第10話 提案

 ……お腹すいた。


 結局、あの後ぼけっとしてたら昼休みが終わっていた。


 気がついたらチャイムが鳴り、慌てて教室に駆け込んでしまったし。


 おかげで、また注目を集めてしまうことに。


 ふと、隣にいる松浦さんの方を見ると……ばっちし目が合う。


「っ!?」


「寝てない? 大丈夫?」


「う、うん、なんとか」


 あまりの可愛さに気を失いそうにはなったけど。

 というより、俺には眩しすぎる。


「もう少しだからがんばろっ」


「あ、ありがとう」


 そうして、何とか午後の授業を乗り切った。

 お腹が空いた俺は、力を振り絞って校門に向かう。

 すると、スマホのバイブ音がなる。

 ふと見ると、そこには松浦さんという文字があつた。


『吉野君〜、今どこにいるの?』


 俺はテンパりつつも、慌てて返信をする。

 姉さん以外の女性からラインくることなんてないし。

 ……そもそも、女の子のライン知ったの初めてだった。


『えっと、今は校門前にいます』


 すると、めちゃくちゃ速い速度で返信がやってくる。


『嘘!? 一緒に帰ろうと思ってたのに!』


 ……何を言っているのだろう?

 そんなことしたら、目立って仕方ないんですけど!?

 そもそも、そういう約束をしたはずじゃ。


『えっと、学校では秘密って話だと思ったんですけど……』

『それはゲームの話でしょ? 単純に吉野君と帰るのはダメなの?』


 なるほど、そういうことだってばよ……いや全然意味がわからないって!

 どうしよう、俺のコミュ力だと理解が追いつかない。

 すると、急に電話の着信音が鳴る。


「わわっ!? え、えっと、通話ボタンと……」

『あっ、もしもし? 吉野君?』

「よ、吉野です」


 その声は電話越しても聴き心地が良く、思わずずっと聞いていたくなる。

 というか、声まで可愛いのは反則だと思う。


『えへへ、吉野君だ』

「あっはい、吉野です」

『ふふ、変なやりとり。あのね、私が頭悪いからよく分からなくてごめんね。私は吉野君と普通に話しちゃいけないの? ゲームとかの話は言わないよ?』


 ……あぁ、理解した。

 ゲームに関係なく、俺と普通の友達になりたいって言ってくれてたんだ。

 彼女は本当にいい子なんだ。

 これは俺の卑屈な部分が完全に悪い……けど、流石に厳しい。


「いや、謝るのは俺の方だよ。えっと、松浦さんさえ良ければ……この後、時間あるかな? 駅の西口にあるコンビニ前にいるから」

『うん! すぐにいくから待ってて!』


 そこでぷつっと通話が切れる。

 このまま、ここにいてはいけないと思い、俺は急いで先回りするのだった。





 ◇


 そして、ひと気のないコンビニ前で待つこと十分……。

 息を切らせながら松浦さんが走ってくる。

 今日はポニーテールで、それがゆらゆらと陽の光を浴びて輝いていた。


「ご、ごめん、待ったよね」


「い、いや、さっき来たところ……あれ?」


「えへへ、お昼休みと同じ会話してる」


「ははっ、確かに」


 ……なんだか、普通に会話してる。

 もちろん、顔は直視できないけど。

 やっぱり、アキラさんだったということが大きいのかも。


「それで、どうしてここなの?」


「こっち側は何もないし、大体の人が駅に入るから人が少ないしね。とりあえず、そこのベンチに座ろうか」


 たまにサラリーマンが通り過ぎる中、二人で並んでベンチに座る。


「それで、さっきの話だけど……あんまり、学校では話しをできないというか」


「私と仲良いと思われるの嫌かな?」


「ち、ちがう! これは完全に俺が悪くて……卑屈っていうか、松浦さんみたいな可愛い女の子と話すと緊張しちゃうんだ。教室とかだとテンパってしまうし、周りの人たちにも変に思われるし……聞いてる?」


「可愛いって言われちゃった……えっ?」


「いや、だから理由を……」


 何やら顔を両手で押さえて悶えてだけど。

 やっぱり、俺が変なこと言ってるよなぁ。


「う、うん、聞いてたよ。つまり、人見知りだから目立ちたくないってことだね」


「……まあ、間違ってはないかな?」


「確かに私の周り騒がしい人多いし、吉野君とは合わないかも……そしたら、私はどうやって仲良くなったらいいのかな?」


「リ、リアルってことだよね?」


「うん、そうだよ……あっ、そっか、うんうん……」


 何やら考え込んで、一人で頷いている。


「どうしたの?」


「決まり! そしたら吉野君の家に行けばいいんだね!」


 ……はい? 誰が誰の家に? 何故そうなるの?


 俺の頭は、またもやフリーズしてしまうのだった。








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