第43話 面接後の話

その後、少しの雑談と今後の流れを説明されて……その部屋から出る。


すると、通路の向こうで松浦さんがウロウロしていた。


……多分、俺を心配してくれてるのだと思う。


「あっ、吉野君! 終わった!?」


「う、うん、何とか無事に終わったよ」


「店長! どうでした!?」


「はいはい、わかってますよ。ひとまず、合格と思ってもらって大丈夫です」


「わぁ……! やったぁ!」


「わわっ!?」


や、柔らか!? 俺……抱きつかれてる!?

明らかに胸が触れてるし、顔の部分に髪が触れていた。

ど、どうすればいいの!?


「松浦さん、落ち着いてください」


「あっ——ごめんなさーい!」


「だ、だ、大丈夫!」


全然大丈夫じゃありませんけど!

お、女の子ってあんなに柔らかいんだ……。


「それで、いつからやるの?」


「とりあえず、テストが返ってきてからみたい」


「あっ、そっか。一応、テストの成績が悪いとバイト出来ないもんね。それに、店長もそういう考えだし」


「松浦さんに無理な頼みをした身で言えることではないですが、学生の本分は勉強ですから。基本的に、学校優先で良いですからね」


「はい、わかりました。ただ、今回は問題ないと思います」


松浦さんと勉強した部分が出てきたし、空白欄は埋めてある。

少なくとも、平均くらいは取れているはず。


「それなら安心です。それでは、テスト返却以降に履歴書を持って、うちに来てください」


「はい。その、今日はありがとうございました」


「いえいえ、こちらこそ良い子そうで安心です」


その後、松浦さんと一緒に店を出る。

四時半を過ぎて、空が夕暮れ色に染まっていた。

それを見上げた瞬間、俺の全身から力が抜けていく。


「つぁ……!」


「へ、平気?」


「はは……気が抜けちゃったみたい。ほんと、情けないや」


人によってはなんて事ない事かもしれないけど、俺にとっては一大イベントだった。

バイトをしようと思った日に、面接を受けることになるなんて。


「ううん、そんなことないよ。店長、ああ見えて人を見る目は厳しいから。問題起こしそうだったり、人柄が良くない人は取らないから」


「そうなんだ?」


「そうそう。だから、私も長く続けられてるし。こんな見た目なので、結構色々なバイトを転々としてたんだよねー。髪の色もそうだけど、色恋沙汰とかで」


「あぁー……ご苦労様です」


そりゃ、天然だって言っても信じない人もいるよなぁ。

それに、どこに行ってもモテモテなのは間違いない。


「ありがとー。まあ、ここのみんな割と良い人っていうか、線引きが出来る人達だから安心して良いよー」


「……頑張ります」


「うん、がんばろっ。私がビシバシ教えてあげる!」


「お、お手柔らかにお願いします」


「えー、どうしようかなー? スレイさん、たまにゲームで厳しかったし?」


手を後ろで組んで、悪戯っ子のような顔で覗き込んでくる。

たったそれだけで、俺の心臓が跳ね上がってしまう。


「あ、あれは、アキラさんがやれって……」


「えへへ、わかってますよー。あっ、私帰らないと……それじゃ、明日もよろしくね」


「うん、よろしく」


「またねー!」


手を振り、タタタッと駆けていく彼女が夕日に照らされる。


黄金の髪が光り輝いて綺麗で……しばらく、その場で呆けてしまうのだった。






……ちょっと強引だったかな?


吉野君がバイト探してるって言ったから、思わず自分のバイト先を紹介しちゃった。


嫌だと思ってないと良いんだけど。


普段はそんなことないんだけど、なんだか吉野君のことになると熱くなっちゃう。


「うーん、どうしてだろ? でも、これで一緒に居られるね」


学校では秘密だし、私も吉野君には迷惑をかけたくないし。

多分、色々な人から質問が来ちゃうだろうし。

そのせいで、虐めとかになったら……耐えられないもん。


「幸い、バイト先にはそんな幼稚なことする人はいないし。居たとしても、バイトなら逃げられるしね」


学校というのは狭く逃げ場がない。

それに、噂なんかはすぐに広まってしまう。

私自身だって、よく思わない人がいるのもわかってる。


「よし、吉野君が楽しく居られるようにがんばろっと」


一緒にお仕事したり、バイト代で遊んだり……色々なことをしてみたいなっ。

今から働けば夏休みにはお金が入るだろうし、プールとかもいけちゃうかも。


「ん? なんだろ? 別に他の友達とやってることは変わらないはずなんだけど」


なんだか、とってもワクワクしている自分に気づく。


明日会うのも楽しみだし……なんだろ?




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る