第4話 オフ会に参加

髪を切った翌日……土曜日がやってくる。


ちなみに、昨日は緊張してほとんど寝れなかった。


きちんと店の確認もしたし、洋服も買ったし髪も切った……平気だと思うんだけど。


「ど、どうしよう?」


「何がよ?」


「お、オフ会! ……今から行くのやめられないかな? 怖い人とか、変な人がいたらどうしよう」


「いや、行って来なさいよ。変な人もいるかもしれないけど、それを含めて経験よ。もし困ったら私に連絡しなさい——叩きつぶしてあげるわ」


「ひぃ!? そ、そうならないように願います!」


姉さんは高校時代に空手の大会で優勝した経験のある人だ。

未だに道場に通ってるし、そこらの男には負けない。

本当の意味で、叩き潰してしまう。


「まあ、少し良い和食屋さんだし、そこまで変なことにはならないと思うけど。本当に困ったら、きちんと連絡すること……いいわね?」


「うん、そこは守るね」


「なら良いわ。あと、時間以内に帰ってこなかったら向かうとするわ。ほら、時間が迫ってきたわよ」


「……よ、よし! 行ってきます!」


「はい、行ってらっしゃい」


姉さんに見送られ、俺は自転車で駅に向かう。

そして十五分くらいで所沢駅前に到着する。


「うわぁ……昨日よりも人が多い」


休日の昼間ということだけあって、行き交う人々が多い。

若者からお年寄りまで、幅広くいる感じだ。

昨日も思ったけど、すっかりイメージが変わってしまった。

もっと田舎臭いというか……個人的には前のが落ち着く。


「……と、とにかく、店に行かないと。やばい、心臓が痛くなってきた」


襲いかかる不安を抱えて、俺は待ち合わせの店に向かうのだった。







……自分が情けない。


店の近くに来て、早くも一時間が経過していた。


でも、そこから近づくことができない。


緊張とよくわからない感情から、動悸がして苦しい。


「……本当に、自分が嫌になる。どうして、いつもこうなんだろ」


学校でもそうだ。

一人が好きってことに嘘はないけど、本当は友達も欲しい。

クラスで一人ぼっちなのは辛いのに、平気な顔をして虚勢をはってる。

なのに自分から話しかける勇気もない。

いつも、誰かが話しかけてくれないかなって思っている。


「昨日だって、松浦さんがいなかったら髪もちゃんと切れたかわからないし……そうだ、松浦さんも今日知り合いに会うから頑張るとか言ってたっけ」


あんな女の子でも、緊張するし頑張ってるんだ。

だったら、俺も少しくらい頑張らないと。

……ええい! いったれ!

俺は半端ヤケクソ気味に扉を開けて中に入る。


「いらっしゃいませー。何名さまでしょうか?」


「あ、あの、天野で予約していた者です」


「天野様のお部屋は、あちらになります」


視線を向けると、そこはお座敷になっていた。

なるほど、貸切ってことか。

お礼を言って、その前で靴を脱ぎ……俺は勇気を出して扉を開ける。


「おっ、誰だ?」


「もう一時間経ってるけど……」


「ねえねえ、それよりさ……」


……だめだ、視界がぼやける。

とにかく、まずは名前を言わないと。


「あぁー! 吉野君!」


「うひゃぁ!?」


な、何だ!? 何か柔らかな感触が……おっぱい!?

いつのまにか、俺の腕に胸が押し当てられていた。

というか……この声って。


「ま、松浦さん!?」


「びっくりした〜どうしてここにいるの?」


「い、いや、それは俺のセリフなんだけど」


「えっと、私はオフ会?ってやつに来てて……」


「おい、早く座れよ」


端っこの奥にいた男性が、俺を睨みながら言った。

すると、しがみつく松浦さんの力が強くなる。

当然、ムニュンって……ウォォォォォォ!?


「は、はい! すみません!」


「それじゃ、吉野君はこっちこっち」


「へっ? いや、ちょっと……」


「ねっ? お願い」


そのまま、左奥にある端っこの席に座らされる。

そして、隣には松浦さんが座った。

……待って! 全然状況を把握できないんだけど!

目の前に座ってる男性がめっちゃ睨んでるし!

すると、右奥にいた男性が立ち上がる。

少し恰幅の良い人で、優しそうな雰囲気だ……多分、二十代後半くらい?


「え、えー、新しい人が来ましたね。今日は十名だったはずですが、急遽来れなくなった人もいて九人ですね。ちなみに私が主催の天野で、ハンドルネームはテンマです。そこの君、名前を教えてくれるかな?」


「は、はい! ……ハンドルネームはスレイと申します」


「うそ!? スレイさん!?」


「へっ? 松浦さん?」


「わ、私……アキラっていいます」


その言葉に、俺の頭が完全にフリーズするのだった。






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