第25話 最後に

 ……前言撤回。


 ゲーマーの汚名返上したばかりなのに、もう無になりそうです。


「吉野君! 右上! 次は左下!」


「ちょっ!? 無理だって!」


 先程から音ゲーをしているが、手が全く追いつかない。

 上から落ちてくる球に合わせて、タイミング良くボタンを押すだけなのに……我ながら、何と情けない反射神経だ。


「はぁ……ひどい得点だ」


「あちゃー、音ゲーは苦手なんだ? 歌は音程取れてるのにねー」


「いやいや、別物でしょ。これは手を使うし」


「そうかなー? リズム感があるんだからいけると思ったんだけど」


「無理無理。そもそも、俺は運動音痴だし」


 すると、彼女がふと微笑む。


「……えへへ」


「えっ? ど、どうかした?」


「ううん、少し吉野君の言い方が雑になったから」


「……ご、ごめん」


「何で謝るの? 私は嬉しいよ? たまに敬語になったり、崩れたりしてたけど……私は、もっと気軽に話しかけてほしいな」


 そうなのか……自分では全然意識してなかったけど。

 それで松浦さんが喜ぶなら頑張ってみよう。


「わ、わかった。とりあえず、もう一回やってもいい?」


「うんっ! がんばろー!」


「お、おー! よーし……」


 そして、再びゲームが始まる。

 画面上から落ちてくる球に、タイミング良くボタンを合わせるだけなのに……!


「くそぉぉぉ!」


「ファイトッ! 右! 左! 真ん中!」


「オォォォ!」


 と息巻いてみたのはいいが……あっという間にゲームオーバーになった。

 いやいや、無理だって。

 そもそも、音ゲーは範囲外だ。

 ただ流石に……初級くらいはクリアしたかった。


「……あははっ! ほとんどあってない!」


「どうぞ、思う存分に笑って……」


「ふふ……じゃあ、私が仇をとっちゃおうと。さっきは、吉野君が助けれてくれたし」


 お金を投入して、彼女がゲーム台の前に立つ。

 さっきまでと違い、その目は真剣そのものだった。

 そして……スタートの合図がなる。


「おおっ……」


「よっと……うんうん、いい感じ!」


 連動する球に合わせてボタンを押していく。

 まるで、踊ってるみたいだ。

 そして、中級とはいえ最後までやりきった。


「すごいや!」


「えへへ、いえーい!」


「い、いえーい」


 今度はちゃんとわかったので、タイミング良く手を合わせる。

 パチンといい音が鳴り、よくわからないけどむずむずしてきた。


「今度は上手く手を合わせられたね……ゲームはダメだけど」


「ぐっ……松浦さんだって、シューティングは全然ダメだったじゃんか」


「むぅ……あれはちょっと怖かっただけだもん。今度は違うシューティングゲームやるし」


「……はは」


「……えへへ」


 二人で目が合い、何故か微笑み合う。

 すると、何やら感じたことのない高揚感に包まれるのだった。





 時間も五時になり、最後に松浦さんがしたいという場所に行く。

 そこには男性のみは立ち入り禁止と書いてあった。

 つまりはプリクラ……ほぼ、女の子しかいない空間です。


「入っていいのかな?」


「うん、もちろん。私がいるから平気だって」


「それでは、失礼します……」


 周りにいる女の子達からジロジロ見られつつも、空いてる機械に入る。

 そこは電話ボックスくらいのスペースしかなかった。

 周りはチカチカと明るく、なんだか落ち着かない。


「ほらほら、とりあえずお金入れよ」


「そ、そうだね」


 二人で割り勘をしてお金を投入すると……機械が話し出す。

 松浦さんは、慣れた手つきで何やら操作をしていた。


「えっと、設定はこれでよしと。あんまり、気持ち悪い見た目にはしたくないから加工はなしでと」


「あぁー……なんか、テレビで見たことあるけど気持ち悪かったね」


「あそこまで盛っちゃうとねー。これはめちゃくちゃ古い機種だから平気だと思う。あっ、始まるから顔とポーズを作って!」


「えっ!? そんなのわからないし!」


 俺の声も虚しく、カシャっというシャッター音がする。


「もう、しょうがないなぁ……えいっ!」


「わわっ!?」


 突然腕を組まれて、柔らかな胸の感触がする。

 そのまま、シャッターが押されていく。


「んー、次はこう! はい! 真っ直ぐに立って!」


「わ、わかった!」


 言われるがままに、真っ直ぐに立つと彼女が俺の肩に顎を乗せた。

 ちかっ!? 息が当たる!?

 そして、再びシャッター音がし……あっという間に終了となった。


「お、終わった? ……はぁ」


「あれれ? 随分と老けました?」


「ほっといてよ。こちとら、プリクラ自体が初めてなんだし」


「私だって、男の子とは初めてだもん」


「……えっ?」


「い、いいから! 表に行って落書きするよ!」


 機械から出て、横についている画面に撮った写真が映る。

 そこには、情けない顔をした俺がいた。

 目を瞑ってたり、鼻の下が伸びてたり……それに比べ、彼女はまるでモデルのように決まっていた。


「ププ……変な顔」


「いっそのこと楽にしてください……」


「でもでも、この一枚なんかはいいかも。私が顎を乗せてるやつ」


「……確かに、マシな顔はしてるかも」


「じゃあ、これとあれと……よし、落書きしてこー」


 そして、何やらペンを渡された。

 画面にはタイマーがあり、どうやら時間制限があるらしい。


「な、何を書くの?」


「なんでもいいんだよ。今日の日付とか、二人の名前とか……好きなことを書いてね」


「おふ……難易度たかい」


 ルールがないというのは個人的に辛い。

 だけど、ここで書かないと松浦さんは気落ちしちゃうよなぁ。

 俺はタイムが迫る中、とりあえず文字を書いていく。


「よし、制限時間に間に合った!」


「こ、こっちも何とか」


 すると、すぐにプリントアウトされて出てくる。

 それを取り出して、ハサミがあるスペースに向かう。


「どれどれ……ふふ」


「へ、変だった?」


「ううん、そんなことない。すごくいいと思う」


 俺が書いたのは友達と初めてラウンド○に来たという文字と、めちゃくちゃ楽しいという文字だった。

 今日のことを考えた時に、これしか浮かばなかった。


「松浦さんは……おおっ、めちゃくちゃカラフル」


「まあ、時間制限あったからこんなものかなー」


「あっ、オフ会ですって書いてある……確かにそうだね。あとは記念日って書いてあるけど?」


「なんの記念日かは、それぞれで考えようね」


 そう言い、無邪気に笑うのだった。


 記念日……俺からしたら、女の子と初めて出かけた記念日になるのかな。


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