第13話 正式にお友達

 そして、十分ほどで小屋掃除が終わる。


 そのタイミングで、松浦さんから声が聞こえた。


「できました! うんうん、美味しそう。吉野君、どこで食べる?」


「いつもは、そこのテーブルで食べるかな」


「それじゃ、席についてね」


 俺は大人しく従い、キッチン前にあるテーブルにつく。

 すると、すぐに山盛りの焼きそばがやってくる。

 ホカホカと湯気が出て美味しそうだ。


「はい、焼きそばの大盛りだよ」


「おおっ、美味しそう」


「ただの焼きそばだけどね。それじゃ、召し上がれー」


「い、いただきます……美味い」


 空腹なのはあるけど、それ以上に美味い。

 野菜はシャキシャキしてるし、豚肉も硬くなってない。

 何より、味付けが美味しい。

 ソースと、何か他の味もしたりするけど……なんだろ?


「ほんと!? ……ほっ、良かった〜」


「本当に美味しいよ。これ、何か入ってるの? 市販とは違う感じだけど。あと、肉が柔らかい気がする」


「うんとね、中濃ソースとオイスターソース、それに隠し味でケチャップを入れたよ。豚肉は、ハチミツに少し浸けてから焼いたから柔らかくなってると思う。ついでに甘さもつくしね」


「へぇ、だから少し甘いのかな。うん、めちゃくちゃ美味しい」


「まあ、お腹空いてたしね」


「ううん、それとは関係なく美味しいよ」


「……えへへ、ありがとう」


 そして、次々と食べ進める。

 すると、何やらじっと見られてることに気づく。

 その顔は相変わらず可愛くて、それに気づくと箸が止まってしまう。


「えっと、何か変かな?」


「あっ、じっと見てると食べ辛いよね。ただ、男の子なんだなって。凄い勢いで食べるし」


「ま、まあ、一応……」


 彼女がスマホを触りだしたので、その間に食べ進める。

 そして、あっという間に完食する。

 量もあったし、時間も五時半なので夕飯でいいだろう。

 ……女の子の手料理、しかも松浦さんのなんて信じられないや。


「ふぅ、ご馳走様でした。めちゃくちゃ美味しかったです」


「お粗末様でした。それは見てたからわかるよー」


「でも、五時半になっちゃったけど……どうしよう?」


「私は六時半には帰らないとかなー。ここから家まで、大体二十分くらい……あと、三十分くらいしかないね」


「ごめん、俺がぐずくずしてたから」


「ううん、急に来るって言ったのは私だよ。それにお礼ができて良かったから」


 ……それは俺のセリフだった。

 彼女がいなければ、俺はまた学校に行けなくなっていたかもしれない。

 彼女がいるから、クラスでいじめのようなことも起きてないし。

 友達こそいないけど、俺は学校に行くのが嫌じゃなくなったから。

 ……だから、今度は俺が頑張らないと。


「……松浦さん、何かしたいこととかあるかな? 俺にできることがあったら言ってね」


「ほんと!? えっと……また遊びに来てもいい?」


「も、もちろん……」


「あっー! 顔が引きつってる!」


「こ、これは違くて……女の子を家に入れるの初めてだし」


 いつもの家なのに、なんかいい香りするし。

 目が合うと緊張するし、挙動不審になってしまう。


「そうなんだ……じゃあ、初めて同士だね!」


「そ、そうだね。ただ、うちに来てどうするの?」


「んー、お喋りしたり、一緒にゲームしたり? 別に何かをする必要はないし」


「……何かをする必要がない」


「ただ一緒に漫画を見たり、別々のことをしてもいいってことかな」


 ……それでいいんだ。

 てっきり、遊ぶとなると何かをずっと一緒やるんだと思ってた。

 それなら、俺でもできそうだ。


「なるほど……映画とかアニメとかは?」


「うん、いいと思う。お互いの好きな漫画とか貸し借りしてもいいし」


「おおっ、友達っぽい」


「だから、もう友達だって言ってるのにー」


「はは……そうだったね。えっと、それじゃよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくね!」


 すると、弾けるような笑顔を見せてくれた。


 ……やっぱり、直視するのは難しそうです。


 ただ、卑屈になるのはやめようと決めた。


 それは、友達になりたいっていう彼女の気持ちを蔑ろにすると思ったから。





 ◇




 吉野君の家からの帰り道、私はご機嫌で自転車を走らせる。


 ずっとスレイさんに憧れてて、その人がまさか同じクラスの男の子で。


 オフ会でも助けてくれたし、ずっとスレイさんとは友達になりたいって思った。


「えへへ、これでお友達になったから遊べる。その先は、ちょっとわからないけど……まだ、恋とかしたことないもん」


 よく男の子には告白されるけど、今は誰とも付き合う気はありませんって言ってる。

 それは嘘じゃないし、いいなって思う人はいたりしたけど。


「……憧れとかはあるけどね」


 でも、男の子の家に行ったのは初めてだったなぁ。

 一応、自分の見た目はわかってるから行かないようにしてたし。

 今回は吉野君というか、スレイさんだったから安心してたから行ったけどね。


「ふふ、少し緊張してたの気づいたかな?」


 それ以上に、吉野君がアワアワしてたから平常心を保てたけど。

 ご飯を食べてる姿は、少し可愛かったかな。

 ……なんか、吉野君といると楽でいられるかも。

 いつも、割と気を使って生きてるから。





 そして、誰もいない部屋に帰ってくる。


「ただいまー……って、誰もいないけどね」


 手早く手洗いうがいをして、まずはお兄ちゃんの部屋に入る。

 そこには本棚や漫画があり、デスクには大きなパソコンがある。

 私はそこに座って、毎日の日課である練習を始めた。

 やるゲームはもちろん、スレイさんが教えてくれたアクションゲームだ。

 モンスターを倒して素材やお金をゲットして、それを使って武器を作ったりして次の強いモンスターを倒していく。


「お父さんが帰ってくる前にやらないとね」


 お父さんは私がゲームをしてることを知らない。

 お兄ちゃんのことがあるから、あんまりゲームに良い印象を持ってないから。

 お兄ちゃんは引き篭もりになった時があって、ずっとゲームばかりしてた。

 それが直接の原因ってわけじゃないけど、お父さんとお母さんも離婚したし。


「ほんとは、もう少し吉野君の家にいられたけど……でも、ゲームの腕が落ちちゃうと迷惑かけちゃうし。こいつとゲームやってもつまらないとか思われたくない」


 もちろん、吉野君……スレイさんが、そんなこというはずはないとは思うけど。

 でも、本当に初期の頃迷惑かけてばっかりだった。

 どうしてもコメントだけだと、教えるのは大変だっただろうし。


「でも、次は会話しながらできるかも」


 そしたら、学校で話せなくてもいいかな。

 あとは、たまに放課後とか遊んだり。


「カラオケとか、ボーリングにゲーセンとか……うん、良いかも」


 次に吉野君と何をするのか考えながら、私は楽しくゲームをするのでした。







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