第12話 お礼

 おとめのお陰で、最初の緊張がどうにか緩和してきた。


 すると、俺の腹が思い切り鳴いた。


「あっ……」


「ふふ、お腹すいてたの?」


「いや、お昼ご飯食べてなくて……」


「あれ? ……もしかして私のせいかな?」


「いやいや! そういうわけじゃないよ! その……女の子と初めてライン交換したから、びっくりしちゃってさ」


 情けない話だけど、この子には嘘をつきたくない。

 それに、この子なら馬鹿にしないと思うから。


「初めてなんだ……あのね、私も男の子の家に来るのは初めてなの」


「えっ? そ、そうなんだ」


「あっ、意外そうな顔した! やっぱり、遊んでる風に見える?」


「ごめん! そんなつもりはなくて……ただ、男友達は多そうだったからびっくりはした」


 いつも周りには、サッカー部やら軽音部のイケメン達がいるし。

 てっきり、家でパーティーとかやってるのかと思ってた。

 そもそも、彼氏とかいただろうし……でも、うちが初めてなのか。


「うーん、確かに多いかも。でも、誰かと付き合ってるわけじゃないし。そもそも、みんな彼女いるしね」


「あぁ、なるほど……いない方がおかしいか」


「うんうん、みんなイケメンで性格いいし。あっ、おとめちゃん」


「フスッ」


 撫でられてうっとりしていたおとめが起き、自主的に小屋に帰っていく。

 そして、すぐに丸くなって寝始める。

 どうやら、満足したらしい。


「ね、寝ちゃったの? 物凄い寝つき良いんだね」


「うさぎは草食動物だから、すぐにでも寝れるようになってるみたい……お腹減った」


「ふふ、そうだったね。まだ五時だけど……良かったら、何か料理を作ろっか?」


「……はい? わ、悪いよ!」


 一瞬、何を言われたかわからなかったけど、慌てて返事をした。

 そりゃ嬉しいけど! 女の子の手料理! それも松浦さんのとか!


「ダメかな? 私、吉野君に何もお礼できてないから……あの時、本当に助かったの」


「い、いや、結局は気を失ってるし……良いとこ無かったよ」


「ううん、そんなことない——すっごくかっこよかった」


 その目は真っ直ぐで、嘘を言っているようには見えない。

 そうか、こんな俺でも誰かの助けになれたんだ。


「……ありがとう」


「う、ううん……それじゃ、作っても良い?」


「は、はいっ、お願いします」


「えへへ、大したものは作れないけど。ただ、勝手に使っても大丈夫? あと、夕ご飯とかは平気かな?」


「その辺は平気だよ。卵以外だったら、冷蔵庫に入ってるのは大丈夫なはず。あと、今日は元々夕飯は一人だったし」


 姉さんが、卵は明日の朝ごはんに使うからと言っていたはず。

 そして今日は遅くなるので、俺は適当にレトルトで済ます予定だった。

 姉さんは会社にお願いして、早く帰れるようにするって言ったけどそれは断った。

 なので週に何回か、俺は一人で夕飯を食べることになってる。

 ……まあ、料理を覚えろって話なんだけど。


「ほんと? それなら、ボリュームがあった方がいいよね。それでは、キッチンをお借りします」


「ど、どうぞー」


 律儀に頭を下げて、彼女がキッチンに向かう。

 うちはオープンキッチンタイプなので、ここからでも動きがわかる。

 それにしても……なんというか、しっかりした女の子だよなぁ。


「ふんふん、豚肉の残りとキャベツ……あっ、キノコともやしがある! 吉野君、お腹空いてるし早く作れる方がいいよね? 焼きそばでもいいかな?」


「な、なんでもいいです!」


「むぅ……なんでもいいは減点です! 店主はお怒りですよ?」


「えぇ!? えっ、えっと……焼きそばがいいです」


「えへへ、かしこまりー!」


 そう言い、鼻歌を歌いながらテキパキと動いていく。


 彼女が動くたびに、そのポニーテールがゆらゆら揺れる。


 すると、光を浴びてキラキラと輝いて綺麗だった。


 俺は見てるのも悪いと思い、今のうちにおとめの小屋掃除をするのだった。








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