【平成二十七年(2015年)】

【平成二十七年(2015年)春】


 ランカシュヴァルツは、無事にキングオブクールとの仔を出産してくれた。美冬はすぐにその若駒を包む光を認め、エスファもまた、ディープほどではないけどね、との表現で太鼓判を押してくれた。牡馬であるからには、菊花賞から春の天皇賞がひとまずの目標となる。


 この仔の父であるキングオブクールは、父がメグロマックイーン、母はステディゴールド産駒のランカキラメキである。母のランカシュヴァルツは、父がシルバーチャーミー、母はランカリアリティ産駒のランカリアライズと、必ずしも長距離専門という配合ではないが、両親のレースぶりからも長い方が向きそうに思えてしまう。


 他の有望馬としては、シルバーチャーミー産駒とタイムパラドクス産駒の牡馬、それにランカフォルトゥナの全妹となる、ランカフェリクス産駒の牝馬が挙げられた。


 シルバーチャーミーの幼駒の母親はランカアミュレットで、牝馬の好みの激しいファイトエンブレムとランカヤマブキの最初の仔なので、ルンルンマモリフダの全姉ということになる。母の母はステディゴールド産駒であるため、父親のシルバーチャーミー、母父のファイトエンブレムとがアメリカからの導入馬で、母父のステディゴールドもアメリカからのサンデーサイレントの息子であるのも踏まえると、だいぶアメリカ風味の配合となる。


 もう一頭の期待の牡馬、タイムパラドクス産駒の母親はランカリープで、プラチナアリュールとルンルンオペレッタの娘である。プラチナアリュールはサンデーサイレントのダート系の最高傑作で、ルンルンオペレッタの父親はメイユウオペラなのでダート色が強くなっている。


 なお、タイムパラドクスの父はブライアンズタイムスで、母の父はアルザオ……、ディープインパクツの母の父である名種牡馬である。


 そして、牝馬での有望株はランカフェリクスとランカリアライズの娘で、今年デビュー予定のランカフォルトゥナの全妹となる。


 フォルトゥナと同じく、ランカヴェニスとランカナデシコの牝系を引き継ぎ、マチカゼフクキタル、ソッカーボーイ、リアルフダイ、ウルトラクリークの血を引くからには、天元のじっちゃんから引き継いだ後の爛柯牧場の象徴的血統とも言える。


 繁殖入りしたら、キングオブクールと配合しようかなんて夢は広がるが、少し脚元が弱いようでもあり、まずは無事に競争生活を過ごしてほしいものだ。


 こうして見ると、やはり爛柯牧場で奇数年に有望馬が産まれる理論? は継続しているようでもある。樹理に話してみたら、呆然としてコメント無しで立ち去られてしまったけれども。


 その他の馬に目を向けると、有望まで届かなくても、エスファのそこそこ評価や、美冬が光を見出す比率が上がっているようでもある。繁殖牝馬の質が向上しているのと、樹理の配合理論、それに千佳子メソッドの相乗効果だろうか。


 そうそう、岩手の調教師さんの手を焼かせていたルンルンマモリフダは、前年末で引退して今年から繁殖入りしている。牧場に戻った際には、美冬がだいぶ長いこと語りかけていたようだが、話はついたのだろうか。


 初年度は、タンホイザーゲートをつけることになった。父親のおっとりした気質が、マモリフダの頑固さを緩和してくれることを期待しよう。



 そして……、この年の産駒は、平成の終わりの時点で四歳ということになる。残念だが、現役生活の終わりまで見届けられない馬が多く出てくるだろう。それでも、先に進んでいる感じが俺としては誇らしかった。


 前年からの騎手免許の海外出身者向け緩和によって、二年目となる今年の二月に、有力騎手二人が短期ではない正式免許を取得した。この流れは前世の記憶通りで、彼らと地方からの転入組、そして、一部のトップジョッキーに馬が集中する流れが生じる。自厩舎中心に騎乗していた騎手の多くとでは実力差があったのは否めないところで、状況はだいぶ変わっていく形となる。


 もちろん、爛柯牧場やひふみ企画の所有馬についても、短期免許で来日中の外国人騎手や地方からの転入騎手が騎乗する場面も多くあった。よほどのことがない限り、乗り役は調教師に任せているためもある。仁科調教師を含め、預託先の各厩舎が長距離戦を高瀬騎手……、巧に依頼することが増えているのは、発揮され続けている実力からとなる。


 実際には、巧は長距離専門ではなく短距離戦もこなすのだが、まずは乗せてもらわなくては始まらないので、得意分野が認識されるのは好ましい状況だろう。


 ひとまずランカシュヴァルツの2015という表記となる若駒は、無事に成長して高瀬巧騎手を背に乗せてくれるだろうか。その姿を楽しみにするとしよう。



【平成二十七年(2015年)晩春】


 この年のヴィクトリアマイルでは、前世の記憶では二千万円馬券が飛び出すことになる。三連単ともなると、激しい配当が生じるわけである。


 普通なら買える馬券ではないが、印象が強烈すぎてはっきり覚えている。馬券投資会社の船出にはちょうどよいだろう。もっとも、ここは手動モードでの購入となる。


 ただ、俺の行動が紛れとなって、結果が変わることも考えられる。馬券に絡む三頭の馬名は変わっていないが、他の馬の顔触れや、出走各馬の戦歴などは変わってきている可能性が充分にあった。


 ここで外れても、投入予定の金額を考えれば、たいした影響はない。それでも、船出のレースの結果は今後に影響するだろう。


 連複、連単にワイドまでも押さえてレースを見守ると、結果は前世の記憶と変わらなかった。ヤスさんからの事務的なメッセージに返信して、本格稼働のゴーサインを出す。各場の最終レースが、実質的な馬券投資会社のスタートとなるのだった。


 自動購入のアルゴリズムは、戦績を分析して抽出した買い目に、オッズ分析から、人気の盲点的なところを洗いだし、リスク少なく賭ける二段構えとなっている。トライアルの結果は上々だが、本番モードでどうなるだろうか。




 静内では、漁協の顔役の跡継ぎ候補夫婦との打ち合わせも重ねている。日高地方には漁協が複数あり、町村合併の絡みもあって、その領域は複数の自治体に分かれる場合もあるので、水産物をふるさと納税の返礼品にするとしても、簡単な話ではないのだった。


 ひふみ企画からは、競馬方面のコンサルチームの幾人かが、出張と休暇をくっつけてやってきている。そのあたりは、わりとのどかな状態であった。


 いろはフーズは、高崎、宇都宮にも店舗を展開させており、漁協からの食材は北関東へと供給されている。


 大都市圏に向かった方が効率はいい面もあるのだが、競走馬のふるさととしての日高、静内のネームバリューは強いので、地方競馬場がある地域には浸透しやすい、との事情もあった。今では飲食店向けだけでなく、魚屋への供給も行われていた。


 鮮魚については供給が安定しない面もあるが、養殖物や加工品は計画的に進められている。苫小牧から大洗までの船便もあるため、生鮮品以外の物流コストを抑えられるという面もあるのだった。


 そうなると、北関東の他の地域にも広げたいところではある。南関東の競馬場や、中央競馬の各場への海鮮丼スタンド出店なんかもよさそうだが……、一足飛びにやりすぎない方がいいのかもしれない。まだ、漁協の代替わりは済んでおらず、後継者夫婦の発言力は限定されているようだ。


 美冬としてはその状況がやや不満そうだが、できる範囲で成果を上げていくことは、この土地では重要なのだろう。彼らは、協力が得られれば地域の枠組みを超えて動こうとする気配もあり、この取り組みにはやや危うさも内在している。そして、単に同級生だからと、肩入れしていいものなのかどうか……。


 ただ、販路が広がること自体は、手放しで喜ぶべきなのだろう。




 この時期、来年の大河ドラマの出演者情報を含めた会見が行われた。主役である真田信繁を堺雅人さんが務めるのは発表済みだが、父親の真田昌幸を草刈正雄さんが、兄の真田信之を大泉洋さんが演じ、きょうだいの姉に木村佳乃さんが配される旨がオープンとなった。


 去年の段階から動き始めていたはずなのだが、ひふみ企画も上田競馬場も対応にわたわたしているらしい。


 対して、いろはグループは、競馬場の後背地となる川原の整備を市に提案したとのことだ。ロケ地としての使用を促すつもりのようだが、どうなるだろう。真田丸でもそこに作ってくれれば、そのまま観光施設に転用できるのだけれど、それは望み過ぎか。


 いずれにしても、上田城や各種真田関連施設と連携を取りつつ、有効な手立てを打っていってほしいものである。


 できれば……、再現した真田丸を併設した真田記念館を作って、真田騎馬武者隊の拠点となれば最高の展開なのだが、まあ、あまり深入りはせずに、現地の面々に任せるとしよう。



 今年の欧州遠征は、去年に続いてランカヤタガラスが向かうことになった。


 前年は長距離のカップ三冠を3戦して8着、5着、3着という結果に終わっていた。国内では、ステイヤーズステークス4着、ダイヤモンドステークス3着、春の天皇賞5着なので、一般の競馬ファン目線では残念な成績だろうが、わりと稼いでくれている状態である。


 欧州への芝長距離遠征は、参加することに意義があるのも確かなので、期待しすぎずに送り出すとしよう。


 並行して、アメリカにはタイムパラドクス産駒で、母親にタップダンスシティ産駒のサクサクシュートを持つ牝馬、ナツヘノトビラが向かうことになった。中央の仁科調教師が毎年のように海外遠征しているのに触発されての、ザクくんからのリクエストによるものである。


 こちらは、繁殖入りさせるのは間違いないので、無理めなところを狙ってもよいのだが、手堅いレース選択となりそうだった。


 二歳馬となったランカルクシオンは、ザクくんの見立てでも芝ダート両用とのことだった。仕上がりもそこそこ早そうなので、振り出しは中央の仁科厩舎からと決まった。


 このランカルクシオンは、タンホイザーゲート経由でマチカゼタンホイザ、ノーザントーストの血を引く存在なので、できれば血を繋げたいところとなる。母親のサクサクギンノスズはシルバーチャーミー産駒で、母の母は初期のメルジョージ産駒のランカジョーという血統だった。


 競合馬が揃わないうちに、実績を稼げるとよいのだけれど。




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