第7話 新しい関係

 その後、ひとまず俺たちも店を出る。


 まだ三時前なので、春の日差しが気持ちいい。


 このまま、もう一回眠りたいくらいだね。


 ただ……現実逃避をしてる場合じゃないや。


「あのぅ?」


「ん? どうかしたかな?」


「いや、どうして……ずっと腕を組んでいるのですか?」


 先程から腕を組まれてるので、胸の感触が……いや、されたことないからこれが合っているのかわからないけど!

 とにかく、柔らかいモノが当たってます!


「えへへ、だってやっと会えたもん」


「そのことなんだけど、


「……まずは謝るべきだよね。あの、このあと時間あるかな?」


「うん、まだ三時前だし」


「それじゃあ、すこしあるこっか!」


 そうして、俺を引っ張るように彼女が歩き出す。

 ひとまず、どうにか腕を解いてもらう。

 ただ、めちゃくちゃ不満顔をされた……なぜだろ。


「歩きながら軽く説明しちゃうね。えっと、アキラは私のお兄ちゃんなの。でも、私もアキラでもあるの」


「お兄ちゃん……アキラさんは男だったし年上だからわかるけど。でも、松浦さんもアキラってどういうこと?」


「んー……お兄ちゃんが怪我をしたって話をしたでしょ? あれは実は嘘で、その後は私がアキラとしてやってたの——ごめんなさい!」


 ……どういうこと? アキラさんが怪我をしたっていうのは丁度一年前くらい。

 つまり、俺は一年の間……松浦さんとゲームしてたってこと!?


「ええっ!? そうだったの!? つまり、アキラさんは無事ってこと?」


「ふえっ!? そ、そこなの? お、お兄ちゃんは、一応元気でやってるみたい」


「ほっ……それなら良かった。ずっと、心配してたから」


「っ……! ほんとうに——ごめんなさい!」


「ちょっ!? あ、頭をあげてって!」


 こんな美少女に頭を下げさせるとか目立ちすぎ!

 俺は彼女の手をとって、その場から離れる。

 そして、ひと気のない公園を発見した。


「よし、あそこにしよう」


「う、うん……あの、手が」


「……ごめんなさいぃ!」


 手を離し、そこから飛び退く!

 なんてことだ!? 無断で女の子の手を握ってしまった!

 姉さんにバレたら殺される!


「へ、平気」


「と、とりあえず、あそこのベンチに座ろうか」


「うん、そうしよ」


 ひとまず、ベンチに並んで座り、深呼吸をする。

 女の子の手ってあんなに柔らかいんだ。


「えっと、整理をすると……俺はアキラさんとネトゲしてたけど、一年前からは松浦さんとしてたってことでいい?」


「うん、それであってる……お、怒ってるかな?」


「えっ? いや、怒ってはいないよ。確かに驚きはしたし、騙された感はあるけど。それ以上に、何もなかったなら良かった」


「……えへへ、スレイさんって優しい。お兄ちゃんが言ってた通りだし、ゲームでもそうだった。私が何かミスをしても、いつも平気ですよって言ってくれた。俺が最後まで付き合いますって」


 ウァァァァ!? 俺はなんて恥ずかしいことを!

 アレは俺であって俺ではないのです!

 お、落ち着け……えっと、次は。


「それで、お兄さんはどうしたの? どうして、代わりにゲームをしてたの?」


「お兄ちゃんはある日突然……家を出たの。そしたら、俺のゲームを貸してやるから好きに使えって。きっと、スレイって奴が助けてくれるって」


「なるほど……そして、俺とゲームするに至ったるんだ」


 当然、その理由は俺なんかが聞いていいわけない。

 とりあえずアキラさんが、松浦さんに自分のを使ってと言ったならいいや。

 それに、アキラさんに信頼されてたみたいで嬉しいし。

 アキラさんの代わりに、妹さんに恩を返せたみたいだし。


「本当に、色々と迷惑かけちゃった」


「それは平気だよ。何より、アキラさんでも松浦さんでも、俺が楽しかったのは事実だし」


「ほんとに? めんどくさいとか、足手まといとか思ってなかった?」


「全然、そんなことないよ。俺もそうだったけど、アキラさんに根気よく付き合ってもらったから」


「えへへ、それなら良かった。お兄ちゃんに感謝だね」


 あれ? そういえば、俺ってば普通に松浦さんと話してる?

 そっか……本人とは知らなかったけど、ずっとチャットとかでやり取りしてたからかも。


「それで……これからどうしよう? その、アキラさんではないわけで……」


「お兄ちゃんじゃないと遊んでくれないの?」


「い、いや、そんなことはないんだけど……」


 やっぱり、そんなことはなかった!

 下から覗かれて上目遣いされるとオロオロしてしまう!

 まつげも長いし目がぱっちりして……やっぱり、めちゃくちゃ可愛い。


「それじゃあ——改めてお友達になろ!」


「お、お友達?」


「うん! 一緒にゲームやったり、チャットしたり!」


「つまり、今まで通りってことか」


 それなら、顔も見えないし平気かも。

 この顔を見てたら、ゲームどころじゃないし。


「決まりだね! えへへ、まさかスレイさんが同じクラスの男の子だったなんて」


「それはこっち台詞だよ。まさか、松浦さんがくるとは思ってなかったし」


「あっ、そっか……吉野君って呼んだ方がいい?」


「まあ、ゲーム以外だったら。と言っても、話す機会なんてないと……あっ」


 その時、スマホの表示に姉さんの名前が……しまった! 連絡するって約束だった!


「ごめん! 俺、用事あるからこれで!」


「えっ!?」


「それじゃ、またゲームで!」


 俺はベンチから飛び出し、急いで姉さんに文字を打つ。


 ちなみに……結局、電話がかかってきて怒られてしまった。







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