第42話 面接

……やばい、緊張してきた。


いきなり面接することになってどうしよう?


何を話せば良いんだろう?


「……君……ってば」


「ど、ど、どうし——むがっ!?」


その時、俺の口に何かが放り込まれた。

……パンケーキの甘さが、俺の脳内を稼働させる。

どうやら、対面に座る松浦さんにパンケーキを突っ込まれたらしい。


「もぐもぐ……い、いきなりなに?」


「だって、全然話を聞いてないんだもん。ごめんね、私が無理言って」


「ごめん、流石に緊張して……いや、感謝してるよ」


よくよく考えてみたら、俺はこんな感じのダメな男だ。

そもそも、バイトを探して……それで電話して面接してってやってたら、多分時間がかかっていたに違いない。

そのまま、やっぱり良いやってなってた可能性もある。


「ほんと? ……嫌じゃなかった?」


「うん、それはないかな」


「えへへ、なら良かった〜」


「松浦さんいるなら心強いし、少し頑張ってくるよ」


そうだ、これは折角貰ったチャンスだ。


松浦さんの顔を潰さないためにも頑張らないと。







その後、準備ができたので従業員専用の扉に通される。


さらに奥に進み、畳四畳くらいしかない小さな部屋に案内された。


パソコンと机、あとは本棚だけがある狭い空間だ。


「ごめんね、狭くて」


「い、いえ、ここは?」


「私の仕事場兼、面接とか相談を受ける場所かな。後は他の従業員が気を使わないように、ここにいることが多いよ。逆に相談相手や面接の子が緊張しないようにね」


「へぇ、そうなんですね」


柔らかい物腰と、その説明もあり、俺にしては落ち着いていた。

確かに大勢にジロジロ見られたら、固まってしまう可能性がある



「さて、早速だけと始めるとしようか」


「あの、こういうのって履歴書がいるのでは?」


「普通はそうだね。ただ君の場合は松浦さんの紹介だし、同じ高校だというのも知ってる。学生証さえ見せてくれれば、それで身分は保証されてるから。受かったら後で書いてもらうけど、面接では使わないから平気だよ」


「わ、わかりました」


前言撤回、ど緊張してきた……!

でも、そうすると何を話すんだ?

履歴書を見て、何かお話しするものだと思ってた。


「まずは簡単な質問から……バイトの動機は何でしょうか?」


「えっと……お金が欲しいのと、社会勉強のためです。俺、物凄く内弁慶というか……その……」


「大丈夫、落ち着いて」


その言葉に俺は深呼吸をする。

すると、少し身体から力が抜けた。


「す、すみません」


「いえいえ、緊張するのが当然ですから。それを直したいということですか?」


「は、はい、それもあります。そんな理由じゃだめですよね……」


「もしかしたら他ではだめかもしれないですが、私はそうは思いません。バイトを雇うということは我々は低賃金で人手確保が出来、バイトの皆さんは社会勉強や融通の利く時間に働くことできる……つまり、双方にメリットがあるのです」


「……そういう考えもあるのですね」


……なるほど、よく人を見る松浦さんが働こうと思ったわけだ。

この人、ちゃんとした大人の方だ。

なんというか、目線を合わせてくれてる気がする。


「何より一大人として、若い子に社会勉強をさせるのは義務かと。あと、内緒ですが……私も人見知りだったので」


「えっ? ……そんな風には見えないです」


「だったら、私の頑張りも無駄ではなかったということですね。人と視線を合わせるのが苦手で、よく下を向いてました。志望動機も、貴方と似たようなものです」


「なんだが、そう言ってくれると気が楽になりました」


「それは良かった。それでは、引き続き質問をしていきますね」


そして週に何回入りたいとか、いくらぐらい稼ぎたいとか、何時間くらい入れるなどの質問を受けていく。

俺は最初よりリラックスしながら、それらの質問に答えていく。


「家からも近いので交通費はかからないと。部活もしてないので週に二、三回は入れるし、時間も22時まで平気……うん、文句なしです」


「……それって?」


「お疲れ様でした。ひとまず、合格と思ってもらって大丈夫です。後は書類を書いてもらって、それを本部に送りますから」


「あ、ありがとうございます!」


お、俺がバイトに受かった?

教室に入るだけで緊張したり、何をやってもだめだったのに。

もちろん、本番はこれからなんだけど……なんか嬉しいや。


「いえいえ、こちらも助かりますから。何より、松浦さんの紹介なので人柄は心配いらないので」


「やっぱり、ここでもすごいんですか?」


「ええ、若いのに従業員達のまとめ役というか……元気があって、こっちも頑張る気にさせる子ですね」


「めちゃくちゃわかります。俺も、それがあってバイトがしたいかなって」


そうだ、勘違いしてはいけない。


そもそも、こうなったのは松浦さんのおかげだ。


バイトもそうだし、俺が人並みに話せるようになったことも。


何より、少し前向きに考えれるようになった。


そしたら、今までと同じ景色なのに違って見えたり。


……やっぱり、何かお礼がしたいなぁ。

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