第45話 女の子の服選びは大変

 ……凄いや、目がチカチカしてくる。


 俺の目の前には、お洒落な洋服がずらりと並んでいた。


 絶対、自分一人なら入れない。


「んー、とりあえずここかなー。吉野君、行こっ」


「う、うん。ところで、俺は何をすれば?」


「私の洋服を見てもらうんだ〜。それで似合ってるとか、似合ってないとか意見欲しいなって」


「はい? ……どう考えても人選が間違ってる気がする」


 そもそも、自分の服すら満足に選べないのに。

 ましてや、女の子の服なんて全然わからない。


「そんなに気にしなくて良いよー。直感というか、吉野君が良いか悪いか決めてくれればね」


「……頑張ります」


「それじゃ、これとこれとこれを組み合わせて……あっ、こっちも良いかも」


 松浦さんは、次々と洋服を取っては店員さんに渡していく。

 そして試着室に入り……ファションショーが始まるのだった。


「これはどう?」


「い、いいと思う」


「ふんふん……これは?」


「いいと思う」


「もうー、さっきからそればっかりだよ?」


「そんなこと言われても……どれ着ても可愛いし」


 なにせ、元が良すぎる。

 手足が長くてスタイルが良いので、スカートだろうがズボン系でも似合ってしまう。

 多分ダサい服を着ても、一周回ってお洒落になってしまう人だ。


「そ、そう? ……複雑だけど喜んでおこうっと」


「どういう意味?」


「ううん、気にしないでー。うーん、ここの服はお気に召さないか……じゃあ、次に行こっ!」


「ま、まだ見るの?」


「当たり前だよー……嫌かな?」


「いや、そんなことはないよ。いい意見が言えなくて申し訳ないかなって」


 松浦さんのファッションショーを目の前で見れるなんて贅沢だし。

 いちいちポージングを決めたりするのも可愛い。

 ただ、自分の語彙力の無さに悲しくなるだけです。


「良い意見とかは平気。さっきも言ったけど、吉野君の正直な感想が欲しいかな」


「正直な感想……ところで、何で俺の意見なの? もっと、他にお洒落に詳しい人いると思うんだけど」


「えっ? そ、それは……えーと、何といいますか……」


 松浦さんが両手をバタバタしてあわあわしている……なにこれ、めちゃくちゃ可愛い。

 ただ、普段の感じとは全く違うけど。


「別に無理にとは言わないから大丈夫だよ」


「うぅー……あ、あれだよ! 私、ゲームでも吉野君に装備を決めてもらってたから! だから、その感覚で聞いてるのかも!」


「……なるほど」


 いや、全然わかんない。

 ただ、これ以上突っ込んだらいけない気がする。

 俺は疑問を押し殺し、松浦さんの後をついていくのだった。







 ……流石に少し疲れたかも。


 かれこれ、一時間半くらい経ってる。


 いやはや、女の子が服を選ぶって大変なんだなぁ。


 ……そっか、普段俺と遊ぶ時も苦労してるのかな。


 松浦さんのことだから、会う人に喜んで欲しいとか思ってるかもしれない。


 今日は、もしかしたらそのために呼ばれた?


 俺と遊ぶ時用の服ということで。


「ごめんね、疲れちゃった?」


「いや、平気。あのさ、俺が好きなの選んでも良いの?」


「えっ!? ……うんっ!」


 すると、とびっきりの笑顔を見せてくれる。

 どうやら、俺の予想は合っていたみたいだ。


「そうなると……これとこれかな」


「ふんふん……私に?」


「へ、変な趣味かな?」


「ううん、そんなことないけど……とりあえず、着てみるね」


 そして試着室の前で待つこと数分後……カーテンが開かれた。

 そこには白のニットセーターに、青のロングスカートを着た松浦さんがいた。

 春らしく、清楚な雰囲気でめちゃくちゃ可愛い。


「……」


「よ、吉野君? ……やっぱり変だよね!」


「可愛い……」


「ふぇ? ……そ、そうなんだ」


 ……あれ!? 声に出てた!?


「ご、ごめん! つい本音が……」


「えへへ、嬉しいから平気。でも、似合ってるかなー? 私、こんなに清楚な服持ってないから。ほら、私の見た目って派手だから……」


「お、俺は良いと思う」


「ほんと? ……実は、こういう分かりやすい格好に憧れてたんだ」


「に、似合ってるから大丈夫!」


 よし! ちゃんと言えた!

 すると、松浦さんが満面の笑顔を見せた。


「うんっ! じゃあ、これにしよっと。じゃあ、ささっと着替えちゃうね。さっきより少し時間かかるけど待っててね」


「さっきより時間かかる?」


「かかるんですっ。あと、ここから少し離れてね!」


「わ、分かりましたっ!」


 そして、再び試着室の中に戻っていく。


 俺もその場を離れて……ふと気づいた。


「これはチャンスなのでは?」


 そう思った俺は、すぐに行動を起こすのだった。

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