【平成二十六年(2014年)】


【平成二十六年(2014年)四月】


 この春からの新種牡馬、キングオブクールのお相手には、因縁あるランカシュヴァルツも含まれていた。結局、両馬とも前年の春の天皇賞が最後のレースとなっている。サンデーサイレントが父系の三代前にいる配合は、爛柯牧場ではめずらしい。


 樹理の配合診断的には、抜群ではないけれど、よい部類とのことだった。両者の能力を引き継いでくれれば、ランカフェリクスとは別の意味で、この牧場の象徴的な配合となりそうでもある。まあ、無事に受胎、出産してからの話だが。


 期待馬であるのに種付けが苦手だったり、受胎率が低かったりというのは、馬産の世界ではままあることとなる。血脈の引き継ぎは、簡単な話ではないのだった。


 その他の生産状況としては、「爛柯牧場での有望馬は奇数年にしか誕生しない説」を強めるように、有望級の馬は生まれてくれなかった。


 去年の種付けシーズンを終え、夏に死去したカイトウテイオーのラストクロップからは、事故死したカエサルの全弟も含めて、美冬が光を見出した馬はいない。


 カエサルを産んだランカモンブランには、その後もずっとテイオーをつけてきたのだが、光を纏った産駒はカエサルだけだった。樹理に問うても、いい馬が出るとは考えづらいと言うから、競馬の配合に絶対の正解はないのだろう。再現性も、取り合わせでだいぶ変わるものと思われた。


 幸いにして、無事に種牡馬入りしてくれたルンルンナイトは残ったわけだが、期待値はそれほど高くない。ただ、樹理からもなるべく候補に加えてみてくれるとの話はもらっていた。




 一歳を迎えた去年の有望馬のうち、ランカフェリクスからマチカゼフクキタルの血を継ぐ牡馬は、フォルトゥナと名付けられた。芝向きで適距離は中距離からクラシックあたりと予想されるが、どういう未来を辿るだろう。芝馬となれば、中央一択となる。そこも、ダート競馬のような多様性がほしいところではあるのだが。


 タンホイザーゲートの息子は、ルクシオンとの幼名がつけられている。芝ダート両用なのだが、爛柯牧場の生産馬にはめずらしく、マイルかそれ以下の距離向きではないかとの話になっている。そのあたりは、入厩前にザクくんに実地で試してもらってもいいかもしれない。


 抜群ではない芝ダート両用馬ならば、振り出しは地方とする手もある。あるいは、仕上がりが早そうなら二歳戦は中央で、強豪が揃う頃に地方に転出して機会を窺うのもありだろう。ノーザントースト系の継承者候補としては、箔付けをしておいて損はないのだった。


 ハービンガーズの牝馬は、父親の先駆者との名と、ソッカーボーイ牝馬のランカナデシコからサクサクドリブルへと継承されてきたサッカー系を絡めて、キックオフとの名付けが予定されている。

 


 現役馬では、岩手競馬で活動しているルンルンマモリフダが、気性難で苦しんでいるようだ。気性難と言うよりも、父親のファイトエンブレム譲りの、嫌なことがあれば梃子でも動かない気質に調教師さんが手を焼いているらしい。


 朱雀野厩舎や仁科厩舎ならどうにかできていたとの確証はないが、実力が発揮できていない面はありそうだ。それでも岩手の重賞は幾つも取っているので、能力の高さは窺えた。


 その他では、タイムパラドクス産駒のナツヘノトビラも、上田競馬中心に勝ち星を積み上げていた。ザクくん……、朱雀野調教師は中央の仁科師の影響を受けてか、無理めな挑戦は控えるようになってきつつある。特にそう求めているわけでもないのだけれど。


 プラチナアリュール産駒でルンルンオペレッタの娘であるランカリープは前年の3歳のダート交流戦線で活躍してくれていたのだが、年明けの交流重賞で競走を中止した他の馬に進路を塞がれて転倒してしまった。復帰までに長い時間がかかるとの診断が出たために、引退して繁殖入りしている。


 交流の牝馬重賞を複数取り、牡牝混合のGIでも好走していたからには、実力は間違いないだろう。タイムパラドクスとの配合では、どんな馬が出るだろうか。両親の競争能力が高くても、生まれてくる仔の能力が高いとは限らないのが、競馬の面白さであり、難しさでもある。




 そして、イニシアル社……、新生ひふみの上場計画が持ち上がっているそうだ。ワンツースリーと改称されて上場廃止に至った旧ひふみとは別会社なので、再上場ではないわけだけれど、リベンジなのは確かである。


 やるからには、倍返しだっ、となってほしいものである。……前年のドラマ「半沢直樹」で出てきた、賞味期限切れの流行語ではあるが。


 今回は、天元財団、ひふみ企画とも出資をすることになりそうだ。


 ひふみ企画の業績は右肩上がりで、上田、高崎、宇都宮の仕事に、南関と中央関連、それに他の公営競技への展開も行われている。


 そして、競走馬を保有してきた流れで、一口馬主クラブの運営に参入しようかとの話が持ち上がっていた。一時期、新規参入は難しいとの話もあったようだが、少し方針が変わってきているらしい。


 一方のイニシアルの方は、動画配信絡みの事業に加え、かつてワンツースリーが抱えたままで沈んでいったネット広告事業での失地回復を図っている。特に競馬関連については、勝手知ったる部分であるので、だいぶ挽回してきているらしい。


 競馬以外の公営競技への展開も画策しているらしいが、さてどうなるだろうか。



 このところ美春がお気に入りな歌は、この春に公開になった「アナと雪の女王」のレット・イット・ゴーと、妖怪ウオッチのゲラゲラポーのうたである。どちらもまったく見ていないのに、曲に惹きつけられて受容した形となっている。


 片言を喋り始めてそれほどの時間は経っていないのだが、なにやら口ずさんでいるから不思議である。いや、耳から覚えるのだとしたら、むしろ自然なことなのだろうか。


 高い高いや低い低いもお気に入りなのだが、動作のマネが彼女の中でブームになっているようで、おかしなポーズを取るように要求される場面が多い。


 ただ、簡単にできるポーズでは物足りないようなのに、再現できないと自ら判定すると泣き出してしまうので、なかなかに難しい選択を迫られることになる。


 楽しいからいいのだけれど、あまりに付き合い過ぎて、美冬からジト目を向けられてしまう場面もあった。確かに、過度に従いすぎるのも情操教育的に問題なのかもしれない。




 世界に目を向けると、クリミア半島での紛争が微妙な展開を見せている。ロシアとウクライナは、東西冷戦の頃にはソビエト連邦として同じ国として扱われていたのだが、東西冷戦の終結後に関係性はだいぶ様変わりしていた。


 かつてのソビエト連邦の影響力とは比べるべくもないけれど、ロシアと中国がこのまま押し込まれたままで済むかどうかは不明である。それは、平成の最終盤でもそうだったわけだが。


 もちろん、ロシアと欧州のせめぎあいのみならず、中東やアフリカでも紛争は幾つも発生している。アジアでも、武力衝突未満の動きは見受けられた。


 欧米と日本に視点を固定させれば、世界が平和であるように感じられてしまうが、安心できるような状況でもない。


 個人的には、世界は平和であってほしい。前世の記憶によれば、平成の間は少なくとも大きな破綻はなかったわけだが、令和の世はどうなるのだろう? おそらく美春が長い時間を過ごす時代だけに、穏やかであってくれることを切に願うしかなかった。



 海外の政治情勢も気になるが、海外遠征も継続しようとの話になっている。正直な話、よほどの高額レースでもなければ優勝できても経費の方が高く付くのだが、せっかく生まれた流れでもある。


 その年の芝長距離の代表選手を欧州に送り込もうとの話の中で、今年はソッカーボーイ産駒のランカヤタガラスが向かうことになっていた。


 ヨーロッパでも長距離路線の頽勢は早足で、障害レースという文化があってもなお、非主流派状態となっている。それだけに、日本から遠征して盛り上げるのには一定の意味があると思える。その観点からは、必ずしも勝ち負けができる馬でなくてもいいのである。


 上田競馬でダートの長距離戦は設定しているものの、賞金レベルは高いものではないし、ダートがこなせる馬ばかりでもない。そう考えれば、欧州遠征を例年のこととしてしまえば、天皇賞・春からステイヤーズステークスまでの時間の使い方として有効になると思うのだが……、まあ、無理が出るようなら再検討するとしよう。



【平成二十六年(2014年)夏】


 親娘三人での上田への里帰りは、毎度のことながら大騒ぎとなる。


 美春だけでも両親が卒倒しそうな状態なのに、雅也がことねんを連れてきているのだから、お祭り騒ぎとなるのは無理もない。我が家だけでなく、朱雀野厩舎や関係各所でもにぎやかな展開となるのが通例だった。


 いろはフーズの基幹店で、相変わらず見事なランチを堪能した流れで散策していると、警笛で呼び止められた。制服姿のその人物は、なつかしい駐在さんである。


「ひさしぶり!」


「よお、競馬を教えてくれてた坊主が、今や上田競馬の影のドンなんだってなあ」


「いやいや、そんな人聞きの悪い」


「まあ、悪い話じゃないさ。……そっちは、もしや娘さんか?」


「うん。ほーら、美春、おまわりさんだよ」


 だー、と手を伸ばすからには、警察を怖がるとの感覚はまだ生まれていないようだ。ずっとそうであってほしいものである。


「じゃあ、そっちが遥歌さんの妹の……」


「美冬です。おひさしぶりです。その節には、とてもお世話になりました」


「いやいや、あれもちょっと、若気の至りでなあ」


 この警察官が、暴力団絡みの借金取りへの返済に同席してくれたのは助かったが、どうもやや問題となったらしい。まあ、私腹を肥やしたわけではなかったので、派手な話とはならずに済んだのだろう。


「子どもは可愛いよなあ」


「ん? もしかして、駐在さんにも家族が?」


「ああ、実はそこに……」


「暮空、時雨里、ひさしぶりね」


「トッキー先生っ」


 声を上げた美冬が、駆け寄って女性の手を取る。その動きは、彼女にしてはめずらしいものに思えた。取り残された美春が、やや頬を膨らませて俺の指を握る。


 中学で担任だった土岐先生には、俺も世話になったが、美冬の方が格段になついていた。今にして思えば、母親との不仲絡みの悩みを打ち明けられる大人の女性は、トッキーの他にはいなかったのかもしれない。


 ほとんど変わらないように見えるその人物は、俺の方に訝るような視線を向けた。


「あんたたちが夫婦になるとはねえ。まさかと言うべきか、やっぱりなのか」


 まあ、特殊な関係性ではあったのだろう。駐在さんとトッキーの取り合わせにも意外性があり、おたがいさまという気もしているが、上田の外れに根を張る社会人の男女だと考えると、むしろ自然なのかもしれない。そして、警察官夫婦を駐在とするとの話も、確定事項ではなかったようだ。


「ほら、美春。こちらにごあいさつを」


「だぁれ?」


「母さんと父さんの恩師……、お世話になった学校の先生なんだ」


「しぇんしぇー。……ざっくん?」


「いやいや、しぇんしぇーだけど、朱雀野先生とは別人でね」


「おうまさん?」


「いや、この人はお馬の調教師でもなくてだね」


 そこまで話が進んだところで、トッキーが吹き出した。


「時雨里が父親をしている様を目にする日が来るとはな。そして、理屈っぽいところに、納得しないと梃子でも動かないところとか、お前達の子だよ」


「いや、それは……」


 美冬はやや不満げではあるが、確かに指摘された傾向は彼女の中に見受けられる。トッキーは美春の前まで進んで腰を屈めた。


「はじめまして。土岐つばさです。ご両親……、美春ちゃんのお父さん、お母さんのお友だちです。よろしくね」


「ん、よろしゅくねん」


 微笑ましい交流の背後で、駐在さんは俺におすすめの馬を聞いてきていた。まあ、人格も関係性もそう容易くは変わらないよな。




 後日の訪問を約して、俺たちは上田競馬場へと赴いた。おやつはそちらでスムージーパフェをいただく予定である。


 上田競馬場の売上は上向いているが、特に平日は地域の人たちにとっては散策の場となりつつあった。場外機能は一部に限定され、イベントでもなければ穏やかな空気が漂うことになる。


 上田競馬場のPR予算で運営されている真田の騎馬隊は、すっかり定着してきていた。最近では本馬場入場を赤備えの騎馬三騎が先導し、昼休みには斥候相当の騎馬がコースパトロールを行うのが通例となっているという。


 今年の五月に、二年後の大河ドラマが真田三代を題材にした「真田丸」となることが発表されている。どう絡むべきかは、考えていく必要があるだろう。


 海外観光客対応としては、英語や中国語でのメニュー、案内メモの作成に加えて、サービス業の従事者の会話習得への補助金もありかもしれない。


 と、そこにヤスさんがやってきた。来訪中だった北海道で助けに来てくれて……、タロエモンをぼこぼこにしていた際からのひさびさの再会となる。


「義兄さん、ひさしぶり」


 俺の呼びかけに、創始会の魂を引き継ぐ存在は情けなさげな表情を浮かべた。


「勘弁してくれ。美冬嬢に言われるならともかく、なんでお前にまで」


「それは失礼。でも、美春にとっては伯父さんだわなあ。ほーら、おじさんでしゅよー」


「はじめまって」


「おう、よく来てくれたな。会えてうれしいぞ」


「あい」


 立ち上がったヤスさんは、ニヤつく俺に一瞥をくれて吐き捨てた。


「お前だってもうすぐおじさんだぞ」


「まあ、それは別に……」


 前世で年若の頃からの経験があるので、おじさん扱いに抵抗はないのだった。




 女性陣がスムージーパフェの物色に向かうと、自然と仕事の話になった。基本的には、上田側との窓口はひふみ企画に任せているが、たまに大本の方針を確認し合うのも有効である。そして、今回は新規の案件が生じていた。


「馬券会社の話は聞いた。本当にいろはでやっていいのか?」


「他に頼める人がいなくってさ」


 孝志郎と樹理は、統計分析による予想を踏まえた馬券の自動投票システムの開発は、興味深くやってくれそうなのだが、実際に馬券を転がして資金を増やしていく工程は、二人に合う役回りではない。


 そう考えると、ヤスさんとその一派が適任と思われるのだった。


「うまく回ったとして、その金をどこに使うべきかな」


「経路はどうであれ、上田が潤えばなんでもいいんだけどな。……身内で配分するのには多すぎる分は、財団でも作る? 育英とか、文化事業とか」


「土地にはいろはの出自を知る者も多い。それを理由に敬遠されることを考えると、うまくないだろうな」


「なるほどね。それなら、天元財団の支部にするとか? 資金提供して、上田支部を作ってもらうのはありかもね」


「設立に遥歌が関わったんだったか……。だが、あいつは日高や上田にはこだわらないんじゃないのか」


「そうかもね。それは、二人で相談してよ」


 そこまで話が進んだところで、スムージーパフェが持ち込まれた。ヤスさんと俺の分も用意されていたので、遠慮なくいただくとしよう。


「競馬場グルメ計画は、順調みたいだね」


「ああ。高崎競馬場、宇都宮競馬場でも展開している。それぞれ、地場の企業も頑張ってくれているので、そちらも誘致する感じだな。いくつかをセット売りにして、他の公営競技施設や、イベント会場なんかにも進出したい」


「期間限定出店とかでもいいかもね。なんなら、中央でも……」


「中央では、売り上げも限られるだろうし、真似されるリスクもあるからな。ひとまずは、北関東までにしておこうかと考えている」


「確かに。どうしても、中央から金をむしり取ろうとの発想になっちゃうんだよね」


「その方向性自体は間違ってないさ」


 いずれにしても、平時の品揃えをよそに出しても恥ずかしくない状態まで持ち込めたのはなによりである。


 静内産の海産物の活用は進んでおり、いろはフーズの海鮮居酒屋業態も好評で、高崎、宇都宮にも開店する話になっているそうだ。故郷的な存在同士が結びついてくれるのは、ありがたい話である。逆に、長野の果物なども日高に供給する流れとなっていた。


 いろは系ではその他に、廃業することになった宿屋を譲り受けて、食事を売りにした高級宿屋を計画中だそうだ。平成末期には、空前の海外観光客の流入が生じるはずで、狙い通りに上田の集客力強化が進めば、大外れはしないだろう。


 よほどの不測の事態が生じない限り。




 美冬が娘を連れて散歩に出たところで、俺はヤスさんとおでんをつつき始めた。昼から冷酒を煽るいろはグループの元締めは、まったく乱れる様子がない。おでん屋の女将さんに訊いたら、日本酒を水のように扱うのはいつものことらしい。


「そういえば、制作会社はどんな感じ? タレント養成にも進出するみたいな話だったけど」


「競馬関連の番組は普通にこなせるようになって、他のジャンルにも進出しようとしている。ユアチューブ向けも並行しているが、現状ではテレビ番組の方が主だな。長野と北関東は、地元の地上波は昼がわりとゆるゆるでな」


 聞けば、午後の時間帯は通販番組で埋まっているケースが多いのだそうだ。テレビ局としては、番組の提供を受けて、そのまま電波に乗せれば広告料が入る、ハズレのない仕事なわけだ。それだけに、あるレベルの内容を一社提供で提案できれば、番組枠の確保が見込めるかもしれない。CM枠の管理をひふみ企画で担当するのもありだろう。


「なるほどねえ。地元タレントさんの確保はできてるの? ことねんの後継的なユアチューバーは欲しいよね」


「競馬やグルメ系のリポーターは何人か確保したが、若手も欲しいし、幅も広げたいな」


「なら、オーディション番組とかやっちゃう? いっそ、ローカルアイドルでもいいけど」


「それは……、東京でやるのと比べると、ハンデが激しすぎないか?」


「正攻法ではそうだけど、競馬場のキャンペーンに噛ませて、ミニライブとかやるのもありかも。上田競馬場は平日はイベントがないわけだから、毎週金曜日に会いに行けるとか」


「AKBみたいに、48人揃えるのか?」


「いやいや、あの方式だと、ものすごく売れても一人あたりの実入りは少なくなってるだろうから、オススメしないな。それくらいなら、上田と高崎、宇都宮でソロか数人ユニットでの代表を作って、対抗戦的にやるとか」


「お前は、ホントに対立構造ばっかりだなあ。有効なのは認めるが。武将隊とのコラボも踏まえると、確かに試してみてもいいかもな」


「各競馬場でプロモーション予算が確保できる頃だろうから、提案してみてもいいかもね」


「それは、ひふみ企画から持ち込ませろよ」


「そっか、その方が話が早いか」


 こんにゃく串にかじりついたヤスさんが、また話を向けてきた。


「他は、なんかないのか。遥歌が暇みたいで、なにか検討するネタでも用意しないとどやされそうだ」


 遥歌さんは切迫早産気味で、予定日よりもしばらく前から、入院しての安静を求められているらしい。本人の元気さとは関係しないのか。


「そうだねえ……。サマーウォーズに続く、ご当地巡礼ネタがほしいかなあ。真田の大河に合わせて、競馬場の周りに武家屋敷や砦でも作って、ロケを誘致するとか? 真田丸を再現しちゃうのもいいかも」


「ほほう……。あっちの、川原の辺りなら検討の余地はありそうだな。真田の騎馬隊も全隊出動の機会はそうはなくてな。それを絡めるのもいいかもしれない」


「だね。それこそユアチューブで配信とかに向くのかも」


「だが、歴史ものだけじゃ弱いだろう」


「うーん、じゃあ、上田を舞台にした物語を生み出すとか? 小説賞とか、マンガ賞とか作っちゃってさ」


「上田七夕文学賞の散文版か」


 散文とはまた、レトロな表現である。実は、文学少年だった過去とかあるのだろうか。上田七夕文学賞とは、俳句、短歌、自由詩を対象とした文学賞である。


 話を詰めていくと、マンガはちょっとなあ、などと抵抗感を示していたが、実現しそうならそこはねじ込ませてもらうとしよう。マンガの方が、映像化されやすいのは確かなのだから。


「コンテストとして考えれば、グルメコンテストとかも含めて、いろいろ試してみて当たりを探すのでよいのかもね。それを番組作りに展開させていけば」


「なるほどな。……それだけだと、遥歌の検討はそんなにかからない。他にはなにかないか」


「そうそう出てこないって」


 そうは言いながらも、思いついたらメッセージを入れるとの約束を交わす羽目になったのだった。



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