【平成十七年(2005年)新春~晩春】


【平成十七年(2005年)一月】


 正月を過ぎた頃に、隣の生産牧場が廃業するとの話が聞こえてきた。


 調教コースを借りられなくなるなあ、なんて思っていたら、春待牧場の先代と話がついて、土地の交換が行われるらしい。


 生産牧場の跡地を農業に転用するのはなかなか大変で、既にその作業を進めていた春待牧場跡を提供する代わりに、調教コースのある牧場施設をもらい受けるのだそうだ。そして、本格的に馴致、調教の請負をしていく話となるらしい。


 出資者の立場でも、取引先としても大歓迎の展開で、調教コースについては、爛柯牧場に食い込む形で拡充してほしいくらいとなる。


 


 そして、春からの朝ドラは「ファイト」となる。この作中で、確か高崎競馬場をモデルにした地方競馬が廃止されるのだが、現状で高崎競馬は持ちこたえている。ストーリーが変わるのか、劇中の地方競馬場は廃止となって、現実の高崎競馬場だけ存続するのか、どうなるのだろう?


 SPAT4での北関東各場の馬券の発売は、当初の計画からやや遅れたものの、2005年の正月過ぎの開催から本格的に開始されている。一気に赤字が解消されるわけではないが、改善傾向が見えているらしい。この状態でいきなり廃止というのは、さすがにしづらいはずだが、行政の判断は時として謎展開となるので油断は禁物である。




 天元財団の設置計画は無事に進んでいる。給付型奨学金と母子家庭支援を中心に、厩舎スタッフや競馬場従業員の子女への支援や、福利厚生などを手掛けることになりそうだ。


 遥歌さんは思いっきり張り切って、天元のじっちゃんが進んでいた道を走り出している。思えば、俺が彼女を企業経営の世界へ引きずり込んだせいで、要らぬ苦労をさせてしまったのかもしれない。むしろ、上田競馬組合にでも紹介すればよかったのか。


 ……そうだったなら、上田競馬は今よりももっと活性化していそうな気もしてきた。なんだか、遠回りをしてしまったのだろうか。


 ともあれ、稼いだ資金で祖父の想いを継承しようという動きは、遥歌さんにこれまでの自分を肯定する心的作用をもたらしたようだ。父親との関係性を踏まえると、きっと意味のある時間となるのだろう。


 財団では、資金運用としてアップル、グーグル、アマゾンといったアメリカの成長が見込める企業の株式と、ユニクロ、ヤフー、ソフトバンクなどの日本の成長株を買っていこうとの話になっている。


 一方で、いずれリーマンショックがあるわけで……。実際は、ディープインパクツが凱旋門賞に挑戦する頃が、ひとまずの最高値という話だった記憶がある。そして、リーマン・ショックで日経平均は一万円を割り込み、七千円台とかになり、アベノミクスの頃まで低迷を続けるはずだ。


 まあ、投資方面もあまりやりすぎると、女神のご機嫌を損ねかねないので、最大化は考えずにおくとしよう。



【平成十七年(2005年)二月】


 村下ファンドが東京のキー局の一つである富士山テレビの経営権取得を狙って、親会社の大和放送の株の確保を進めていた。


 創業家による持ち株放出を受けて、富士山テレビが親会社の株式を確保しようとしたタイミングで、リビングドアが突如として時間外取引にて大和放送株を買い集めた、というのが一連の事態のスタートとなる。


 増資も絡んでの大立ち回りとなるのは史実通りなのだが、そこに本来なら関係のないはずのワンツースリーが介入し、大和放送の株式を一定数買い集めたために、一気にタロエモンは有名人となった。


 取得した株式の割合はそれほど多くないのだが、知名度が急上昇したわけなので、費用対効果はあったのかもしれない。悪名も是とするのであれば、だけれど。


 抗争は、増資の差し止め請求に絡んだ仮処分についての法廷闘争にもつれ込んだが、痛み分けに終わり、ひとまずの手打ちが行われた。


 ヒロエモンがどこまで本気でメディアを……、大和放送を通じて富士山テレビを手に入れたかったのかどうかは不明である。けれど、知名度を派手に高めつつ、富士山テレビに一定の影響力を保持することになったわけで、一定の成功は収めたと言えるだろう。


 そして、タロエモンこと暮空太郎氏もまた、知名度を急速に上昇させることになった。本人がうれしそうなので、きっとよかったのだろう。



【平成十七年(2005年)晩春】


 六月にJRAの新しいネット投票サービス、即PATがリリースされた。既にSPAT4で上田と北関東二場の馬券は売られているが、この後にはオッズパークと天楽競馬がサービスを開始する流れとなっており、競馬界全体で大きなうねりが起きようとしていた。


 最終的には、2012年に中央競馬の投票システムで地方競馬が買えるようになり、ネット投票の環境整備はほぼ完了したはずだ。2011年を底に回復していったのには、この流れが大きく影響していたのは間違いのないところだろう。


 ひふみ企画の運営サイトでも、レース動画の配信を検討中となっている。まずは、上田競馬の三冠レースや春祭りのダイジェストを試験的に公開していた。


 そして、ディープインパクツは、あっさりと二冠を制していた。二度目の俺でも衝撃的なのだから、初見の迫力は強いことだろう。



 出産シーズンの中で、カイトウテイオーの産駒が二頭誕生した。美冬判定と、滞在中だったエスファの見立てを総合すると、二頭とも中央での条件級レベルということだった。


 いずれもダート向けの体躯に出てくれたので、地方の馬主さんに自信を持って売ることができる。中央での条件級なら、南関東以外の地方では、無双は言い過ぎでも、有力馬として活躍できるだろう。


 カイトウテイオー産駒は、気性面で問題を抱える場合が多い。馴致から初期の乗り運動を手掛ける春待先輩の手腕で少しでも緩和されることを期待しよう。


 その流れから、今年のカイトウテイオーの種付け数は増やしてみている。


 同じくそこそこ評価を得られたのは、ブライアンズロマネ産駒の牡馬で、宇都宮競馬で活動している馬主さんからのリクエストなので、喜んでもらえそうだ。


 そして、この年のダート種牡馬事情としては外せないのは、シルバーチャーミーの導入である。アメリカでのアイドルホースが、JRAによって買い取られて導入され、静内に繋用されているのだった。


 アメリカに残してきた産駒からは大物は出なかったものの、高い勝ち上がり率を残したとの記憶がある。そして、日本では譜代系ではないためか、ほぼ黙殺されるような状態となり、活躍馬を輩出することはなかったはずだ。


 譜代ファームの期待馬であるファイトエンブレムの事実上の種付け拒否は続いており、確保していたはずの繁殖牝馬をシルバーチャーミーに回せば、別の展開もあった気がする。そうならなかったのは、譜代としてはその流れが当てつけのように感じられたとかだろうか? 一方で、三代前。父の母父にヘイルトゥリーズンがいるので、そこを気にした可能性もある。4×4ならまだ、という気はするけれど。


 初年度の種付け価格は300万近くで、ダート馬として考えると高い水準となっている。ある程度落ち着いてくるなら、検討していくとしよう。


 プラチナアリュールもまた、デビュー前ということもあって種付け料がやや下がってきている。初年度産駒が走り出す前が狙い目となるかもしれない。

 


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