第4話 オフ会に参加
髪を切った翌日……土曜日がやってくる。
ちなみに、昨日は緊張してほとんど寝れなかった。
きちんと店の確認もしたし、洋服も買ったし髪も切った……平気だと思うんだけど。
「ど、どうしよう?」
「何がよ?」
「お、オフ会! ……今から行くのやめられないかな? 怖い人とか、変な人がいたらどうしよう」
「いや、行って来なさいよ。変な人もいるかもしれないけど、それを含めて経験よ。もし困ったら私に連絡しなさい——叩きつぶしてあげるわ」
「ひぃ!? そ、そうならないように願います!」
姉さんは高校時代に空手の大会で優勝した経験のある人だ。
未だに道場に通ってるし、そこらの男には負けない。
本当の意味で、叩き潰してしまう。
「まあ、少し良い和食屋さんだし、そこまで変なことにはならないと思うけど。本当に困ったら、きちんと連絡すること……いいわね?」
「うん、そこは守るね」
「なら良いわ。あと、時間以内に帰ってこなかったら向かうとするわ。ほら、時間が迫ってきたわよ」
「……よ、よし! 行ってきます!」
「はい、行ってらっしゃい」
姉さんに見送られ、俺は自転車で駅に向かう。
そして十五分くらいで所沢駅前に到着する。
「うわぁ……昨日よりも人が多い」
休日の昼間ということだけあって、行き交う人々が多い。
若者からお年寄りまで、幅広くいる感じだ。
昨日も思ったけど、すっかりイメージが変わってしまった。
もっと田舎臭いというか……個人的には前のが落ち着く。
「……と、とにかく、店に行かないと。やばい、心臓が痛くなってきた」
襲いかかる不安を抱えて、俺は待ち合わせの店に向かうのだった。
◇
……自分が情けない。
店の近くに来て、早くも一時間が経過していた。
でも、そこから近づくことができない。
緊張とよくわからない感情から、動悸がして苦しい。
「……本当に、自分が嫌になる。どうして、いつもこうなんだろ」
学校でもそうだ。
一人が好きってことに嘘はないけど、本当は友達も欲しい。
クラスで一人ぼっちなのは辛いのに、平気な顔をして虚勢をはってる。
なのに自分から話しかける勇気もない。
いつも、誰かが話しかけてくれないかなって思っている。
「昨日だって、松浦さんがいなかったら髪もちゃんと切れたかわからないし……そうだ、松浦さんも今日知り合いに会うから頑張るとか言ってたっけ」
あんな女の子でも、緊張するし頑張ってるんだ。
だったら、俺も少しくらい頑張らないと。
……ええい! いったれ!
俺は半端ヤケクソ気味に扉を開けて中に入る。
「いらっしゃいませー。何名さまでしょうか?」
「あ、あの、天野で予約していた者です」
「天野様のお部屋は、あちらになります」
視線を向けると、そこはお座敷になっていた。
なるほど、貸切ってことか。
お礼を言って、その前で靴を脱ぎ……俺は勇気を出して扉を開ける。
「おっ、誰だ?」
「もう一時間経ってるけど……」
「ねえねえ、それよりさ……」
……だめだ、視界がぼやける。
とにかく、まずは名前を言わないと。
「あぁー! 吉野君!」
「うひゃぁ!?」
な、何だ!? 何か柔らかな感触が……おっぱい!?
いつのまにか、俺の腕に胸が押し当てられていた。
というか……この声って。
「ま、松浦さん!?」
「びっくりした〜どうしてここにいるの?」
「い、いや、それは俺のセリフなんだけど」
「えっと、私はオフ会?ってやつに来てて……」
「おい、早く座れよ」
端っこの奥にいた男性が、俺を睨みながら言った。
すると、しがみつく松浦さんの力が強くなる。
当然、ムニュンって……ウォォォォォォ!?
「は、はい! すみません!」
「それじゃ、吉野君はこっちこっち」
「へっ? いや、ちょっと……」
「ねっ? お願い」
そのまま、左奥にある端っこの席に座らされる。
そして、隣には松浦さんが座った。
……待って! 全然状況を把握できないんだけど!
目の前に座ってる男性がめっちゃ睨んでるし!
すると、右奥にいた男性が立ち上がる。
少し恰幅の良い人で、優しそうな雰囲気だ……多分、二十代後半くらい?
「え、えー、新しい人が来ましたね。今日は十名だったはずですが、急遽来れなくなった人もいて九人ですね。ちなみに私が主催の天野で、ハンドルネームはテンマです。そこの君、名前を教えてくれるかな?」
「は、はい! ……ハンドルネームはスレイと申します」
「うそ!? スレイさん!?」
「へっ? 松浦さん?」
「わ、私……アキラっていいます」
その言葉に、俺の頭が完全にフリーズするのだった。
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