第33話 打ち明ける

 ……ゲームを見てるのって意外と楽しいんだ。


 わーきゃー言いながら、一生懸命にゲームをやる松浦さんは見てて飽きない。


 youtubeとかのゲームをしてるだけの動画が流行るのが少しわかった気がした。


「つ。疲れたぁぁ……でも、楽しかった」


「お疲れ様。もう、一時間半もぶっ続けでやってるからね」


「えっ!? もう、そんなに時間経った!? ……ほんとだ、夢中で気づかなかった」


「外も暗いし、そろそろ帰った方がいいよね?」


 夜の六時近いので、完全に日が暮れていた。

 すると、松浦さんがもじもじしながら上目遣いをしてくる。


「……やだ、まだ帰りたくない」


「……ぐはっ」


「ど、どうしたの?」


「な、なんでもないです」


 彼女いない歴=年齢の俺にはダメージがでかいです!

 違う意味で脳内が変換されてしまった。


「どうせ、帰っても一人だし……」


「そういえば、親が帰り遅いとか言ってたね」


「うーんと……うちって親が離婚してるんだ。それで、お父さんと二人暮らしなの。だからお父さんが仕事で遅いと、いつも家で一人なんだ」


「……そっか」


 お兄さんも出て行ったというし、お母さんもいないんだ。

 彼女の普段の明るい顔からは想像もつかないけど……偉いなぁ。

 それに比べて俺は卑屈だ……母親が亡くなったことを言い訳にして、人と関わるのが嫌だと言っていた。

 仲良くなると、それを言わないといけない場面が来ると思って。

 ほんとはただの人見知りで、さみしがり屋なのに。


「ご、ごめんね、こんな暗い話。ただ、何となく吉野君には言いたくて……高校の人で、こんなこと言ったの初めて」


「別に平気だよ……うちは母親が亡くなってるんだ。あと父親は単身赴任でいなくて、基本的に姉さんと二人で暮らしている」


「えっ? ……そうなんだ。ごめんなさい、なんて言っていいのか」


「いやいや、気にしないで。もう、随分と前のことだから。つまり、これで暗い話はおあいこってことで」


「吉野君……えへへ、優しいね。自分より、私を気遣ってくれて」


「い、いや、そんなこと……とりあえず、ちょっと待ってて!」


 俺は微笑みに照れ臭くなりつつ、慌てて部屋を飛び出る。

 そのまま一階に行き、リビングでテレビを見ている姉さんの元に行く。


「あら、帰る時間?」


「あ、あのさ、松浦さん夕飯とか食べて行っていい?」


「私は別に構わないけど、そうすると親御さんに連絡をしないとまずいかしら? あと、私達の家のことも聞かれるわよ」


「それが……」


 俺は彼女の事情と、自分の家のことを話したことを伝える。


「……めちゃくちゃ良い子じゃない。それでも、あんなに真っ直ぐに育って」


「ほんとに……自分が情けなくなったよ。母さんが亡くなってから、殻に閉じこもった自分とは違って。しかも、それを言い訳して人と関わってこなかったから」


「それがわかっただけ良いわよ。ふふ、本当に良い子が友達になってくれたわ。ええ、私は構わないから行ってらっしゃい」


「あ、ありがとう!」


「それじゃあ、私は準備するからまだ遊んでなさい。松浦さんが手伝うと言っても断ること……良いわね?」


「わかった!」


 再び、俺は急いで階段を上がって自分の部屋に戻る。


「あっ、戻ってきた」


「ごめんごめん。とりあえず、うちで食べて良いってさ」


「ほんと? そしたら、お手伝いとかしないと……」


「姉さんが、そう言ったら意地でも止めなさいってさ。というわけで、ゲームの続きをやろうか」


「で、でも……それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうね」


 そして再びゲームの続きをやる。

 すぐに『わーきゃー』と言い出し、松浦さんはゲームに熱中し始めた。

 俺はそれを見てるだけで、何やら楽しくなるのだった。





 ◇



 その後、姉さんの声が聞こえる。

 俺と松浦さんはゲームをセーブし、一階のリビングへと向かう。


「できたわよ。と言っても、簡単なものばかりだけど。シーザーサラダに鯛のムニエル、コーンスープに付け合わせってところね」


「そんなことないですっ! わぁ……贅沢な食卓」


「ありがとう。さあ、座ってちょうだい」


「はいっ」


 すでにテーブルの上には全て揃っていたので、俺と松浦さんか並んで座る。

 対面にはいつも通り、姉さんが座り……。


「では、いただきます」


「「いただきます」」


 俺がパクパクと食べ進める中、松浦さんは『どれからにしよっかなー』と楽しそうにしている。

 それが見れただけでも、誘ってみても良かった思う。


「ほんとはサラダからが基本だけど、まずはお魚から行きたい……んー! 美味しいですっ!」


「ほんと? ふふ、良かった。やっぱり、女の子だと反応があって嬉しいわね。この子ったら、全然反応なくてつまらないし」


「わかりますっ! うちのお父さんも『ああとか、美味いとか』しか言わなくて。基本的に、こっちが聞かないと答えませんし。流石に、最近はマシになりましたけど」


「やっぱりそうよね。全く、こっちは苦労して作ってるっていうのに」


「……いつもありがとうございます」


 少し肩身が狭くなりつつ、俺は大人しく食事をとる。


 ちなみに、二人はずっとお喋りをしながら食べています。


 ちょっと疎外感……まあ、松浦さんが楽しそうだから良いかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る