第46話 ヒロイン視点
……似合ってるって言われちゃった。
選んでもらった洋服を抱き抱えて、その場でうずくまってしまう。
少し時間かかるって言ったし平気だよね?
……これって、そうなのかなぁ?
ふと、昨日の夜のことを思い出す。
◇
昨夜、同じ学校で親友でもある長谷川絵里が遊びにきた。
見た目はギャルだし口調は悪いけど、めちゃくちゃ良い子だ。
私の家のことも言わないでくれてるし、たまにこうして心配してきてくれる。
「やっほー」
「やっほー。どうしたの?」
「んいや、別に用ってわけじゃないんだけどね。なんか、最近あったかなと……様子が変な気がした。ほんとは言い出すまで待とうかと思ったけど、何かあってからじゃ遅いし」
「うっ……」
相変わらず鋭い。
私はそういう感情を隠すのが上手い方だけど、この子にはバレてしまう。
まあ、中学からの付き合いだから仕方ないけどね。
「なに? なんか問題あったん? ……変な男に付きまとわれてるとか?」
「ううん、そんなんじゃないよ。ただ、少し自分が変っていうか……」
「変? 相変わらず可愛いけど?」
「もう、そういうことじゃなくて……」
私は一度、深呼吸をして整理する。
今の自分の状態が、どんななのかを。
最近、スレイさんではなくて吉野君が気になる。
最初はあくまでも、スレイさんの延長線上で吉野君を見ていた。
でも最近は、そんなことは思わなくなっていた自分に気づいた。
「あっ、言いたくないなら言わなくて良いから。何か心配事がなければ良いし」
「えへへ、心配してくれてありがと。うんとね……最近、ある人が頭に浮かんでくると言いますか……」
「……ほうほう」
「あのね、恩がある人なの。だから、最初は恩返しのつもりっていうか……でも、いつの間か次はどんなことしたら楽しいかな?って自分のことを考えてて」
お兄ちゃんのこともそうだし、私も沢山助けてもらった。
あの時離婚やお兄ちゃんのことで落ち込んでいた私は、親友の絵里くらいにしか言えなかった。
気を使われるのは嫌だから、みんなには言いたくなったし。
そんな中、全く関係ないスレイさんとのゲームの時間は貴重な時間だった。
そのことを忘れられたし、お兄ちゃんのことも知れたし、何より楽しかったから。
「へぇ、それは初耳だね。そいつは私の知ってる奴?」
「知ってはいるけどごめんね。その人に、名前は言わないでくれって」
「了解、変な弱味とか握られてないなら良いし。というか……それって、最初はその人のためにって思ってたけど、いつの間にか自分のためっていうか……その人としたいことを考えてるってこと?」
「多分……気づいたのは本当に最近なんだけど」
恩返しとかスレイさんとか関係なく、吉野君といて楽しいことに気づいた。
だから強引にバイトに誘ったりしちゃったのかも。
「はぁ……この子にも春がきたのか」
「なになに?」
「それって……好きなんじゃない?」
「えっと?」
「この子、これで知らないふりをしてないってことが怖いよなぁ……つまり、異性として好きってこと」
異性として好き……私が吉野君を?
「……えぇー!? そうなの!?」
「いや、あんたが驚いでどうするのよ。全く、私じゃなかったら怒ってるところだし」
「はは……ごめんね。でも好きかぁ……よくわかんない」
みんながいう好きが、私にはよくわからない。
物心ついた時には、両親の関係は冷めきっていたし。
それもあって、みんながいうトキメキみたいのがわからない。
多分、少し冷めているのかもしれない。
「見た目と違って、あんたは恋愛音痴だしね。それで、何人の男が泣かされてきたか」
「だって、よくわからないし。みんな仲良くしたいもん……それで嫌われることもあるけど」
「それはわかってるし、それは仕方ないことだよ。好きかどうかはすぐにわかる方法あるけど? 少なくとも、嫌いじゃないってわかるやつ」
「ほんと? それってどうやって?」
それを聞いた私は、その段階をすでにクリアしていたことに気づいたのでした。
◇
……匂いかぁ。
異性として受け付けない場合は、匂いがダメなことが多いとか。
逆に、良い匂いだと思うなら惹かれてるとも。
「そもそも、考えたことなかったなぁ」
ただ、カラオケとかでも気にはならなかった。
あとは、ドキドキするかどうか。
「さっき、ドキドキしたからそういうこと?」
……あっ、いけない。
あんまり長いと不審に思われるので、私は急いで着替えをするのでした。
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