第27話 バレてた

 祖父母の家に行ったり、ゲームや勉強をして、俺のゴールデンウィークはあっという間に終わった。


 でも、何時ものゴールデンウィークとは違う。


 最後の日の夜、俺はテーブルの上でプリクラを眺める。


 そこにはめちゃくちゃ可愛い女の子と、情けない顔をした男がいた。


「……楽しかったなぁ。一昨日辺りから、連絡はしてないけど」


 結構忙しいから、ゲームもログインできないとはきた。

 彼女は友達も多いし、バイトもしてるから当然のことだ。


「どうしようかな……俺もバイトとかした方が良いか」


 この間ゲーセンで見たけど、結構メタルゲームとか高かったし。

 祖父母からお小遣いはもらったけど、それは課金や漫画に使ってしまった。


「これから松浦さんと出かけることもあるかもしれないし……その時にお金がないとか恥ずかしすぎるよなぁ」


 すると、ドアを叩く音がする。

 俺はその瞬間、プリクラを机の中にしまい込む。

 何がとは言わないが、こういう状況には慣れている。


「拓馬〜ちょっと良いかしら?」


「うん、平気だよ」


「それじゃ失礼っと……相変わらず漫画やゲームしかないわね。たまに覗いたりするんだけど」


「今、聞き捨てならない事を言ったけど?」


「平気よ、中は一切見てないから」


 そう言い、ベッドに腰をかける。


「そういう問題じゃ……まあ良いや、どうしたの?」


「いや、最近どうかなって思って。アンタ、少し良い顔になったから」


「そ、そうかな?」


「そうよ。出かけるようになったし、格好とかも気にするようになって。何か変化でもあったの?」


 流石は親代わりでもある姉さん。

 でも、松浦さんのことを言ったらからかわれそう。

 ただ、嘘はつきたくないし。


「リアルで友達が出来たんだ」


「友達……なるほど。それは、例の女の子ね? あの時、オフ会で会ったっていう」


「……うん、そうなんだ」


「うちの弟に女の子の友達が……お母さんに報告しなきゃ」


「きっと、びっくりしちゃうよ」


「ふふ、そうね。生きてたらお祝いしてたかも」


 うちの母さんは社交的で元気な人だった。

 死ぬ間際でも、ずっと人のことばかり気にしていたような人だった。

 きっと、俺のことが心残りだったに違いない。


「うん、そうだね。それで、色々と意識が変わったというか。外に出て遊ぶのも楽しいって」


「その子には感謝しないと」


「いや、本当に。それで、バイトとかした方が良いかなって。 次に遊ぶ時に、お金とか必要になるから。姉さん、許可出してくれる?」


「もちろんよ、社会経験を積むのは良いことだから。ただし、勉強が疎かになってなければの話ね」


 うちは、そもそも成績が悪いとゲームが禁止になる家だ。

 松浦さんはゲームも楽しみにしてるし、成績を落としたら本末転倒だ。


「うっ……それはそうです」


「とりあえず、中間テストの結果を見てから考えましょう。ゴールデンウィークが明けたらすぐでしょう?」


「うん、あと二週間くらいで中間テスト。そのあとは……憂鬱な体育祭があります」


「アンタ、運動苦手だものね……いや、運動神経自体は悪くないはず。とっさの対応というか、臆病なのが原因ね」


「うん、じっとしてる系は得意なんたけど」


「それに足も速かったわ」


「……そういや、そんな時もあったね」


 それで小学生の時にリレーに選ばれて、バトンを落としてトラウマになった。

 思えば、あの頃から緊張しいというか、人目に晒されるのが苦手だった。


「話がずれたわね。とにかく、まずは勉強をしっかりすること。あと、その子をうちに連れてくること」


「……はい? なんて言ったの?」


「姉として、一度お礼を言わないといけないし。どうやら、うちの弟にご飯を作ってくれたみたいだし?」


「……バレてた」


 どうやら、とっくに気づいていたらしい。

 そして、泳がされていたみたいです。


「当たり前じゃない、キッチンは私しか入らないのに位置は違うし。そもそも、アンタが急に料理するなんておかしいわよ」


「勝手に呼んでごめんなさい」


「ふふ、別に怒ってないから平気よ。貴方も年頃だし、言いにくいでしょうから。ただ、家に呼ぶなら挨拶は大事よ」


「うん、本人も気にしてたから。俺が言えなかっただけで、彼女は悪くないんだ」


「ええ、わかってるわ。それじゃ、その子に確認しておいて」


 そして、俺の部屋から出て行く。


 やっぱり、姉さんには敵わないみたいだ。


 それより……どうやって伝えれば良いんだろ。

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