第11話 おうちに招く
……どうして、そういう思考回路に?
いかんいかん、頭が上手く働かない。
そういや、お腹すいてたんだった。
「……聞いてる?」
「う、うん、聞いてる。ただ、どうしてそうなるのかなって」
「だって誰にもばれちゃダメなんでしょ? そしたら遠くの街に行くか変装するか……家に行くかしかなくない?」
「理屈ではそうだね」
松浦さんを俺の家に?
というか、俺の家には誰もいないし。
も、もちろん、変なことするつもりはないけど……なんだよ、変なことって。
「何より、あの美容院にいたってことは家が近いとみた」
「うん、自転車で十分くらいだし」
「つまり、私も近いから楽ってこと。それに、あそこには学校の生徒は少ないから平気かも。だいたい、反対側の電車に乗ってくし」
「……確かに、同じ制服はほとんど見ないね」
同じ学校の人が、大体が反対側の電車に乗ってくのを思い出した。
そもそも、そこそこ難易度が高い高校なので、地元の人間はほとんどいないし。
「それじゃ、そうしよ! 私は先に行ってるからすぐにきてね!」
「ちょっ!?」
制止もむなしく、松浦さんがタタタッと駆けていく。
仕方ないので、俺も慌てて追いかけるのだった。
◇
そして別々に電車に乗り、三十分くらいで駅に着く。
そこから自転車置き場に向かい、松浦さんと合流する。
「あっ、きたきた。そういえば、中学校って何処なの?」
「えっと、俺は柳瀬中学校です」
「あぁー、私とは真逆の方向だね。私は三原中だったから」
「あっ、そうなんだ」
俺の地元と通ってた学校は、この駅から南に行ったところ。
松浦さんは駅から北側にある学校に通っていたようだ。
なるほど、こんなに可愛い人地元にいたっけと思ってたけど。
……そもそも、そういう話題をする友達もいなかったしね。
「それじゃ、レッツゴー!」
「ま、待って!? 俺の家を知ってるの?」
「えっ? 知らないよ?」
「……それじゃ、先に行かずに俺の後をついてこようね」
「えへへ、ごめんなさい」
そういって舌を出して笑う。
それにはあざとさがなく、ごくごく自然な感じだった。
その後、自転車を十分ほど走らせ……自宅に到着する。
「わぁー、立派なおうちだね」
「そうかな? そ、そういえば、うち誰もいないけど良いの?」
「へっ? ……二人きり……」
「い、嫌だよね! ごめん! 先に言えばよかった!」
「ううん、平気だよー。急に来たいって言ったのは私だし。それに、吉野君なら安心かな」
「そ、そう……それじゃあ、どうぞ」
つまりは、男とて見られてないってことだ。
うわぁ……変な勘違いして恥ずかしいや。
ひとまず玄関を開けて、松浦さんを招き入れる。
「お邪魔しまーす」
「い、いらっしゃい。あっ、スリッパ出すよ」
「うん、ありがとー。洗面所を借りても良い?」
「もちろん。場所は、そこを開けたところ。終わったらリビングに入ってて良いよ」
俺は急いで二階に上がり、そっちで手洗いうがいを済ませる。
その後、部屋を一瞬だけ片し、消臭スプレーをかける。
再び戻ると、松浦さんがリビングの扉の前で立っていた。
「あれ? 中に入らないの?」
「だって、家主がいないのに悪いもん」
「律儀なんだね。それじゃ、行こうか」
リビングの扉を開けると、ガタンと音がする。
そうだ! うちにはおとめがいた!
「きゃ!? な、なに!?」
「うわぁ!?」
なにはこっちのセリフです!
腕を組まれて思いきり胸が当たってる!?
「だ、誰もいないって」
「あ、あぁ! そういうこと! ごめん、うさぎがいるんだ」
「うさぎさん……っ〜!? ご、ごめんなさい!」
「だ、大丈夫! その……挨拶してくれる? 結構、警戒心が強くてさ。多分、知らない気配に驚いたのかも」
「うん、挨拶するね。うさぎさん見たいし」
俺は声を出しつつ、小屋にかかってるシーツをめくる。
そこには小屋の端っこで丸くなってるおとめがいた。
どうやら、警戒してるらしい。
「おとめー、大丈夫だよ。この人は俺の……友達の松浦さんっていうんだ」
「フスフス……」
「わぁ……可愛い。おとめちゃん? 松浦です、よろしくね」
「松浦さん、手を下げて小屋の入り口に置いてくれる?」
「うん、わかった……こう?」
すると、おとめが恐る恐る手に近づき……匂いを嗅ぐ。
「スンスン……」
「く、くすぐったいよ〜」
「ちょっと我慢してね。今、この人は危険じゃないかを確かめてるから」
おとめは鼻と耳をヒクヒクさせて、しきりに観察している。
「なるほど……おとめちゃんー、危ない人じゃないよー」
「ププ!?」
「むぅ……どうして笑うの?」
「ご、ごめんごめん……危ない人じゃないよって、危ない人が言うセリフだよ」
「あっ、そっか……あっ、スリスリしてる……!」
「どうやら、危ない人じゃないってわかったのかもね」
すると、そのまま小屋から飛び出してくる。
そして、いつものように俺の足元をチョロチョロする。
「出ちゃったけど良いの?」
「うん、このリビングは好きにさせてるから……膝にでものせてみる?」
「したい!」
「それじゃ、先にソファーに座ってくれるかな?」
「わかった!」
「よし……おとめ、失礼しますよっと」
しゃがみ込んで抱っこして、そのままソファーに持っていく。
そして松浦さんの膝の上に毛布をかけてから、そこにおとめをのせる。
「フスフス……」
「ど、どうしたらいいの?」
「ゆっくりと頭の部分を撫でてあげるといいかも」
「う、うん……ふぁ〜可愛い……! もふもふでふわふわ……!」
……いや、可愛いのは貴女もですけど。
なでなでしてるからか、めちゃくちゃ笑顔で可愛い。
色々な意味で……おとめがいてくれてよかったね。
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