないし、身体は今にも震えそうになってる。
それでも、アキラさんだろうが松浦さんだろうが、俺を救ってくれた人には違いない。
だったら、少しくらい勇気を出さないと……。
「こんのっ」
「そうだそうだ! 良い歳こいて高校生相手に何をやってるんだ!」
「楽しいオフ会が台無しだ!」
「そういう人は帰ってくれ!」
次々とそんな声が聞こえてくる。
多分、みんなも怖くて言えなかったんだ。
そして、流石に騒ぎになるとまずいと思ったのか……男の顔が焦りに染まっていく。
「っ!? く、くそっ! もう二度と来るか!」
「もう呼ばないから平気さ!」
最後にテンマさんがいうと、慌てて靴を履いて去っていく。
それを見た瞬間、頭がぼやけてくる。
そして、意識が遠ざかっていく……。
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