第29話 姉さんの許可

そして、あれよあれよと日々が過ぎて……松浦さんがやってくる週末の土曜日を迎えた。


俺はといえば、今週は大変だった。


姉さんに知らせたら、部屋の大掃除が始まり、俺は家全体の掃除をしなくてはならなかった。


更には自分の部屋を片付け……もとい、変な物がないか確認したり。


ひとまず、おもてなしの準備は整ったと思う。


「……13時に来るって話だけど、そろそろかしら?」


「姉さん、落ち着いてよ」


「何を言ってるのよ? 弟が友達……それも女の子を連れてくるのよ? そんなの、幼稚園ぶりじゃない」


「それはそうだけど」


「きちんと挨拶して、印象を良くしとかないと……きたわ!」


「ま、待ってよ!」


ピンポンの音がしたので、俺と姉さんは慌てて玄関に向かう。

そして、扉を開けると……そこには女神がいた。

天然の髪は陽の光に照らされ輝き、それに引けを取ってない整った顔。

白のワンピースに青のカーディガンを羽織り、清楚な雰囲気がある。

普段と違う装いに、俺はうまく言葉が出てこなかった。


「こ、こんにちは」


「ちょっと待ってくださいね!」


「は、はい?」


戸惑う松浦さんを放置し、姉さんが俺を引っ張りこんで玄関を閉める。


「ど、どうして閉めちゃうの?」


「確認だけど、あの子で合ってるのね? テレビのドッキリとかで、アイドルがファンに会いにきたとかじゃないのね? そもそも、助けたところから……何か変な事に巻き込まれてない?」


「違う違う、普通のクラスメイトだよ。そりゃ、アイドルのように可愛いけど。そんなこと言ったら失礼だよ」


「……そうなのね。ごめんなさい、ちょっとびっくりしちゃって。まさか、あんな可愛い女の子が来るなんて」


「いや、無理もないと思う。俺自身もびっくりしてるから」


あんな可愛い女の子の友達になって、その子が家に来るとか。

昔からの俺を知ってる姉さんも、俺自身も未だに戸惑ってる部分はあるし。


「……いけない、これでは失礼になるわ。さあ、行くわよ」


「うん、そうだね」


再び、玄関を開けると……両手を頬に当ててオロオロしてる松浦さんがいた。

どうやら、俺達には気づいてないらしい。


「どうしよう? 変な格好だったかな? 張り切りすぎたかな? でもでも、失礼がないようにって思って……」


「……なに、あの可愛い女の子。あれはやばいわ」


「いや、確かに可愛いけど……やばいとは?」


「私も、それなり女として生きてるからわかるのよ。空気感や仕草からフリをしてるかどうか……あの子、天然モノの良い子ね」


「言ってる意味がわからないけど……とりあえず、行ってくるね」


姉さんを放って、俺は松浦さんに近づく。


「松浦さん、ごめんね」


「ふぇ!? よ、吉野君!? ……いつからそこに?」


「今さっきだよ、姉さんが失礼しました。とりあえず、中に入ろっか」


「うぅー……恥ずかしい」


「大丈夫だよ。ほら、行こう」


ひとまず、家の中に松浦さんを招き入れる。

すると、姉さんは先に靴を脱いでお辞儀をしていた。


「ごめんなさい。弟があまりに可愛い女の子を連れてくるからびっくりしちゃって」


「い、いえいえ! こちらこそ、以前は勝手にお邪魔してすみませんでした!」


「では、おあいこということにしましょう。それでは、上がってください」


「は、はい、お邪魔しますっ」


まずは、リビングに案内してソファーに座ってもらう。

俺はおとめを抱っこして、その隣に座る。

姉さんは、事前に用意していた飲み物を取りにキッチンに向かった。


「フスッ」


「わぁ……可愛い。おとめちゃん、こんにちは」


「おとめ、松浦さんという人で、この前来た人だよ」


「フスフス……」


おとめは、やたらと匂いを嗅いでいる。

ちなみに、俺はなるべく息を止めてます。

なにせ、めちゃくちゃ良い香りがして困るからです。


「やだっ、くすぐったい」


「フスフス」


……おとめナイスです!

松浦さん可愛いし、緊張が解けたみたいだ。

その後、おとめの毛を堪能していると……。


「はい、おまたせ。おとめ、邪魔してごめんね」


「フンスッ」


姉さんが小屋の方に誘導すると、大人しく小屋に帰る。

相変わらず、姉さんの言うことは絶対らしい。

生まれた頃から、しっかり躾をしてきた成果だ。



俺達はリビングのテーブル席に移動してお茶を飲む。


「改めまして、拓馬の姉の麻衣です。いつも、弟がお世話になってます」


「初めまして、松浦結衣っていいますっ。そんなことないですよ、私の方がお世話になってばかりで」


「そうかしら? それなら良いんだけど……詳しいことは弟から聞いてるわ」


「あっ、そうなんですね。はい、ゲームで知り合ったんです」


すると、姉さんが松浦さんをじっと見つめる。


「あ、あの、何か?」


「いえ、ごめんなさい。うんうん、良い子じゃない。松浦さん、良かったらうちの弟と仲良くしてやってください」


「もちろんですっ! 吉野君は優しいし、面白くて楽しいですから」


「ほほう? うちの子がねぇ……はぁ、私が歳をとるわけだわ」


なんだろ、このむず痒い感じは。

うまく説明はできないけど、今すぐでもこの場を離れたい。


「も、もういいよね!? とりあえず、俺の部屋に行くから」


「ええ、そうね。後は、いつでもきていいわ」


「松浦さん、行こう!」


「は、はいっ」


俺は松浦さんの手を引いて、 急いで二階に上がっていくのだった。


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