第8話 考え違い

 その日の夕方、俺は大掃除をしていた。


 ……姉さんに心配かけた罰として。


 どんな理由であれ、姉さんとの約束を破ったのだから甘んじて受ける。


 父さんが海外出張の今、姉さんが俺の保護者な訳だし。


 無論、理由を言ったら姉さんは逆に喜んでいたけど。


「別にそこまでしなくていいわよ? きちんと理由は聞いたし」


「ううん、約束は約束だから。それに、家の掃除くらいはしないとね」


「ふふ、変なところは頑固ね。でも、本当によく頑張ったわ」


「まあ……自分でも、正直言って驚いてはいる」


 もう一度、同じことをやれと言われたら無理かも。

 あの時は、無我夢中だったし。


「ただ、一時間もウロウロしてたのは失格ね。もっと早くに行って助けないと」


「……それはそうだね」


「まあ、でもあんたにしては頑張ったから偉いわ。それで、同じクラスの女の子なんでしょ?」


「うん、松浦さんっていってめちゃくちゃ可愛い人」


 今だに、現実味がない。

 あの学校一可愛い女の子が、アキラさんだったなんて。

 いや、正確には違うんだけど。

 ただ、一年間ゲームをやってたのは事実だ。


「うんうん、弟に女の子の友達ができて嬉しいわ。そういえば、連絡先とか交換したの?」


「し、してないよ! そもそも、そんな時間なかったし」


「そういう時は、女の子といるから帰るの遅くなるでいいのよ」


「……それをメールしたとして信じる?」


「……自信がないわ。逆に、何か変なことに巻き込まれたかと心配するわね」


 我ながら何も言い返せないし、納得してしまう。

 それくらい、俺にとっては非現実的なことなのだ。


「でしょ? だから直接会ってから話せばいいかなって」


「それはそうね。それじゃ、明後日の学校で連絡先を聞きなさいよ。それとも、ネットゲーム中に聞く?」


「いやいや! 無理だって! そもそも学校で話しかけられないし、ネットマナーとしてやっちゃいけないし」


「そうなの? 私にはよくわからないけど……まあ、無理強いするのは良くないわね。ただ、もしも話しかけられたら無視したりするんじゃないわよ?」


「そんなことないと思うけど……わかった」


 姉さんや母さんには、女の子を傷つけたり泣かしたりしたらダメだって言われてきた。


 俺自身もそう思うし、そんなことをするつもりはない。


 でも……そもそも、ゲーム友達たから関係ないしね。






 ◇



 ……行っちゃった。


 まだきちんとお礼も言えてないのに。


 勇気を出してオフ会に行ったけど、スレイさんはいなくて変な大学生に絡まれて怖かった。


 だから咄嗟に、同じクラスだった男の子に助けを求めちゃった。


 なのにきちんと助けてくれたし、その人はスレイさんだったし。


「私ってば凄い自分勝手なのに、全然怒ってなかった。ゲームの時と一緒で、大丈夫だよって。その、かっこよかったし……」


 男の子の友達はたくさんいるけど、あんな風に守ってもらったのは初めてだったなぁ。

 なんというか、下心がなかったというか……そういうのにはすぐに気づくし。


「ただでさえ、嘘をついてたのに。それについても、全然気にしてなかった」


 しかも自分が嘘をつかれたことよりも、お兄ちゃんが無事だったことを喜んでた。

 本当に、優しい人なんだなって思う。


「えへへ、スレイさんが思ってた通りの人で良かった。流石に、同じクラスの男の子だったのはびっくりしたけどね」


 友達になってくれるって言ってたから、これからは堂々と遊べるし。

 それこそ、 一緒にゲームしたり、他のことで遊んだり。

 スレイさん……吉野君となら、楽しく遊べそう。


「あっ、連絡先聞いてないや。うーん、ゲーム中に聞くのはマナーよろしくないし、今日は親が休みで家にいるからゲームはできないし」


 まあ、いいや。


 どうせ同じクラスだし、隣の席だもん。


 明後日、学校で聞けばいいよね。








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