第51話 ヒロイン視点

……わかってた。


偽善者だってことは、私が誰よりも一番。


どうしていいかわからず、私は電車にも乗らずに走り続けた。


流石に一時間以上も走り続けると、息切れがしてくる。


こんなに走ったのは、中学時代の部活で長距離走をやっていた時以来だ。


走ってる時だけは、嫌な事を全て忘れられたから。


結局、胸が大きくなってきて辞めちゃったけど。


「はぁ……はぁ……やっぱり、気にくわない人はいるよね」


たまたま教室に忘れ物があったから戻ったら……私のことを話してるのが聞こえてしまった。

私のことをうざいとか、調子乗ってるっていう会話が。

怖くなって、すぐにその場を離れてしまった。


「別にわかってたことじゃん……誰からも好かれるなんて無理だって。それに、私の自己満足な部分があるんだから……」


なのに、私の目から涙が止まらない。

胸が痛くて張り裂けそう。


「えへへ……バカみたい。自分で勝手にやって、それで言われて傷ついて」


すると、急に天気が変わり……雨が降ってくる。

傘も持ってないし、まだ家までは遠い。

私はずぶ濡れになりながら、雨宿りできる場所を探す。

どうにか、近くのコンビニの屋根に逃げ込む。


「まだ梅雨にもなってないのに……でも、これで泣いてもバレないかな」


「なあ、あれ……」


「声かける?」


すると、男の人達が私を見てヒソヒソしていた。

……いけない制服が透けてる!

私はカバンで上半身を必死に隠す。


「どうしよう? 今更傘を買っても……タクシー拾うにしても迷惑だろうし」


そもそも、ここはどこだろう?

とりあえず線路沿いを走っていたから、方向は合ってると思うけど。

その時、一台の車が近くに泊まる。

そして、窓が開いて私のことを眺めてる女性と目が合う。


「……松浦さん?」


「えっ? ……吉野君のお姉さん?」


そこにいたのは、吉野君のお姉さんだった。


「ちょっと、びしょ濡れじゃない! 早く後ろに乗りなさい!」


「えっ? い、いえ! 悪いですよ!」


「このまま放っておいたら男達が寄ってきちゃうから! それに、色々と目に毒だわ」


「うぅー……あ、ありがとうございます!」


確かに男性達は立ち止まって眺めてるし、変な視線を向けてくる人もいる。

私はご好意に甘えて、後ろの座席に飛び乗る。

そこには、すでにタオルが敷いてあった。


「ほら、頭だけでも拭いて」


「す、すみません」


「じゃあ、とりあえず私の家に行くから」


「は、はいっ」


私はコクコクと頷き、大人しく従う。

そして、十五分くらいで到着する。

お姉さんは私の手を引いて、玄関へ連れて行く。


「さあ、まずはお風呂よ」


「い、いいんですか?」


「もちろんよ。貴方は、弟を変えてくれた恩人だもの」


「えっ? ……そうなんですか?」


「ええ、そうよ。あの子、貴方と知り合ってから学校に楽しそうに行くのよ。それにバイトをしたり、出かけるようになったり……感謝してるわ」


「わ、私は、ただ吉野君と遊びたくて……自分勝手で迷惑かけちゃって」


もしかしたら、吉野君も私のことをめんどくさいとか思ってるのかな?

そんなことないって思いたいけど……あんなことがあったから怖い。


「ふふ、大丈夫よ。育ててきた姉が保証するわ」


「お姉さん……えへへ、そうだと嬉しいです」


「本当よ。ほら、シャワー浴びなさい。私は着替えを用意してくるから」


「な、何から何まですみません」


軽く微笑み、姉さんが扉を閉める。


私は有難く、シャワーを借りることにするのでした。

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