第11話 おうちに招く

 ……どうして、そういう思考回路に?


 いかんいかん、頭が上手く働かない。


 そういや、お腹すいてたんだった。


「……聞いてる?」


「う、うん、聞いてる。ただ、どうしてそうなるのかなって」


「だって誰にもばれちゃダメなんでしょ? そしたら遠くの街に行くか変装するか……家に行くかしかなくない?」


「理屈ではそうだね」


 松浦さんを俺の家に?

 というか、俺の家には誰もいないし。

 も、もちろん、変なことするつもりはないけど……なんだよ、変なことって。


「何より、あの美容院にいたってことは家が近いとみた」


「うん、自転車で十分くらいだし」


「つまり、私も近いから楽ってこと。それに、あそこには学校の生徒は少ないから平気かも。だいたい、反対側の電車に乗ってくし」


「……確かに、同じ制服はほとんど見ないね」


 同じ学校の人が、大体が反対側の電車に乗ってくのを思い出した。

 そもそも、そこそこ難易度が高い高校なので、地元の人間はほとんどいないし。


「それじゃ、そうしよ! 私は先に行ってるからすぐにきてね!」


「ちょっ!?」


 制止もむなしく、松浦さんがタタタッと駆けていく。

 仕方ないので、俺も慌てて追いかけるのだった。




そして別々に電車に乗り、三十分くらいで駅に着く。


そこから自転車置き場に向かい、松浦さんと合流する。


「あっ、きたきた。そういえば、中学校って何処なの?」


「えっと、俺は柳瀬中学校です」


「あぁー、私とは真逆の方向だね。私は三原中だったから」


「あっ、そうなんだ」


俺の地元と通ってた学校は、この駅から南に行ったところ。

松浦さんは駅から北側にある学校に通っていたようだ。

なるほど、こんなに可愛い人地元にいたっけと思ってたけど。

……そもそも、そういう話題をする友達もいなかったしね。


「それじゃ、レッツゴー!」


「ま、待って!? 俺の家を知ってるの?」


「えっ? 知らないよ?」


「……それじゃ、先に行かずに俺の後をついてこようね」


「えへへ、ごめんなさい」


そういって舌を出して笑う。

それにはあざとさがなく、ごくごく自然な感じだった。





その後、自転車を十分ほど走らせ……自宅に到着する。


「わぁー、立派なおうちだね」


「そうかな? そ、そういえば、うち誰もいないけど良いの?」


「へっ? ……二人きり……」


「い、嫌だよね! ごめん! 先に言えばよかった!」


「ううん、平気だよー。急に来たいって言ったのは私だし。それに、吉野君なら安心かな」


「そ、そう……それじゃあ、どうぞ」


つまりは、男とて見られてないってことだ。

うわぁ……変な勘違いして恥ずかしいや。

ひとまず玄関を開けて、松浦さんを招き入れる。


「お邪魔しまーす」


「い、いらっしゃい。あっ、スリッパ出すよ」


「うん、ありがとー。洗面所を借りても良い?」


「もちろん。場所は、そこを開けたところ。終わったらリビングに入ってて良いよ」


俺は急いで二階に上がり、そっちで手洗いうがいを済ませる。

その後、部屋を一瞬だけ片し、消臭スプレーをかける。

再び戻ると、松浦さんがリビングの扉の前で立っていた。


「あれ? 中に入らないの?」


「だって、家主がいないのに悪いもん」


「律儀なんだね。それじゃ、行こうか」


リビングの扉を開けると、ガタンと音がする。

そうだ! うちにはおとめがいた!


「きゃ!? な、なに!?」


「うわぁ!?」


なにはこっちのセリフです!

腕を組まれて思いきり胸が当たってる!?


「だ、誰もいないって」


「あ、あぁ! そういうこと! ごめん、うさぎがいるんだ」


「うさぎさん……っ〜!? ご、ごめんなさい!」


「だ、大丈夫! その……挨拶してくれる? 結構、警戒心が強くてさ。多分、知らない気配に驚いたのかも」


「うん、挨拶するね。うさぎさん見たいし」


俺は声を出しつつ、小屋にかかってるシーツをめくる。

そこには小屋の端っこで丸くなってるおとめがいた。

どうやら、警戒してるらしい。


「おとめー、大丈夫だよ。この人は俺の……友達の松浦さんっていうんだ」


「フスフス……」


「わぁ……可愛い。おとめちゃん? 松浦です、よろしくね」


「松浦さん、手を下げて小屋の入り口に置いてくれる?」


「うん、わかった……こう?」


すると、おとめが恐る恐る手に近づき……匂いを嗅ぐ。


「スンスン……」


「く、くすぐったいよ〜」


「ちょっと我慢してね。今、この人は危険じゃないかを確かめてるから」


おとめは鼻と耳をヒクヒクさせて、しきりに観察している。


「なるほど……おとめちゃんー、危ない人じゃないよー」


「ププ!?」


「むぅ……どうして笑うの?」


「ご、ごめんごめん……危ない人じゃないよって、危ない人が言うセリフだよ」


「あっ、そっか……あっ、スリスリしてる……!」


「どうやら、危ない人じゃないってわかったのかもね」


すると、そのまま小屋から飛び出してくる。

そして、いつものように俺の足元をチョロチョロする。


「出ちゃったけど良いの?」


「うん、このリビングは好きにさせてるから……膝にでものせてみる?」


「したい!」


「それじゃ、先にソファーに座ってくれるかな?」


「わかった!」


「よし……おとめ、失礼しますよっと」


しゃがみ込んで抱っこして、そのままソファーに持っていく。

そして松浦さんの膝の上に毛布をかけてから、そこにおとめをのせる。


「フスフス……」


「ど、どうしたらいいの?」


「ゆっくりと頭の部分を撫でてあげるといいかも」


「う、うん……ふぁ〜可愛い……! もふもふでふわふわ……!」


……いや、可愛いのは貴女もですけど。


なでなでしてるからか、めちゃくちゃ笑顔で可愛い。


色々な意味で……おとめがいてくれてよかったね。







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