第9話 認識の違い

そして、翌週の火曜日になる。


二年生になってから早くも三週間が経ち、グループや立ち位置などができ始める頃だ。


なのに、俺はクラスの誰とも話したことない。


いや、隣の席の松浦さんは挨拶してくれるけど。


「そういえば……こっちから挨拶していいのかな?」


というか、多分だけどゲームやってるとか言っちゃいけないと思うし。

よし、ここは他人のフリが一番かもしれない。

そんなことを考えつつ、学校に向かい教室に入ると……満面の笑顔を浮かべた松浦さんと目が合う。


「あっ! 吉野君だっ! おはよー!」


「あ、えっ、あの……」


突然の出来事に、思わず言葉が出てこない。

教室に入った瞬間に挨拶なんかされたことないし、みんなから注目されて上手く息ができない。

俺はカチコチになりながら、どうにか自分の席に到着する。


「あれ? おはよーって言ったのに……」


「お、おはようございます……」


「えへへ、おはよー」


……うぉぉぉ!? 美少女が笑いかけてくるぅぅ!

眩しさで目が焼かれそうです!

そして、当然周りが少しざわつく。

すると、松浦さんの前の席に座ってる吉澤さんが話しかけてくる。


「どうしたのよ? 急に挨拶して」


「ん? 普通に挨拶しただけだよ。昨日ね、飲食店でばったり会ったんだー」


まずい! これはまずい!

松浦さん、普通に話してしまいそう!


「あはは! いやー、飲食店で俺が思い切り転んでしまって……松浦さんが、それを助けてくれたんだよね。ジュースとか溢れて大変だったよ」


「えっ? なんのこと?」


「ああ、そういう話なのね。それはよく見る光景だわ。やれやれ、相変わらず無自覚に……惚れてもだめよ?」


「わ、わかってます!」


「むぅ……どうして」


そのタイミングでチャイムが鳴り、先生が入ってくる。

危ない危ない、どうにか切り抜けた。

クラスのみんなも、『ああいつものか』みたいな顔をしてたし。

きっと、彼女が優しいのは共通認識なんだと思う。


「さて、全員揃ってるな。えー、今週末からゴールデンウィークだ。それが終われば、すぐに中間テストが始まるからな。というわけで、青春してないで勉強しろ。くそっ、先生だって女の子と遊びたかった」


「先生、本音がダダ漏れ」


「これから遊ぶのに、中間テストの話とかするなし」


「ええい! 黙れ! 二年生の成績は受験や推薦に影響もするから、出来るだけしっかりやるといい……それとは別にリア充は滅びろ」


そんな先生の話を聞きながら、俺は急いで紙に書いていく。

それをバレないように、こっそりと松浦さんの机に置いた。


「ん? なんだろ? わぁ……」


「わ、わかったかな?」


すると、松浦さんがコクリと頷いた。

しかし、何故かもじもじと恥ずかしそうにしながら。

あれ? おかしいな、何か変なこと書いたっけ?

俺はただ、話があるからお昼休みになったら校舎裏に来てって書いただけなのに。







その手紙が功を奏したのか、無難に時間が過ぎていく。


そして無事にお昼休みを迎えた俺は、一足先に校舎裏で待つ。


すると少し遅れて、松浦さんがやってきた。


「ご、ごめんねー、待ったかな?」


「ううん、今来たところだよ」


「えへへ、なんだかデートのセリフみたい」


「……えっ!? ど、どういうこと!?」


「しっー、誰か来ちゃうよ?」


その人差し指を鼻の前に持ってくるポーズは反則だった。

まず可愛いし、無自覚に谷間を寄せてるし。

俺の脳内が破壊されていく音が聞こえてくる。


「そ、そうだね」


「そ、それで何かな? こんなところまで呼び出して……」


「えっと、できれば昨日ことは秘密にして欲しくて……」


「えっ? それだけ?」


「えっ? いや、それだけじゃなくて……俺がスレイでネトゲやってるとか、松浦さんとゲームをやってたこととか」


「むぅ……」


あれ? どうして不機嫌な顔をするのだろう?

松浦さんだって、俺みたいのと遊んでるってバレたら嫌だと思うけど。


「な、何かまずかった?」


「ううん、ちょっと想像と違ったから。でも、内緒にしたいの? そしたら、教室とかで話せないよー」


「きょ、教室はまずいかな。うん、俺は静かに過ごしたいし」


松浦さんとゲームやってるなんて知られたら大変だ。

全男子から殺されてしまうかもしれない……フアンクラブとかあるって話だし。


「あぁー、スレイさんって結構有名だもんね。それに、私だけが正体を知ってるっていうのもアリかも」


「……そうなの?」


「うん、ゲームやってる人が友達に何人かいるから。ソロプレイヤーだし強いから目立つよー」


「そ、そうだったんだ」


どうしよう、全然気づいてなかった。

そもそも、学校の友達いないし……悲しみ。


「とりあえず、学校では内緒……でも、そうなると私が吉野君とお喋りできない」


「チャットとか、通話ならできるけど……」


「それもいいけど、私はリアルでお話もしたいです……とりあえず、ライン交換しよっ?」


「……はい? どうして?」


全然、思考回路が理解できない。

どうしてそこから、ライン交換の流れになるのだろう。


「嫌かな?」


「そんなことはないけど……」


「じゃあ、決まり! スマホを出して……」


そして、よくわからないままライン交換をすませる。


「えへへ、これでいつでも連絡取れるね。あっ、お昼ご飯食べる時間なくなっちゃう。それじゃ、またねー」


「う、うん、またね」


俺は現実味がなく、ただ彼女が走り去るのを見送る。


そして、そのままぼけっと立ち尽くすのだった。








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