第28話 勉強会の約束

 ゴールデンウィークも明け、いつも通りに学校が始まる。


 俺は静かに教室に入り、自分の席に着く。


 すると、隣にいる松浦さんが軽く手を振ってくる。


「吉野君、おはよー」


「お、おはよう」


 特にそれ以上話ことなく、俺はスマホをいじる。

 すると、松浦さんからラインがきた。


『久しぶりー……ってわけでもないけど、この間はありがとね』

『いえ、こちらこそありがとうございました』

『だから固いってばー。ぬいぐるみ、すっごい嬉しかった。ただ、今度は取るところが見たいなー』


 いけないいけない、相変わらず緊張して文章が固くなる。

 これも、昨日の姉さんの所為だ。

 ……どうやって、うちに誘えばいいんだろ?

 あの時はわけもわからないままに、松浦さんが来ちゃったし。


『考え込んでどうしたの? 何か変なこと言ったかな……』


 隣を見ると、松浦さんが不安そうな表情をしていた。

 馬鹿か俺は……無視した形になってる。

 ええい! ここは当たって砕けろ!


『今度、うちに来ませんか?』


「ひゃい!?」


 俺が文字を打った途端、松浦さんが変な声を出す。

 すると、教室がざわつく。


「ど、どうしたの?」


「松浦さん?」


「な、なんでもないよー! ちょっとしゃっくりが出ちゃって……ごめんねー」


 生徒達が心配して松浦さんの方に来ようとするが、そのタイミングで先生がやってくる。

 みんなも立ち上がることなく、そのままホームルームが始まった。


「なんだ? 何かあったのか? ……まあいいか、生徒諸君おはよう。ゴールデンウィークはどうだった? 先生は昼から酒を飲んで夜に起きて、起きたらゲームして酒を飲んでという生活をしていた」


「やばいっすね!」


「相変わらず彼女とかいないんすか!?」


「ほ、ほら! 友達と出かけたりとか!」


「えっ? 彼女や友達とお出かけ? 彼女がいたらそんな生活してねえ! そして友達は結婚して子供が出来て忙しい……くくく、お前達もその内こうなるから覚悟しておけ。というわけで、女の子を家に呼んだりしてたら先生が泣きます」


 そんな先生の話を聞いてると、何やら視線を感じる。

 ふと横を見ると、何故か松浦さんが睨んでいた。


「むぅ……」


「……えっと?」


 すると、ラインがくる。

 そこには『昼休みになったら、校舎裏に来て』と書いてあった。

 俺は頷き、昼休みを待つことにした。



 ◇



 そして、昼休みになったので購買に寄ってから校舎裏で待っていると……。


 慌てた様子で、松浦さんがやってきた。


「お、お待たせ」


「いや、平気だよ」


「もう、びっくりしたよー。その……あれってどういう意味?」


「ごめんなさい。実は……」


 俺は姉さんに言われたことを、そのまま伝える。

 うちに来たことがわかってて、今後連れてくるなら挨拶をしたいと。


「そ、そういうこと……もう、どういう意味かと思った」


「どういう意味?」


「な、なんでもない! ……確かに勝手に台所使っちゃったし挨拶はしないといけないね」


「いや、それは俺が許可したし松浦さんは悪くないよ」


 そもそも、俺がちゃんと言えばよかった話だ。

 ただ、女の子を家に呼んだってことを恥ずかしくて言えなかっただけだし。


「そうかもだけど……うん、挨拶に行きます。そうすれば、これからも遊びに行けるってことでしょ?」


「……うん、松浦さんがさえ良ければ」


「もちろん、行きたいです。また来てもいいって言ってたもん。おとめちゃんにも会いたいし」


「そうだね。それじゃあ、いつがいいかな?」


 あの時は急で、大したおもてなしもできなかった。

 次は、何が楽しめるものを用意しないと……というか、前回は俺がお世話になってしまった。


「うーん、中間テストも近いしバイトもあるし……」


「あぁー、やっぱり忙しいよね」


「でも、遊びたいし、吉野君のお家行きたい……そうだっ! 吉野君の部屋で勉強をすればいいんだね!」


「……はい?」


「うんうん、そうすれば挨拶もできるし、休憩時間に遊んだりもできるし。よし、決まりっ」


「あのー、松浦さん?」


「それじゃあ、そういうことでっ! 詳しい日にちは後で連絡するねー!」


 そう言い、走り去っていく。

 相変わらずパワフルというか、強引というか……うん、それが素敵なところなんだけど。


「ただなんて言った? 俺の部屋で勉強……確かに、そうすれば一石二鳥ではあるのか。松浦さん、普通に成績も良いし」


 ……リビングに入れるのと、俺の部屋に入れるのでは意味が違う。


 俺は帰ったら、部屋を片すことを決意するのだった。






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