第24話 ゲーセンにて
少しすると、何事もなかったかのようにカラオケを再開する。
俺はといえば……リクエストを受けて、それをひたすら歌っていた。
「吉野君! これは歌える!?」
「えっと……うん、多分。というか、ゲームの歌が多いね」
「だって、お兄ちゃんが聞いてたから。小さい頃は一緒の部屋だったし、隣でゲームを見てたこともあるし」
「あぁー、そういうことかぁ。確かに、アキラさんと話してたね……お兄さんの方の」
良くゲーム主題歌の話とかしてた。
特にテイル○については熱く語っていたっけ。
その影響で世代じゃ ないのに覚えたんだった。
「お兄ちゃん、ゲーム好きだったから。あのね、 お兄ちゃんはスレイさんのことよく話してくれたよ」
「そ、そうなんだ? 手がかかる奴とかかなぁ……俺ってば、散々迷惑かけちゃったから」
「ううん、そんなことないよ。お兄ちゃんは性格も優しいし、ズケズケと入ってこないからいい奴だって」
「それなら良かった。そりゃ、誰だって聞かれたくないことあるよ」
「でも、意外と仲良くなると聞いてくる人もいるみたいだった」
「あぁー……そういう人もいるかも。女の子なのとか、平日の昼間に何してんのとか」
そんなのはゲームをする上で関係ないことだ。
仲良くなりたいとかコミュニケーションをとりたいっていうのはわかる。
でもそれは、相手の同意があってこそだ。
「だよねー。私もそれを聞いてはいたから……じゃなくて続き続き」
「そうだね、歌わないと」
「……えへへ、ありがとう」
「えっ? 何かお礼言われるようなことしたかな?」
「だってお兄ちゃんのこと、深く聞いてこないから。きっと、お兄ちゃんもそういうところがスレイさんを気に入った理由なんだと思う」
「……まあ、自分がされたら嫌なことはしないようにはしてる」
普段褒められることがないので、どうしていいのかわからない。
俺は慌てて曲を入れて歌うのだった。
そして、あっという間に二時間が経過して電話が鳴る。
二人で片付けをして、お会計を済ませた。
「ふぅ……」
「大丈夫? 少し疲れたかな?」
「いや、平気だよ。カラオケは楽しかったし」
「私も楽しかったっ。吉野君、歌が上手かったし」
「あ、ありがとう」
ただ、あの狭い密室はどうにかしてほしい。
今度来ることがあれば、広い部屋でお願いしますって言いたい。
「さてさて、この後はどうしますかねー? せっかくだし、吉野君のしたいことがいいかな」
「俺のしたいこと……そうなると、ゲームになっちゃうけど」
「全然いいよー。それじゃ、ゲームコーナーいこっか。幸い、カラオケのすぐ近くだし」
そうなのだ、俺の目には既にゲームコーナーが見えている。
実はカラオケ行く前から気になっていた。
そのまま、広いゲームコーナーを歩いて回る。
「格闘ゲーム、リズムゲーム、シューティングゲーム、レーシングゲーム……後は奥にはメダルゲームもあるんだ」
「大体は揃ってるかなー。あと、下の階にはUFOキャッチャーがあるよ」
「うーん……まずはガンシューティングやってみたい」
「私、やったことないや」
「えっ? じゃあ、別の方が……」
「ううん、やろやろ! せっかく遊んでるなら、そういうのがいいよね。普段、自分がやらないこととか」
俺は彼女に背を押され、ガンシューティングがある方に向かう。
相変わらず前向きで、俺とは正反対だ。
……でも、そういう考え方もあるんだと思った。
「あっ、ちょうど空いてるみたい。じゃあ、やろっか」
「うん、そうしようか」
二人でお金を投入して、ゲームを始める。
ちなみに、ゾンビモノのガンシューティングで、画面の外に銃を下げればリロードがされるらしい。
その後、ゲームをやると……既視感がある声が。
「キャァァァァ! こないでぇぇ〜!」
「松浦さん! 目を瞑ってたらダメですよ!」
「だって怖いもん! 吉野君助けて!」
「わ、わかりましたっ!」
「あ、ありがと〜!」
俺は必死にリロードを繰り返し、松浦さんに近寄るゾンビたちを排除していく。
それを終えたら、自分に迫ってる敵を倒す。
なんとか、五ステージ中の三ステージまでは行ったが……そこでゲームオーバーとなる。
「これめちゃくちゃリアルで迫力ある! 最近のやつってすごい!」
「確かに目の前にいるかのようだったね」
「というか、吉野君めちゃくちゃ上手い! こうシュバババって感じでリロードして、あっという間に倒しちゃった!」
「良かった、ゲーマーの汚名返上はできたみたいで」
「うんうん、すっごくかっこ良かったし」
俺は真っ直ぐに見つめて褒めてくる彼女から目をそらす。
たかがゲームなのに、本気で言ってるから嬉しくなる。
「えっと……次は松浦さんがしたいことしようか? 何かあったりする?」
「ええ〜いっぱいあるなぁ……まずは二個くらいにしとこうかな」
「いっぱいあるんだ……」
「うん、遊具があるところには行ってないし。でも、もうすぐ四時だし……うん、それがいいかも。吉野君、こっちこっち!」
彼女の後を追って、俺も歩いていく。
こんなに時間が早く過ぎるのは、初めての経験だった。
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