第54話 体育祭

 それから数日が経って、体育祭の日がやってくる。


 梅雨に入ったけど、幸い雨が降ることもなく無事に開催となった。


 天気も快晴で、まさしく体育祭日和って感じだ。


「……みんな盛り上がってるなぁ」


 競技が進む中、俺はひとりぼっちで大人しく席に座っている。

 ただ、それが寂しいとか居づらいってことはなかった。

 その理由は……松浦さんのおかげだろう。

 ときどき、こっちにきて話しかけてくれる。


「吉野君、隣いい?」


「うん、もちろん」


「よいしょっと……んー、いい天気だね」


「確かに晴れてよかったよ。雨だと延期とかで面倒だし」


 こうして学校で松浦さんと話すのも、そんなに気にならなくなってきた。

 松浦さんはそういう女の子だし、逆に相手が俺だから誰も注目したりしない。


「うんうん、それで無くなるパターンもあるし。あっ! うちのクラスが抜いた!」


「ほんとだ……緊張してきた」


「吉野君、次だもんね。私は午後の部からだけど」


 今は午前の部が半分終わったくらいだった。

 全体競技の玉入れや綱引きは、すでに終わっている。

 俺の種目が終わったら、お昼休憩になる予定だ。


「全体競技はどうにかなったけど、流石に個人は緊張するよ。めちゃくちゃ人に見られるしさ」


「でも、ほら……バイトの時だってそうでしょ?」


「……言えてる」


 しかも、あっちにはお金も発生してるし責任もある。

 もちろん、こっちにも責任はあるけど……そう言われると緊張がほぐれてきた。


「でしょでしょ? それじゃ、気合い入れて頑張ろっ」


「よし……やってみるよ」


「応援してるから頑張って!」


「あ、ありがとう」


 俺は立ち上がって、待機場所に向かうのだった。






 ……結果からいうと、結構頑張った方だと思う。


 ビリではなかったし検討はしだはず。


 ただ、途中から意識が乱れて大変だった。


 理由は……これである。


 俺の目の前で、姉さんと松浦さんが飯を食ってる。


「お姉さん! これ美味しいですっ!」


「ほんと? よかったわ」


「卵が甘くないの好きなんですよー。これって、だし巻き卵ってやつですか?」


「そうよ。この子も甘いのが嫌いだから」


 ……なぜこうなった?

 流石のみんなも、どういうこと?って感じで見てるし。

 ちなみに乱れた原因は、競技中に姉さんが松浦さんに話しかけてるのを発見したからだ。


「あのさ、どうして一緒に飯を?」


「だって、結衣ちゃん誰も来ないって聞いたから可哀想じゃない」


「いや、それは聞いたけど」


 松浦さんのお父さんは仕事らしく、今日は来ていない。

 それを知った姉さんが、一緒にご飯と誘ったらしい。


「迷惑かな?」


「ううん、それはないよ。ただ、どう説明をすればいいのかなって」


「雨に濡れてるところを、お姉さんに助けてもらったって言っておいたよー。そしたら、偶然吉野君のお姉さんだったって」


「あぁー、そういうことに……了解です」


 俺も諦めてお昼ご飯に集中する。


 その間、二人はずっと仲良くおしゃべりをしているのだった。











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