第23話 カラオケにて
……カラオケって、こんなに狭いの!?
ソファーが一個しかないし、ほとんどテーブルとテレビで場所が埋まってるし!
「ど、どこに座れば……」
「ほらほら、奥に座って!」
「ちょっ!?」
奥に押し込まれて、ソファーに座らされる。
そして、隣に松浦さんが座った。
……近い近い! 良い匂いする!
「時間も二時間しかないから、ちゃちゃっと歌っちゃおう」
「そ、その前に狭くない?」
「うん? 確かに少し狭いけどこんなもんだよ? もちろん、広い部屋に通される場合もあるけど。それに、さっきの店員さんも言ってたし」
「い、いや、言ってたけど……」
流石に想定外です! こんな密室とは思ってませんでした!
……俺は息をして良いのだろうか?
「それで、何を歌う?」
「こういう時って何を歌うべきなの?」
ぁ
「別になんでも良いんだよ? カラオケなんて自己満足なんだから」
「自己満足……なんか、人に合わせないといけないと思ってた」
誰かがJ-POPを入れたならそれを、アニソンを入れたらそれをみたいな。
というか、機械を見せてくるので肩と肩が触れ合うくらい近いのですが?
「ううん、そんなことないよー。もちろん、ノリとかはあるけど。個人的には、別にスマホをいじってても良いし」
「えっ!? ……怒られないの?」
「うーん、そういう人もいるけど……あんまり、行きたくないかな。もっと気楽に歌いたいし」
「そういうものなんだ」
「おっと、お喋りも楽しいけど入れないと……よっと。はい、入れたから次は吉野君が入れてね」
そう言い、俺に機械を渡して立ち上がる。
俺が機械をタッチしながら、何か歌えるものがあるか必死に探していると……イントロが流れる。
それは、俺でも知ってる歌でヨアソ○のとあるアニメの主題歌だった。
アップテンポでめちゃくちゃ難しい歌だったはず。
そして、松浦さんが歌いだす……。
◇
……凄かった。
振り付けまでして、音程もリズムも完璧だった。
というか、声も可愛くて貴女がアイドルですかって感じだ。
「おおっ……めちゃくちゃ上手かった」
「ほんと? ……き、緊張したぁぁ〜」
「えっ? 松浦さんでも、緊張することってあるんだ」
「むぅ……当たり前です。私だって、初めて行く人と歌う時は緊張します」
「なるほど……でも、それを聞いて安心したよ」
松浦さんでも緊張してるなら、俺が緊張するのは当たり前だ。
それなら、当たって砕けよう。
「うん、そうしよう」
「それに、私だって男の子と二人は初めてなんだし……密室だし」
「うん? ごめん、何か言ったかな?」
「な、なんでもない! ほら、早く選んで!」
「わ、わかった」
アニソンでも良いとわかった俺は、安心して機械を操作する。
そして、スパイ家族の主題歌を入れた。
「あっ、有名なやつ……歌えるの?」
「多分……家で鼻歌とかは歌ってたから」
そして歌詞が出てきたので歌い出す。
めちゃくちゃ緊張してるので、手汗がすこいことになったけど……どうにか歌い切る。
「ふぅ……お、終わった」
「わぁ……上手!」
「そ、そう?」
「うんうん! 声も高いし、音程も合ってた! これ、めちゃくちゃ難しい歌なのに!」
そう言い、身をぐいっと寄せてくる。
近いので、慌てて離れようとすると——
「わわっ!?」
「きゃっ!?」
「………」
「………」
俺が押し倒された状態で、上に松浦さんがいる。
何故かじっと見つめられ、俺は動くことができない。
吸い込まれそうな瞳、俺の頬に触れる綺麗な金髪。
そのどれもが、魅力的で目が離せない。
「えっと……」
「……はっ!? ご、ごめんなさい!」
「い、いや、平気」
「うぅー……つ、次を歌おっ!」
松浦さんが慌てて起き上がり、そっぽを向いて機械の操作をする。
気のせいか……その後ろから見える耳が赤い気がした。
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