第32話 青春?

……なにがいいかな?


俺は自分のゲームの棚を眺めて思案する。


松浦さんには、出来るだけ楽しんで欲しい。


理由はよくわからないけど、家ではゲームとかはあまり出来ないらしい。


多分、お兄さんが出て行ったことに関係してるんだと思うけど。


……俺の家のこともそうだけど、そこは突っ込むべきじゃないよな。


すると、松浦さんが隣にやってくる。


「ねえねえ、決まったかなー?」


「ごめん、まだ決まってないや。しまったなぁ、二人で出来るようなゲームあんまりないんだった」


なにせ、自他共に認めるぼっちの俺。

オンラインゲームならいざ知らず、オフラインゲームを人とやる機会などない。

なので、いつもRPG系になってしまう。

……別に、RPG好きだからいいんだけどさ。


「RPG系だと二人で出来ないし……どうしよ?」


「そうなの? でも、RPG?とか興味あるかな。私、ゲーム見てるのも好きだったんだ。小さい頃は、お兄ちゃんがやってるのをずっと見てたくらい。自分はあんまり上手くないのと、お父さんが嫌がったからやらなかったけど」


「あぁー、見るのが好きって人もいるって聞いたことあるね。まあ、親世代だと女の子がゲームやるっていうイメージはあんまりないからかな。うちも、姉さんは全くやらないし」


「ほんと、めんどくさいよねー。今の若い女の子はゲームくらいやるのに……あっ! これCMで見たことある!」


松浦さんが指をさしたのは、国民的なメーカー任天○のソフトだった。

タイトルが主人公の名前ではなくて、お姫様の名前だというよく勘違いされるやつだ。

謎解きやアクション、その他の要素が詰まった最近爆売れしてるゲームである。


「ゼル○? それじゃ、やってみる?」


「うんっ! やってみたい! アクションなら、少しは出来そう」


「確かに、普段俺たちが遊んでるのもアクションゲームだったね。よし、起動してみよう」


俺はスイッ○の用意をして、姉さんが使わなくなった古いテレビに繋げる。

これはテレビは見れないけど、ゲーム専用として使っていた。


「わぁ……綺麗。お兄ちゃんがテレビでやってた頃は、少しカクカクしてたのに」


「ここ十年くらいのゲームの進歩は凄いって、年上の人達は言ってたくらいだからね」


「そうそう、スマホもなかったとか信じられないよー」


「たまに会話についていけなくなるよね」


昭和の話とか出ると、ポカンとしてしまう。

家電話しかないとか、ゲームは白黒だったとか。

ひとまず、チュートリアルが終わったデータをロードする。


「ふふ、わかる。でも、貴重だよね。普段、絶対関わらない人と話したり遊んだり」


「あっ、それはわかる。そもそも、そうじゃなかったらアキラさん……それに松浦さんとも友達になってないからね」


「そうだよねー。まさか、クラスの隣にいる相手がスレイさんなんて思わないもん」


「それはこっちのセリフだよ。まさか、途中から入れ替わってて、それが松浦さんなんだから……これでよし、やってみる?」


「うん、やってみるねっ」


そう言い、両手の拳を握りしめて気合を入れた。

そんなことは言ってないのに『フンスッ』といった感じだ。

……はい、可愛いです。


「じゃあ、俺は見てるからわからないことあったら言ってね」


「はーい……ワクワク」


彼女は動作確認をしながら、ニマニマしていた。

時折『えいっ』とか『やあっ』とか言っている。

正直なところ、可愛くてゲームよりそっちに意識が向く。


「もう楽しそうだね」


「こう、序盤の方とかワクワクしない?」


「めちゃくちゃわかる。そして、中盤に行くと少しだれちゃう」


「そうそう。でも、中盤を超えると楽しいみたいな」


そこで、俺たちは顔を見合わせて微笑む。

どうやら、同じ気持ちだったらしい。

なんだかよくわからないけど、めちゃくちゃ楽しい。

なんか、全身がむず痒くなるっていうか……不思議な感覚だ。




その後、動作確認を終えたのでゲームを進めていく。


すると、前に聞いたことある声がする。


彼女はゴブリンの大群に出くわし、逃げ回っていた。


このゲームはオープンワールドで自由度が高いので、こういう場面が多々ある。


「こ、来ないでぇぇ!」


「松浦さん! 早く回復アイテムを! 体力ゲージが減ってる! メニュー画面を開けば安全!」


「え、えっと、こうして……できたっ。でもでも、敵がいっぱい!」


「大丈夫、一体一体確実に仕留めよう。弓を使ってヒットアンドウェイだ」


「う、うん、やってみる」


弓を装備して、メニュー画面を閉じる。

そして、後退しつつ敵を弓で減らしていく。


「ふぅ、これで全部かな」


「そうみたい。あっ、あそこに祠があるね」


「ほんとだ。確か、謎解きなんだっけ?」


「そうそう。向こう岸に橋がなくて、どうやって渡ったらいいかとか。隠し扉とか、順番にボタンを押さないと開かないドアとか」


「よーし、やってみようっと」


そうして祠に入ると、謎解きアクションゲームが始まる。

……だが、なかなか進まない。

どうやら、本当に苦手らしい。


「むぅ……わからない」


「教えようか?」


「ううん、自分で……ヒントだけください!」


「この主人公には特殊な能力があったよね?」


「……物を持ち上げたり、見えないものを見たりする能力」


「それを使って、もう一度考えてみよう」


彼女が真剣な表情をして、ゲームを再開して……五分後、謎解きをクリアした。


「やったぁ! できたっ!」


「やったね」


そして、二人で顔を見合わせ……。


「「いぇーい!」」


手と手を合わせるのだった。


以前とは違い、戸惑うことなく自然にできた気がした。








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