第42話 面接
……やばい、緊張してきた。
いきなり面接することになってどうしよう?
何を話せば良いんだろう?
「……君……ってば」
「ど、ど、どうし——むがっ!?」
その時、俺の口に何かが放り込まれた。
……パンケーキの甘さが、俺の脳内を稼働させる。
どうやら、対面に座る松浦さんにパンケーキを突っ込まれたらしい。
「もぐもぐ……い、いきなりなに?」
「だって、全然話を聞いてないんだもん。ごめんね、私が無理言って」
「ごめん、流石に緊張して……いや、感謝してるよ」
よくよく考えてみたら、俺はこんな感じのダメな男だ。
そもそも、バイトを探して……それで電話して面接してってやってたら、多分時間がかかっていたに違いない。
そのまま、やっぱり良いやってなってた可能性もある。
「ほんと? ……嫌じゃなかった?」
「うん、それはないかな」
「えへへ、なら良かった〜」
「松浦さんいるなら心強いし、少し頑張ってくるよ」
そうだ、これは折角貰ったチャンスだ。
松浦さんの顔を潰さないためにも頑張らないと。
◇
その後、準備ができたので従業員専用の扉に通される。
さらに奥に進み、畳四畳くらいしかない小さな部屋に案内された。
パソコンと机、あとは本棚だけがある狭い空間だ。
「ごめんね、狭くて」
「い、いえ、ここは?」
「私の仕事場兼、面接とか相談を受ける場所かな。後は他の従業員が気を使わないように、ここにいることが多いよ。逆に相談相手や面接の子が緊張しないようにね」
「へぇ、そうなんですね」
柔らかい物腰と、その説明もあり、俺にしては落ち着いていた。
確かに大勢にジロジロ見られたら、固まってしまう可能性がある
「さて、早速だけと始めるとしようか」
「あの、こういうのって履歴書がいるのでは?」
「普通はそうだね。ただ君の場合は松浦さんの紹介だし、同じ高校だというのも知ってる。学生証さえ見せてくれれば、それで身分は保証されてるから。受かったら後で書いてもらうけど、面接では使わないから平気だよ」
「わ、わかりました」
前言撤回、ど緊張してきた……!
でも、そうすると何を話すんだ?
履歴書を見て、何かお話しするものだと思ってた。
「まずは簡単な質問から……バイトの動機は何でしょうか?」
「えっと……お金が欲しいのと、社会勉強のためです。俺、物凄く内弁慶というか……その……」
「大丈夫、落ち着いて」
その言葉に俺は深呼吸をする。
すると、少し身体から力が抜けた。
「す、すみません」
「いえいえ、緊張するのが当然ですから。それを直したいということですか?」
「は、はい、それもあります。そんな理由じゃだめですよね……」
「もしかしたら他ではだめかもしれないですが、私はそうは思いません。バイトを雇うということは我々は低賃金で人手確保が出来、バイトの皆さんは社会勉強や融通の利く時間に働くことできる……つまり、双方にメリットがあるのです」
「……そういう考えもあるのですね」
……なるほど、よく人を見る松浦さんが働こうと思ったわけだ。
この人、ちゃんとした大人の方だ。
なんというか、目線を合わせてくれてる気がする。
「何より一大人として、若い子に社会勉強をさせるのは義務かと。あと、内緒ですが……私も人見知りだったので」
「えっ? ……そんな風には見えないです」
「だったら、私の頑張りも無駄ではなかったということですね。人と視線を合わせるのが苦手で、よく下を向いてました。志望動機も、貴方と似たようなものです」
「なんだが、そう言ってくれると気が楽になりました」
「それは良かった。それでは、引き続き質問をしていきますね」
そして週に何回入りたいとか、いくらぐらい稼ぎたいとか、何時間くらい入れるなどの質問を受けていく。
俺は最初よりリラックスしながら、それらの質問に答えていく。
「家からも近いので交通費はかからないと。部活もしてないので週に二、三回は入れるし、時間も22時まで平気……うん、文句なしです」
「……それって?」
「お疲れ様でした。ひとまず、合格と思ってもらって大丈夫です。後は書類を書いてもらって、それを本部に送りますから」
「あ、ありがとうございます!」
お、俺がバイトに受かった?
教室に入るだけで緊張したり、何をやってもだめだったのに。
もちろん、本番はこれからなんだけど……なんか嬉しいや。
「いえいえ、こちらも助かりますから。何より、松浦さんの紹介なので人柄は心配いらないので」
「やっぱり、ここでもすごいんですか?」
「ええ、若いのに従業員達のまとめ役というか……元気があって、こっちも頑張る気にさせる子ですね」
「めちゃくちゃわかります。俺も、それがあってバイトがしたいかなって」
そうだ、勘違いしてはいけない。
そもそも、こうなったのは松浦さんのおかげだ。
バイトもそうだし、俺が人並みに話せるようになったことも。
何より、少し前向きに考えれるようになった。
そしたら、今までと同じ景色なのに違って見えたり。
……やっぱり、何かお礼がしたいなぁ。
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