第46話 ヒロイン視点

……似合ってるって言われちゃった。


選んでもらった洋服を抱き抱えて、その場でうずくまってしまう。


少し時間かかるって言ったし平気だよね?


……これって、そうなのかなぁ?


ふと、昨日の夜のことを思い出す。




昨夜、同じ学校で親友でもある長谷川絵里が遊びにきた。


見た目はギャルだし口調は悪いけど、めちゃくちゃ良い子だ。


私の家のことも言わないでくれてるし、たまにこうして心配してきてくれる。


「やっほー」


「やっほー。どうしたの?」


「んいや、別に用ってわけじゃないんだけどね。なんか、最近あったかなと……様子が変な気がした。ほんとは言い出すまで待とうかと思ったけど、何かあってからじゃ遅いし」


「うっ……」


相変わらず鋭い。

私はそういう感情を隠すのが上手い方だけど、この子にはバレてしまう。

まあ、中学からの付き合いだから仕方ないけどね。


「なに? なんか問題あったん? ……変な男に付きまとわれてるとか?」


「ううん、そんなんじゃないよ。ただ、少し自分が変っていうか……」


「変? 相変わらず可愛いけど?」


「もう、そういうことじゃなくて……」


私は一度、深呼吸をして整理する。

今の自分の状態が、どんななのかを。

最近、スレイさんではなくて吉野君が気になる。

最初はあくまでも、スレイさんの延長線上で吉野君を見ていた。

でも最近は、そんなことは思わなくなっていた自分に気づいた。


「あっ、言いたくないなら言わなくて良いから。何か心配事がなければ良いし」


「えへへ、心配してくれてありがと。うんとね……最近、ある人が頭に浮かんでくると言いますか……」


「……ほうほう」


「あのね、恩がある人なの。だから、最初は恩返しのつもりっていうか……でも、いつの間か次はどんなことしたら楽しいかな?って自分のことを考えてて」


お兄ちゃんのこともそうだし、私も沢山助けてもらった。

あの時離婚やお兄ちゃんのことで落ち込んでいた私は、親友の絵里くらいにしか言えなかった。

気を使われるのは嫌だから、みんなには言いたくなったし。

そんな中、全く関係ないスレイさんとのゲームの時間は貴重な時間だった。

そのことを忘れられたし、お兄ちゃんのことも知れたし、何より楽しかったから。


「へぇ、それは初耳だね。そいつは私の知ってる奴?」


「知ってはいるけどごめんね。その人に、名前は言わないでくれって」


「了解、変な弱味とか握られてないなら良いし。というか……それって、最初はその人のためにって思ってたけど、いつの間にか自分のためっていうか……その人としたいことを考えてるってこと?」


「多分……気づいたのは本当に最近なんだけど」


恩返しとかスレイさんとか関係なく、吉野君といて楽しいことに気づいた。

だから強引にバイトに誘ったりしちゃったのかも。


「はぁ……この子にも春がきたのか」


「なになに?」


「それって……好きなんじゃない?」


「えっと?」


「この子、これで知らないふりをしてないってことが怖いよなぁ……つまり、異性として好きってこと」


異性として好き……私が吉野君を?


「……えぇー!? そうなの!?」


「いや、あんたが驚いでどうするのよ。全く、私じゃなかったら怒ってるところだし」


「はは……ごめんね。でも好きかぁ……よくわかんない」


みんながいう好きが、私にはよくわからない。

物心ついた時には、両親の関係は冷めきっていたし。

それもあって、みんながいうトキメキみたいのがわからない。

多分、少し冷めているのかもしれない。


「見た目と違って、あんたは恋愛音痴だしね。それで、何人の男が泣かされてきたか」


「だって、よくわからないし。みんな仲良くしたいもん……それで嫌われることもあるけど」


「それはわかってるし、それは仕方ないことだよ。好きかどうかはすぐにわかる方法あるけど? 少なくとも、嫌いじゃないってわかるやつ」


「ほんと? それってどうやって?」


それを聞いた私は、その段階をすでにクリアしていたことに気づいたのでした。




……匂いかぁ。


異性として受け付けない場合は、匂いがダメなことが多いとか。


逆に、良い匂いだと思うなら惹かれてるとも。


「そもそも、考えたことなかったなぁ」


ただ、カラオケとかでも気にはならなかった。

あとは、ドキドキするかどうか。


「さっき、ドキドキしたからそういうこと?」


……あっ、いけない。


あんまり長いと不審に思われるので、私は急いで着替えをするのでした。



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